「グルーミング」って何? 性犯罪者が子どもに近づく巧妙な手口【前編】

キンバリー・キング
2025.02.06 11:09 2025.02.07 11:50

体育座りをする女の子

子どもの性被害を防ぐためには、加害者がどのようにターゲットに接近するのかを知ることが重要です。本記事では、「グルーミング」と呼ばれる功名な手口の特徴と対処法を、キンバリー・キングさんの著書より前編、後編に分けて紹介します。(本記事は前編です)

※本稿は、キンバリー・キング著『子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』(東洋館出版社)から一部抜粋・編集したものです。

「グルーミング」とは

「グルーミング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。この言葉には本来、「毛づ くろいする」「毛並みを整える」「手入れをする」といった意味がありますが、性犯罪における「グルーミング」は、加害者が被害者を手なづけるためにおこなう行為を指します。狙いを定めた子どもおよびその家族と関係を築くために、加害者は意図的かつ計画的に「グルーミング」を進めていきます。相手の心を巧みに操り、本人と家族の懐に入りこむことで、自らの目的を秘密裏に果たそうとするのです。

わたしが所属するダークネス・トゥ・ライトでは、グルーミングについて次のように説明しています。

加害者らは、実際の加害に及ぶ下準備として、被害児一家との関係を長い時間をかけて深めていき、お互いに尊重すべきものである境界線をゆっくりと踏み越えてくる。この流れは表面上、加害者と被害児(場合によっては、その子の世話をする立場にある大人たち)が徐々に打ち解けて親しくなっていくという、自然な過程に見えてしまうこともある。界隈で広く知られた人物、高い評価を受けている人物などによっておこなわれるグルーミングは特に見抜きづらく、被害児も周辺の大人たちも、加害者の思惑どおりに信頼を寄せてしまいやすい。

こうした相手の罠にはまらないためには、グルーミングについての理解を深めておくことが重要です。

グルーミングの手口(前編)

真剣な顔の子ども

ここからは、グルーミングのさまざまな手口を解説していきます。解説の中に出てくる言葉や行動を見聞きしたら、その人物に対して注意を怠らないようにしてください。

手口1:秘密を守らせる

性被害は、幾重にも重なった秘密に隠され、水面下で進行していきます。「これは、誰にも秘密だよ」といった言葉をかけてくる大人がいたら、それは大きな危険信号、「レッドフラッグ」です。

「このおやつのことは、誰にも秘密だよ。お夕飯の前に一緒にアイスクリームを食べちゃったって、ママには言わないでね」

こんな一見無害そうなやりとりから始めるのが手口です。小さな秘密、たわいない秘密を重ねていき、子どもが秘密を守れるという確信を得ると、犯罪者は、性加害を実行に移します。そして、その行為についても、これまで同様に秘密にするよう約束させるのです。この時点までに、被害者である子どもの側に罪と恥の意識が生じてしまい、本人が自ら口をつぐんでしまうケースもあります。

【対策】
「秘密は禁止」を家庭内のルールにします。幼いお子さんには、親に対して秘密を持たないと約束させてください。不思議に思って「どうして?」と質問してくる子もいるでしょう。簡潔な答えは「秘密は子どもにとって危険なものだから」「秘密がなければ、いつでもすぐに助けてあげられるから」です。

もう少ししっかり説明したい場合は、「世の中の大人はだいたいいい人だけれど、悪い大人というのもいるから」「そういう悪い大人が、子どもをだましたり、子どもに暴力をふるったりするために秘密を使うことがあるから」と伝えられるでしょう。

このとき、「秘密」と「サプライズ」の区別に迷う子も出てくるかもしれません。その場合は、こんなふうに教えてください。誰かを喜ばせ、幸せな気持ちにさせるために計画された隠しごとは「サプライズ」。早く明かして相手の喜ぶ顔が見たいと思うなら、それは「サプライズ」です。反対に、いつかバレたらと考えると気まずくなり、隠していることを後ろめたく感じるなら、その隠しごとは「秘密」です。

手口2:特別な友情関係にあると思いこませる

「同じものに興味がある」「共通の趣味がある」そんな切り口で子どもに近づき、「きみはほんとうにすごいね」「きみみたいな子はほかにいないよ」などと、特別扱いすること で、子どもの信頼を勝ち取ろうとします。共通の話題を楽しむ様子を見せながら、狙った 子どもの心を捉えていくのです。大人が、特定の子どもと「友達」になろうとしていた ら、厳重な警戒が必要です。

【対策】
子どもにふさわしいのはその子の年頃に合った友達であり、大人が持つべきは大人の友達です。このことを再認識し、お子さんにもそう言い聞かせてください。

手口3:二人きりの状況をつくる

これはもう、大きなレッドフラッグです!どんなかたちであれ、大人と子どもが二人きりになる状況は、安全とは言えません。それが宿泊を伴うものならなおさらです。合宿やサマーキャンプなど、着替えや寝泊まりを避けることができないイベントには、常にリスクが内在していることを心に留めてください。

日常生活の中でも、「二人きり」はつくれます。たとえば、習い事の先生が、レッスン後はお子さんをお宅まで車でお送りしますよ、と申し出てくれるようなことがあるかもしれません。このときお子さんが一人なら、車内の状況は「大人と子どもが二人きり」です。純粋な親切心からの提案かもしれませんが、お断りするのが無難な選択です。

もしお願いする場合は、「何かあったら訴えます」という感じのアピールをすることが大事です。その前提として、習い事の先生とのコミュニケーションを深めておくことも必要です。

【対策】
保護者が不在になる場面では、どんなときも「3人ルール」を徹底してください。子どもと大人が同席する際は、その場に必ず3人以上の人間がいるようにする、というルールです。3人の組み合わせについては、大人1人に子ども2人でも、大人2人に子ども1人でも構いません。

手口4:スキンシップで親愛の情を示す

頭をなでる、背中を優しくポンと叩く、さよならのあいさつと一緒にハグをする。親愛の情を示すこうした行為やスキンシップは、本来大切なことです。しかし、相手が性犯罪者となれば、話は違ってきます。こうした行為が重ねられていくうちに、狙われた子どもは相手に触られることを当然と思うようになります。加害者はそこにつけこんで、徐々に性的な接触へと進んでいくのです。

誤解のないようお伝えしておきたいのですが、保護者以外の大人からのスキンシップを、すべてグルーミングのサインだと言いたいわけではありません。わたしの知り合いの先生の中には、身体的な接触の是非について真剣に考えすぎるあまり、子どもには一切ふれないようにすると決めてしまった方もいます。しかし、これは悲しいことだと思います。幼い子どもたちの側が、先生の手を握りたいと思ったり、おはようのあいさつと一緒に先生にハグをしたいと思ったりすることもあるはずだからです。大切なのは、子どもがいつでもそうした接触を求めているとは思いこまないことです。

【対策】
身体的な接触に関して不快に感じることがあればいつでも、保護者、あるいは誰か信頼できる大人に相談するよう、子どもたちに教えておいてください。特定の大人を避けている様子があったら、それとなく聞き出しましょう。その人物から好意を寄せられることに、不快感を感じている可能性があります。

手口5:サービスやプレゼントを無償で提供する

サービスは、主に保護者に対して提示されます。「ギター教室のレッスン料って結構しますもんね。うちでよければ、無料でお子さんに教えますよ」「その時間、うちでお子さんを預かりましょうか」。そんな、一見ありがたく思えてしまうような申し出です。純粋な厚意で提供している無料のレッスンやサービスというものも、存在しないわけではありません。しかし、見返りなしに労働力の提供を申し出てくることは、それほど一般的ではないはずです。さらに、その「無料」のレッスンやサービスが、お子さんを一人きりで預けることになるものなら、手口3(二人きりの状況をつくる)のレッドフラッグも上がります。

一方、プレゼントは、主に子ども本人に対して贈られます。贈り主は、身近な知り合いとは限りませんし、贈り物もお菓子やおもちゃなどの現物とは限りません。見知らぬ人物が、オンライン上でゲームのアイテムを送ってくるようなケースもあります。いずれにしても、保護者の知り得ぬところで、明確な理由のないプレゼントを子どもに与えるという行為には、十分な注意が必要です。

グルーミングの一形態としての「プレゼント」は、からだにふれたり、何らかの不快な思いをさせたりといった加害に及ぶ前の下地づくりとして、何年にもわたっておこなわれることもあります。

【対策】
個人レッスンなら同席を希望する、個別補習なら教室前まで付きそうといった対応を取るようにします。いずれにしても、指導中は教室のドアを開けておいてもらうようお願い し、中の様子に注意を払ってください。

プレゼントの授受については、お子さんとしっかり話し合っておく必要があります。どんな機会に、誰からであれば、プレゼントを受け取ってもいいのかを一緒に考えましょう。そして、プレゼントをもらったら、必ずそのことを教えてほしいと伝えます。「受け取ってもいい人」じゃない人からであっても、怒られることはないと、報告することに安心感も加えてください。

手口6:自尊心をくすぐる

さまざまな褒め言葉を繰り出して、狙った子どもやその家族の自尊心をくすぐる。これも、グルーミングの常套手段です。公の場で、個人的に、あるいはネット上で。大人に対しても子どもに対しても、加害者たちは実に巧妙に褒め言葉を浴びせてきます。

【対策】
家庭内でお子さんの自尊心を高めておくことが一番の対策です。その日にしたこと、思ったことを話し合い、お子さんが「自分は大切にされている」「認めてもらえている」と感じられる言葉をかけてあげてください。「保育園でつくってきたこの作品、とってもすてき! どうやってつくったのか聞きたいな」。そんな小さなことで構わないのです。こうした声かけは、いくらやっても、やりすぎにはなりません。「いつもお手伝いありがとう」「あなたのことがとっても大事」。そんな言葉で気持ちを伝えることもできます。子どもが自尊心を高め、ポジティブな自己イメージを築いていけるよう、できる限りの手伝いをしてあげてください。自分には価値があると思えることは、その子にとって大きな防具になります。自尊心をくすぐろうとおだててくる人には気をつけましょう。この人はそうかも、と感じたときは、警戒を緩めないようにしてください。

キンバリー・キング

ウィーロック大学(現ボストン大学ウィーロックカレッジ)大学院教育学修士(M.S.Ed.)。自身が性被害にあったことをきっかけに、メイン大学在学中から、サンドラ・キャロン博士のアシスタントとして性被害防止活動にかかわる。幼稚園教諭として働きつつ、非営利組織「ダークネス・トゥ・ライト(Darkness to Light)」の認定ファシリテーターを務め、児童性被害予防教育の専門家として活動している。2016年に刊行した絵本『I Said NO! A Kid-to-Kid G uide to Keeping Private Parts Private』(イヤだって言ったでしょ! 子どもから子どもに伝える、
プライベートパーツの守り方/未邦訳)は、マムズ・チョイス・アワーズ(The Mom’s Choice Awards:MCA)の金賞を受賞している。

栗田佳代

翻訳者。慶應義塾大学総合政策学部卒業。
訳書に、『まっすぐだけが生き方じゃない 木に学ぶ60の知恵』『リチャード・ブランソンの生声』(ともに文響社)。

子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド

子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』(キンバリー・キング 著, 栗田 佳代訳/東洋館出版社)

からだの安全絵本が全米ベストセラーとなった性被害予防専門家から、3歳〜10歳の子どもを育てる保護者へ

どんな状況であっても、被害者である子どものせいでは決してありません。

しかし、保護者が知識をつければつけるほど、子どもたちをより安全にすることができるのです。

子どもが性被害の危険に晒される可能性を最小限にするために、必要なこと全部を1冊にまとめました。