「子どもをつい叱ってしまうクセ」を変えるには? 意識するだけで誰でもできる予防法

村中直人

子どもをつい叱ってしまうことはありませんか?
叱るような事態は、事前の工夫で予防することができるそうです。何を意識すれば「叱る」を手放せるのでしょうか。

臨床心理士の村中直人氏と、元横浜創英中学・高等学校校長/元東京都千代田区立麹町中学校校長の工藤勇一氏の対話を『「叱れば人は育つ」は幻想』から紹介します。

※本稿は、村中直人著『「叱れば人は育つ」は幻想』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

予測力を高めると「叱る」は減らせる

【村中】「叱る」を手放すためにできることで、しかも意識するだけで誰でもできるようになることに「予測力を高める」ことがあると思っています。

「叱る」というのは、トラブルが起きてからやることです。事が起きてからいろいろ言うのではなくて、「こういうときにはこういうことが起こりそう」とあらかじめ予測して、事前に注意喚起するとか対処法を工夫しておくことで、叱るような事態を予防することができます。

トラブルが起きてからだと、焦ったりパニックになったりしてつい叱ってしまいやすいのですが、事前に予測できていれば気持ちに余裕ができます。

問題への対応がうまくいけば成功体験として次に活かすことができますし、仮にうまくいかなくても、何がいけなかったのかを整理して次の予測の精度を高めるための材料にすればいいわけです。

【工藤】そうですね、予測力は大事です。想像力を働かせられるようになるということですから。予測精度が上がると、ストレスも減らせます。

「叱る」よりもはるかに効果的なサポート

【村中】ええ。もう一つ、これも事前の工夫としてできることがあります。

私は発達障害とカテゴライズされることの多い「神経学的に少数派の人たち(ニューロマイノリティ)」への支援や、その支援者養成も行っているのですが、この領域では、不適切行動が起きる背景には「未学習」か「誤学習」、どちらかの状況があると考えます。

未学習とは、その場でどう振る舞えばいいのかを「まだ知らない」、あるいは教えられたけれども実践できるようになるまでには「身についていない」状態です。

誤学習には、「不適切な振る舞いを学習している」、あるいは「不適切な振る舞いをすることに何らかのメリットがあると感じて、わざとそうしている」場合などがあります。

未学習であるなら、どうするのがいいのかを説明し、そのやり方を身につける手伝いをしてあげればいい。誤学習であるなら、誤って身につけてしまった方法を他の方法に置き換える手伝いや、適切な行動をすることでより大きなメリットがあることを教えてあげればいい。こういう考え方をします。

つい叱ってしまう状況も、「これは未学習だからできないのではないか?」とか、「これは誤学習のために、やろうとしないのかもしれない」と考えて、サポートすればいいのです。意識と行動を変えるのに「叱る」よりもはるかに効果的です。

【工藤】大人であれ、子どもであれ、課題を解決する力をつけるには経験の積み重ねと訓練が必要です。何度も間違えたり失敗したりしながら、試行錯誤してその力を獲得していけばいいんです。「間違えちゃいけない」「失敗しちゃいけない」なんて思っていたら、何も身につきませんよ。

「叱れば人は育つ」は幻想

「叱れば人は育つ」は幻想』(村中直人著/PHP研究所)

「叱らなければ人は育たない」という呪いから、なぜ抜け出せない? 各界の識者との議論から〈叱る依存〉社会からの脱却法を模索する。