クセになる不気味さ・・・「ひとりの不安」描くファンタジー絵本『おるすばん』【絵本レビュー】

中野セコリ(nobico編集部)
2025.02.26 11:15 2025.02.26 11:50

おるすばん

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nobico編集部員が、おすすめの絵本をご紹介します。
今回は5歳の息子に『おるすばん』(福音館書店)を読み聞かせしました。

今回読んだ絵本はこちら

おるすばん

おるすばん』(福音館書店)
森洋子 著

表紙の可愛さに惹かれて

おかっぱの少女、マトリョーシカ、クマのぬいぐるみ。
好きな要素が詰まった表紙に、母の心はときめきました。

そう、今回の絵本のチョイスは完全に筆者の趣味です。
普段は息子のリクエストで、生き物の「弱肉強食」の世界を描いた絵本を読むことが多いのですが、私はもともとかわいい世界観が大好き。
たまには母の趣味にも付き合ってもらいますよ。

思っていたのとちょっと違う?

おるすばん

物語の舞台は、今ではあまり見かけないような古めのおうち。
令和の子どもたちには馴染みが薄いかもしれませんが、大人にとってはどこか懐かしい雰囲気です。
表紙から想像していた世界とは少し違うかも?

主人公のあっちゃんは、お母さんが急用で出かけることになり、一人でお留守番をすることに。

急に静かになった家の中。最初はのんびり過ごしていたものの、次第に外は暗くなり……。

一人きりの心細さが際立つ演出に、読み聞かせているこちらまで、つい怖い話を語るようなトーンになってしまいます。

みんな躍り出すまさかの展開

おるすばん

暗い家の中、心細さを感じるあっちゃんの前に、驚くべき光景が広がります。
なんと、台所の道具や野菜たちが動き出すのです。

ヤカンや鍋の顔は、よく見ると顔ではないような……?
視界の隅に映る無機物が、ふと人の顔のように見えることってありませんか?
まさにあの不思議な感覚を思い出させます。
にょきっと生える手足は、まるで人間。それでいて、どこか不思議な愛嬌も……。

最初は驚いてこたつの中に逃げ込んだあっちゃんですが、やがて勇気を出して外へ出ると、なんと一緒に踊り出してしまいます。
私だったら絶対にこたつから出ないけど!
それでも、この展開に違和感を覚えないのは、子どもがもともとファンタジーの住人だからでしょうか?

ちょっと不気味で、それでいて愉快なこの場面。
まるで不思議な夢を見ているような気分になります。

「ひとりぼっちの時間」がファンタジーを生む

やがて、お母さんが帰宅し、あっちゃんは現実の世界へと引き戻されます。
隣で静かに聞いていた息子が、あっちゃんと同じようにホッとするのが伝わってきました。

作者の森洋子さんも、幼少期のお留守番で同じような心細さを体験をしたそうです。
今の時代、子どもたちはたくさんのコンテンツに囲まれ、刺激の多い環境で育っています。
でも、想像力やファンタジーを生み出すのは、案外こういった、静かな「ひとりぼっちの時間」なのかもしれません。

息子はまだ一人でお留守番をしたことがありませんが、この本を通して、親がいない世界の不安、そしてほんの少しのワクワクを味わえたように思います。

nobico(のびこ)編集部

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おるすばん

おるすばん』(森洋子著/福音館書店)

あっちゃんが幼稚園から帰ってくると、おばあちゃんの具合がよくないという電話がありました。お母さんは様子を見に出かけることになり、あっちゃんは、初めてひとりでお留守番することになりました。しんとした静けさの中、急に台所の料理道具や野菜たちが踊り始めたのです。怖くてこたつにもぐりこんだあっちゃんに、ぬいぐるみのくまが寄り添います。お留守番という特別な時間に起こる、不思議で美しいファンタジーです。