性犯罪「危険なのは女の子だけ? 子どもも加害者に?」親子で知っておきたい“性被害の14の誤解“
子どもを守るために最も重要なのは、性被害に対する正しい認識。しかし、「性被害は知らない人から」「男の子は大丈夫」といった誤解がされやすいのも事実です。本記事では、子どもを守るために知っておくべき性被害に関する14の誤解を、児童性被害予防教育の専門家であるキンバリー・キングさんの著書よりご紹介します。
※本稿は、キンバリー・キング著『子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』(東洋館出版社)から一部抜粋・編集したものです。
子どもの性被害にまつわる14の誤解
※ 編注:本文中の数値はアメリカでの調査結果ですが、日本でも同様の傾向が示されています(監修 小宮信夫先生)。
誤解1:犯人は、見知らぬ男
いいえ、そうとは限りません。子どもの性被害の90パーセントは、家族や知人といった関係者からの加害によるものです(Finkelhor and Shattuck, 2012)。「知らない人とは話さない」。これは、すべての子どもに教えておくべき、重要なルールです。しかし一方で、「知らない人」の危険性ばかりが強調されている面があることは否めません。
誤解2:危険にさらされるのは、女の子
いいえ。女の子の4人に1人、男の子の6人に1人が、18歳になるまでの間に性的虐 待を受けています(Townsend, Rheingold, and Haviland, 2016)。
誤解3:被害にあったなら、本人から話があるはず
いいえ。大半の子は、被害について誰にも話しません。児童性被害のサバイバーのうち、被害を受けたことを大人に告げる子はたったの26パーセント。行政や関係機関への報告となると、その数字は12パーセントにまで下がります(Bottoms, Rudnick, and Epstein,2007; Lahtinen et al., 2018)。誰かに伝えることができた場合でも、そのタイミングは被害から時間が経過してからになることが珍しくありません(Bottoms, Rudnick, and Epstein, 2007)。
誤解4:先生なら、安心
いいえ。わたしも、子どもたちや保護者に対して、幼稚園・保育園や学校の先生は信頼できる大人である、と伝えていた時期があるのですが、これは、すべての先生に当てはまる法則ではありませんでした。先生になれば、多くの子どもとふれ合える立場、時間、機会を得られます。先生とは、子どもを狙う犯罪者にとっても魅力的な職業なのです。
誤解5:子どもが子どもに性加害することはない
いいえ。悲しいことですが、児童性被害の事例の40パーセントは、子どもから子ども への加害により起きています。加害者が主に狙うのは、自分より年下の子や自分より小柄な子です(Finkelhor and Shattuck, 2012)。被害者と加害者の双方が子どもであるこうしたケースは表面化しづらいことが多く、近年の研究では、子どもが加害者である割合はもっと高いのではないかとの見解も出されています(Gewirtz-Meydan and Finkelhor, 2020)。
誤解6:きょうだい間での性被害はありえない
いいえ。きょうだい間での性被害は、家庭内で起きる性被害としてはもっとも頻度が高く、その数は親から子への性被害の3倍ともいわれています(Krienert and Walsh, 2011)。きょうだい間での性被害の被害者を支援する非営利団体「 5 Waves」の共同設立者であり、自身も被害経験を持つ活動家のジェーン・エプスタインさんは、「きょうだい間での性被害については、口にすること自体をタブー視する傾向がいまだ非常に根強く、その被害はめったに表に出てきません」と述べています。
誤解7:性被害防止のための教育は、幼いころからおこなわなければ意味がない
いいえ。自分のからだの大切さと守り方を知ることは、何歳の子にとっても意味のあることです。その子が2歳でも、17歳でも。時期が早いに越したことはありませんが、だからといって、遅すぎるということもないのです。いつでも、いまがタイミングです。
誤解8:からだの安全についての本を読み聞かせていれば、性被害を防げる
いいえ。本が果たせる役割は、ほんの一部。それだけで十分というものではありません。関連本を何冊か読んであげれば、子どもは加害者から身を守れるようになるし、自分のからだを大切にできるようになる。そんなふうに考えているとしたら、それは大きな間違いです。子どもの性被害を防ぐためには、包括的な戦略のもと、各家庭の実情にあわせた「からだの安全を守るための行動計画」(第4章)を実行に移していく必要があります。
誤解9:ペアレンタルコントロールで、安全にインターネットを利用できる
いいえ。たとえペアレンタルコントロール(子どもが使用するデバイスに対し、利用制限をかける機能)がオンになっていても、インターネットは子どもにとって安全な場所ではありません。インターネット上には、子どもにとって不適切なコンテンツが無数に存在します。インターネットを利用する限り、そうしたコンテンツに遭遇する危険性を排除することはできません。その上、子どもたちには、目にしたものを無邪気に真似してしまう傾向があります。インターネットで見た行為や行動を、意味もわからないままに、ほかの子を相手に再現してしまう可能性もあるのです。
誤解10:スマートフォンは、子どもの安全確保に役立つ
残念ながら、そうとばかりは言えません。所在地の把握など、スマートフォンを子どもの安全確保に役立てているご家庭もあると思います。しかし基本的に、子どもにスマートフォンを持たせることは、子どもを狙ってインターネット上をうろつく犯罪者たちの眼前にその子を連れていくに等しいことなのです。スマートフォンの使用ルールも含めたオンラインセーフティについては、第6章で取り上げます。
誤解11:自分の子どもの写真なら、ネット上で公開しても問題はない
いいえ。大問題です。子どもの顔写真はもちろん、園名や学校名、居住エリアが推測される言葉や写真、位置情報など、個人の特定につながる情報をネット上で公開することは、子どもを危険にさらすも同然の行為であると認識してください。広報活動の一環として、自校の児童が写りこんだ写真をソーシャルメディアに投稿するケースもありますが、その場合も、保護者からの同意がない子の写真は使用できないことになっているはずです。同意書への記入を求められることがあれば、わたしなら間違いなく「許可しない」にチェックを入れます。園のロゴ入りで、位置情報つきの、かわいらしい集合写真。関係者の目にはほほえましいばかりのその1枚も、子どもを狙う犯罪者の目に入ったとたん、獲物として狙えるターゲットの居場所をくわしく知らせる案内状となってしまうのです。
どんなかたちであれ、いったん公開された写真には、悪意を持って利用される可能性がついて回ることになります。ダウンロード制限をかけておいたところで、スクリーンショットで保存されてしまうことは防げません。画像の加工だって簡単にできてしまうのです。
誤解12:親子ともに知り合いの家であれば、子どもを一人で遊びに行かせても大丈夫
いいえ。家族ぐるみのおつき合いがあるというだけでは、子どもを一人で遊びに行かせても安全、という保証にはなりません。自分の友人とはいえ、その親御さんが、子どもたちが遊んでいる間どの程度の見守りや声掛けをしてくれるのか、実際のところはわからないからです。子どものからだを守るということに、まったく無頓着な人が同居している可能性もあります
誤解13:うちの近所では、性犯罪は起こらない
いいえ。性加害者たちの辞書に、「例外」という項目はありません。どんな地域であっても、どんな家庭であっても、ここなら性被害が起きることはない、と断言することはできません。文化も、宗教も、社会経済的地位の高低も関係なく、性犯罪はどこでも起こる可能性があり、実際、日々起きています。それは、うちの近所でも起こりました。それは、わたしの身にも降りかかりました。皆さんの近所でも、起こる可能性があります。例外はないのです。受け入れがたい話かもしれません。でも、これが事実なのです。
誤解14:性教育とは、思春期の性の発達・生殖について教えることだ
これは、間違いだとは言いきれないのですが、正解とも言えません。性教育とは、それだけで完結するものではないからです。性教育の入り口は、からだの安全の守り方を知ることです。からだの各部位を正しい名称で呼ぶようにすること、「自分のからだは、自分のもの」という意識を持つこと。まずは、ここから始めていきましょう。次に、からだの部位の中でも、プライベートパーツ(水着で隠れる部分と口)には、ほかの部位とは違う特別なルールがあることを学びます。つづいて、「感情」「コミュニケーション」「同意」の三つに焦点を当て、学びを深めていきます。性行為そのものや生殖のしくみ、性的関係、性の多様性といったテーマに移っていくのは、そのあとです。
ちなみにこれは、「何歳になったら」というものでも、「何歳までに」というものでもありません。個人的には、親からそうした話を聞ける機会が、高校に上がる前にあったらよかったと振り返っていますが、それぞれのご家庭で、よい頃合い(親子双方の心の準備が整ったと感じられた時点)を見計ってください。
米国では、学校での性教育は、小学3年生か4年生から始まることが一般的です。つまり、それより年少の子どもに対する性教育は、親に委ねられているというのが現状なのです。本格的な性教育に先立つかたちで、からだの安全の守り方について教えておかなければならない理由は、ここにあります。
『子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』(キンバリー・キング 著, 栗田 佳代訳/東洋館出版社)
からだの安全絵本が全米ベストセラーとなった性被害予防専門家から、3歳〜10歳の子どもを育てる保護者へ
どんな状況であっても、被害者である子どものせいでは決してありません。
しかし、保護者が知識をつければつけるほど、子どもたちをより安全にすることができるのです。
子どもが性被害の危険に晒される可能性を最小限にするために、必要なこと全部を1冊にまとめました。