親になったらどんな責任がある? 切っても切れない親子の縁

遠藤研一郎
2024.12.23 10:21 2025.01.03 11:50

遊園地で遊ぶ家族

子どもはたくさんほしいけれど、そんなにたくさん授かっても責任が持てないかも…。行きたい学校に通わせられないかもしれない。万が一子どもがまわりに迷惑をかけたら…?
親になるときは色々悩むことも多いでしょう。

親の責任とはなんでしょうか? 離婚したあとの親権や、養育する義務はどうなるのでしょうか?
親と子どもの法的な関係を、中央大学法学部教授の遠藤研一郎著『マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話』から紹介します。

※本稿は、遠藤研一郎著『マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話』(大和書房)から一部抜粋・編集したものです。

親になる責任ってなんだろう

マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話

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マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話
【マンガ】石山さやか

読者のみなさんにとって、「親」って、どんな存在ですか?

そして、ご自身が「親」である場合、「子」とはどんな関係ですか?

ミズキさんは、子どもを3人ほしいと考えているみたいですね。みなさんの感覚だと、これは多いでしょうか。それとも少ないでしょうか。

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「国立社会保障・人口問題研究所」の調査によると、夫婦に対しておこなったアンケートで、「理想の子どもの数」と「実際にもつつもりの子どもの数(予定こども数)」は、最近どんどん減っているそうです。

平成28年の調査では、「予定こども数」の平均は、2.01人です(※1)。ちなみに、3人以上子どもをもつつもりと答えたのは、全体の 23%。この統計からすると、ミズキさんは、子どもをたくさんほしい部類に入ることになるかもしれませんね。

ちなみに、子どもをもちたい理由の一番は、男女とも、「子どもがいると生活が楽しく豊かになる」というものだそうです。そして二番目は、男性では、「結婚して子どもをもつことは自然」。これに対して女性では、「好きな人の子どもをもちたい」となっています。

このあたり、男女間で、少し意識にちがいがあるかもしれませんね。

(※1)「平均予定子ども数」は、2021年度でも「2.01人」であり、変化はありません。

生まれてすぐにはじまる法律関係

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さて、子どもが生まれると、「親子」という関係が生まれます。これは、私たちみんなが、この世に生を受けた瞬間からはじまるものです。

そして、この関係が形作られるために、当事者の意思は無関係。親が子を選ぶことはありませんし、子が親を選ぶこともありませんね。最初から自然に結びつけられているものです。

もしかしたら、「こっちの大人とこっちの子どもをマッチングさせたほうが、相性がいいんじゃない?」なんてこともあるかもし れません。でも、もちろんそんなやりとりはなく、ごく自然に、親は生まれてきた子をわが子と受け入れ、生まれてきた子もわが親に身をゆだねます。

では、法律的にはどうでしょうか。

子どもが生まれると、親は、その子に名前をつけて、14日以内に出生届を出すことで、親の戸籍に子どもが登録されます(戸籍法 49条、52条)。

それ以降、法的な親子関係が形づくられ、身分的な結びつきが生まれます。良くも悪くも、親と子は、法的に強く結びつくんです。

親権とは子どものためのもの

ところで、「親と子が法的に強く結びつく」って、具体的にどういうことでしょう?

ここでまずお話ししておきたいのは、「親権」についてです。子どもは、“生まれてから成年年齢に達するまで、ふつうは、父母の「親権」のもとで育つ“ことになります。民法には下段のような条文があります。

これは、子どもの成長を支え、社会人として育てるために、親権者に与えられた権利・義務をあらわしています。

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“親権“というと、語感として「親の権利」のように感じられるかもしれませんね。たしかに昔は、とくに父親が子どもを権力的に支配し、子どもはそれに服従する関係だと考えられていました。

でも次第に、「親の義務」という側面が強調されるようになりました。

いまでは、親権は、「子の福祉」という観点から、“親は子どもに生命を直接与えた者として、子どもを保護したり養育したりする義務を負っている“という面が強調されるようになっています。親になるということは、それだけ責任重大なのです。

親権の内容には、①子どもの居所を指定して、そこに居住させる(民法822条)、②子どもに職業を営む許可を与え、あるいは必要に応じて許可を取消す(民法823条)、などが含まれます。子どもは広く親の庇護のもとで育つ、ということですね。

離婚したあと親権はどうなる?

ところで、親権は、両親(父母)が結婚をしているあいだは、両方で親権を共同で行使することになっていますが(いわゆる「共同親権」)、父母が離婚するとどうなるんでしょうか?

日本の場合は、離婚のときに、夫婦のどちらかを親権者として定めることになっています。いわゆる「単独親権」です(民法819条1項、2項)。

夫婦のどちらでも、親権者になることができます。どちらが親権者になるかは、ふつうは夫婦間の話し合いによって決まります。でも、親権をめぐって夫婦間の話し合いでは折り合いがつかず、裁判所(調停や裁判)で争われることもあります。ちなみに、統計的には母親が親権をもつことが多いようですね。

離婚後、子どもは、親権をもつ親のもとで暮らすことになりますが、じゃあ、親権をもたなかった親との親子関係はどうなるんでしょうか?

答えは、夫婦が離婚をしても、親子は親子。親子関係は切れません。ですから、親権をもたない親であっても、子どもを養育する義務は残ります。自分の生活レベルと同程度の生活を、子どもにも与える義務があるんです。

ただ実際には、ちゃんと養育費が支払われないケースも少なくないことが、大きな問題となっています。

「お母さん、私の貯金いくらある!?」

そうそう。親子関係に関連して、「子どもの財産管理」についても触れておきましょう。

たとえば未成年者でも、ときに大きな財産を手に入れることがありますが、社会経験や判断能力が未成熟な子どもだと、財産をちゃんと管理することができないかもしれませんよね。

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これについて、上段の条文のように、親権者は子の財産を管理して、ときにはその子に代わっていろいろな契約などを結ぶこともできるものとされています。

もちろん、いくら親子であっても、子の財産=親の財産ではないことには注意が必要です。親権者は、自分の財産と混ざらないよう にきちんと分けて財産管理をしなければいけません。

なお、ここでの「財産管理」には、いろんなものが含まれます。ときには、子どもの名義の土地を売却したりすることもできるとされています。

ただし、親の好きなように何をやってもいい! というわけではないんです。もしちゃんと管理できないのであれば、親子とはいえ、子に対して損害賠償義務が生じる可能性もありますよ。また、適切な財産管理が期待できないような親であれば、財産管理権が喪失することもあります。

ときには、親権者と子どもとのあいだで、“親権者にとっては利益になるけど、子にとっては不利益になる“ようなことも起こります。たとえば、「親の借金のために子の財産を担保に差し出す」というようなことです。

このように、親と子の利益が相反する場合、親は子の代理人として行為をしてはいけません。家庭裁判所で、特別代理人の選任をしてもらわなければいけないのです(民法826条)。

親のいない子どもを守る

ところで、「親権者がいない子ども」も、世の中にはいますよね。たとえば、子どものときにご両親が不慮の事故で亡くなってしまったケースなどです。

あるいは、虐待をきっかけに親の親権が喪失することもあります。“適切な親権を行使することが期待できない“のですから、その子のためを考えたら、しかたありません。

そのような子どもたちは、どうなるのでしょうか?

こういった場合、親の代わりになってその子を監護・養育したり、財産管理をしたりするために、「未成年後見人」という人が家庭裁判所で選ばれることがあります(民法840条)。

未成年後見人には、親権と同じような権限があって、義務も負います。子どもの身のまわりの面倒をみて、住む場所や進学先の学校を決めたりします。子どもの銀行口座の開設など、財産管理もします。

ひとつ、親権者と未成年後見人で大きくちがうのは、未成年後見人の場合、家庭裁判所 の監督を受けるという点です。なぜかというと、やはり「実の親」ではないため、子どもがいつのまにか未成年後見人の食い物にならないように、第三者がチェックする必要があるからです。未成年後見人は、就任中、定期的に家庭裁判所に報告をすることになっています。

「もう、あんたとは親子の縁を切る! 」

ここまで、親と子の関係について基本になるお話をしてきましたが、関係がうまくいっている親子ばかりではありませんよね。

折り合いが悪く、会えばしょっちゅうケンカばっかりしている親子もいます。小さいうちは親のいうことを聞いていた子どもも、自我が芽生え、経済力などがついて独り立ちするなかで、ミゾが生まれることだってあります。

場合によっては、「もう親子の縁を切りたい!」なんて言葉が出てくるくらい、激しいミゾができてしまうことも……。

では、本当に親子の縁を切ることなんてできるのでしょうか?

結論からいえば、日本には、親子の縁を切る制度は存在しません。

「養親」と「養子」の関係であれば「離縁」という制度がありますが、血のつながった親子関係は、たとえ成人しても、遠くに暮らしても、音信不通でも、絶縁状を書いても、少なくとも法的な身分関係はつながり続けます。親子関係は一生続くのです。

そういう意味でも、親子って、すこしやっかいかもしれませんね。

相続の世界の「廃除」

ただし、相続についていえば、「廃除」という制度があります。どんなものでしょうか?

そもそも親子というのは、血のつながりが強いこともあり、通常は親が亡くなれば子どもは相続人になるし、子どもが先に亡くなった場合には、親が相続人になることがあります。

でも、亡くなった人(被相続人)が生前、相続人から虐待を受けたり、重大な侮辱を受けたり、その他のいちじるしい非行が相続人にあったりしたときには、被相続人が家庭裁判所に、相続人の地位を奪うことを申し立てることができる制度があります。これが「相続人廃除」です。

ようは、「この人と親子関係があるけれど、私が死んだあとに私の遺産を相続させたくないから、相続人から外してほしい」という制度です。

手続きは、生前におこなうこともできますし、遺言によっておこなうこともできます(遺言の場合には、遺言執行者が廃除の手続きをします)。

ただ、家庭裁判所では、相続人廃除の判断はかなり慎重におこなわれます。廃除の対象となる相続人が異議を申し立てると、廃除が認められないケースも多く、実際に相続する権利が奪われるのは、まれだといわれています。

そういう意味でも、人生の最後の最後まで、なかなか親子関係というのは切り切れないものなのかもしれませんね。

遠藤研一郎

中央大学法学部長(2023年11月~)
中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了。2000年より岩手大学人文社会科学部講師、2002年より同大学助教授、2004年より獨協大学法学部助教授、2007年より中央大学法学部准教授を経て、2009年より中央大学法学部教授。

マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話

マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話』(遠藤研一郎著/大和書房)

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