元音大生がなぜ算数教室を設立?『天才!ヒマつぶしドリル』の作者が振り返る、寄り道多き人生
「体は大人で、心は子どもなんです」と笑顔で語る、『天才!!ヒマつぶしドリル』シリーズ(Gakken)の著者・田邉亨先生。年中から小学生までの算数好きな子どものための塾「りんご塾」の塾長を務められています。音楽の道から教育者へと転身した経緯や、独自の教育観について語っていただきました。
算数好きによる、算数好きのための塾
──田邉亨先生が塾長をされている「りんご塾」はどんな塾なんでしょうか?
年中から小学生までの、算数が好きなお子さんのための算数教室です。
算数オリンピックという大会への出場を目指して、ゲームやスポーツを楽しむような感覚で学ぶことができます。
中学受験塾というよりは、その手前に通うような塾ですね。
──ご自身も、子どもの頃から算数がお好きだったのでしょうか?
小学校に入った時から、算数は結構得意でした。その分、学校での算数の授業が退屈だったんです。学校では授業で説明したことを、次の授業でまた復習したりしますよね。暇に感じてしまって、窓の外の景色を眺めていたのを覚えています。自分の能力にあわせてどんどん次に進めたらいいのに、と思っていました。
かつて、りんご塾に入りたいという小学生がいたんですけど、親御さんはびっくりしていて。「この子、家で算数がつまらないと言っているので、算数が嫌いだと思っていたんです」とおっしゃっていました。その子は、わかりきったことを授業でやるのが苦痛なだけで、本当は算数が好きだったんですね。
そういう子って、結構いると思うんです。りんご塾は、その子たちが自分のペースでどんどん先に進めるような塾にしようと思いました。
──りんご塾は、教材にパズルや迷路を使っているのも特徴的ですよね。
カリスマの先生も、そうでもない先生も、授業で教えていることは実は同じです。
いまいちな先生だから間違った数式を教えている、という事はあり得ないですよね。どちらも正しいことを教えていて、そこに差はないんです。
そこで僕は、問題をパズルや迷路に「翻訳」することにしたんです。
同じようなことをしている人はいないし、そうすると差が生まれますよね。
──その「翻訳」は、子ども心がわからないとできないように思います。
ぼくは逆コナンなんです。体は大人で、心は子どもなんです。(笑)
小学校3年生で物心ついた頃から、中身がさほど変わっていない。多少知識が付いたくらいで、考えることは一緒ですね。いつも小さい自分が頭の片隅にいるのを感じています。
音楽の道を志した過去も
──算数の専門家である田邉先生ですが、最初は音楽の道へ進まれたと聞きました。
中高生の頃、僕はギターを弾いて作詞作曲などをしていたんです。よく人前で歌ったりして、今考えると本当に恥ずかしいのですが。(笑)
高校2年の頃、モーツァルトを題材にした『アマデウス』という映画を観て、「かっこいい!」と感動したんです。「自分もモーツァルトになろう!」と音大を目指すことにしました。
無事に名古屋音楽大学の声楽科に入学したものの、そこで自分が音痴であることに気が付いて。(笑)
失った自信を何かで埋めて自分を保たねばと、大学をやめてブラジルに行くことに決めました。当時ワールドミュージックが流行っていて、ラテン系の音楽が好きだったので、そっちの方向を極めようとしたんですね。
しかし、いざブラジルに行ったら、本当に怖くて。
実弾が飛ぶこともあるし、経済も機能していない。サンパウロにある日本街の暗い雰囲気にも怯えてしまって。
ホテルで眠れぬ夜を過ごしていた時に、ふと「ここって日本の反対側なんだよな」と思ったら、帰りたくなってしまったんです。
しかし、「もう一生戻らない」と言って日本を経ったので、そのまま帰るのはかっこ悪いなと。
そこでたまたま道ゆく日本人を見かけて、声をかけてみたら、彼は大学生だったんです。「彼が大学に行けるなら自分も行ける」と思い、自分も大学を目指すことにしました。
これが、音大を中退し、ニューヨークの大学に入学した経緯です。結構めちゃくちゃですね。(笑)
──ご両親は何も言わず見守っていたのでしょうか?
そうですね。えらいですよね。なので僕も自分の子どもが「留学したい」と言ったら、ダメだとは言えませんね。(笑)
塾の原点となったアメリカでの学校生活
──アメリカでの大学生活はいかがでしたか?
日本の学校は、意見を言うと、先生からもクラスメイトからも「黙っていろ」という圧をかけられるので居心地が悪かったんです。でもアメリカは違って、授業で自分の意見を言うと、大変褒められるんですよね。
日本は数学のレベルが高いので、その知識や裏技を披露すると拍手喝采で。「先生と代われよ!」と、教壇に立たされたこともあり、何でもありだなと衝撃を受けました。日本でよく見る、授業の初めにみんなで挨拶するような風習もなかったですね。
帰国して塾を開くことになったときに、「アメリカの学校のような雰囲気でやろう」と決めました。
当時は時間割もなく、空いてる時間に来て好きなように勉強して、という塾にしていました。
今は僕一人でやっているわけではないので、スタイルは少しずつ変わってきましたけどね。一人だったら何をやっても怒られないので好き勝手出来ますが、そういうわけにはいきませんし。(笑)
でも、アメリカから学んだ自由な空気は、今も健在ですよ。
(取材・文:nobico編集部 中野セコリ)
『5教科の力がつく 天才!!ヒマつぶしドリル ちょっとやさしめ』(田邉亨著,伊豆見香苗イラスト/Gakken)
『5教科の力がつく 天才!!ヒマつぶしドリル ふつう』(田邉亨著,伊豆見香苗イラスト/Gakken)
楽しく遊んでいたら、いつの間にか算・国・理・社・英の力がついてしまうドリル。その確かな指導力で、公立の小学生に算数オリンピックの金メダルを受賞させるりんご塾。そこで子どもたちが学んでいるプリントを市販化。楽しくヒマつぶしして頭良くなろう!