家では普通に話せるのに…なぜ学校で声が出せなくなる? 場面緘黙症に必要な支援方法とは
家では普通に話すことができるのに、学校ではなぜか声を出せなくなる…自閉スペクトラム症と間違われがちな、場面緘黙(かんもく)症をご存じですか? 長年にわたって特別支援学級の教師を務めてきた村田しのぶさんが、場面緘黙症の子どもにどんな支援ができるかを解説します。
※本稿は、村田しのぶ著『発達障害&グレーゾーンの子どもが「1人でできる子」になる言葉のかけ方・伝え方』(日本実業出版社)から一部抜粋・編集したものです。
場面緘黙の症状
場面緘黙症とは、家族とは家庭で普通に話すことができるのに、特定の場面(保育園、幼稚園、学校、公共の場など)になると、なぜか声を出せなくなる不安障害のことです。
家では日常生活ができているのに、外に出ると不安や緊張が高まり、声を出せない状態になります。
場面緘黙症の子どもは、自らの意志に反して、喜怒哀楽の感情を表わせなかったり、動きたくても固まってしまい動けなかったり、教室でいっしょに給食を食べられないなど、いろいろな症状があります。不安に対する遺伝的な体質に加えて、脳機能の異常によって緘黙という症状が現れている、という報告もあります。
なぜ外では話せなくなるのか
私たちには声の大きさを調整する聴覚機能が備わっています。しかし、場面緘黙症の子どもの多くは聴覚機能の調整が十分ではないため、自分の声が実際よりも大きく聴こえてしまい、自分の声を「変な声」と感じ、話しにくくなるのではないかと考えられています。
また、場面緘黙症の子どもは自閉スペクトラム症と間違われがちです。しかし、自閉スペクトラム症の子どもは、家庭でも親の話に反応せず、勝手な行動をとることが多く見られます。それに対して場面緘黙症の子どもは、家庭では親と普通に話せていますが、外に出たとたん、人見知りが強くて話せないという大きな違いがあります。
このような違いが少なくとも1か月以上持続し、自閉スペクトラム症では十分説明できないとき、場面緘黙症と診断されます。
場面緘黙の発症年齢は5歳未満が多いといわれていますが、それ以上の年齢でも発症する場合があります。アメリカ精神医学会によると、場面緘黙症の有病率は多くて100人に1人としています。また、男女比で女子のほうが若干高い研究結果が見られます。
一般的な特徴と誤解
場面緘黙症の子どもは一般に感覚が鋭く、不安になると身体が硬直し、表情にもこわばりが見られます。知的能力は平均以上にあります。ただ、外で言葉を発することがないため、コミュニケーション不足によって場面緘黙の症状をさらに悪化させていきます。
場面緘黙症は、特定の場面(保育園、幼稚園、学校、公共の場など)で話せなくなる症状ですが、家庭では話しているので、先生からは「おとなしい子」あるいは「反抗的な子」と見られがちです。また、放っておけばそのうち話せるだろうと思われてしまいます。
先生や保護者による適切な配慮、支援がなされず放っておかれると、二次的な問題(不登校、いじめの対象、対人恐怖、ひきこもり)を引き起こすことも考えられるため、子どもの行動をしっかり見て、緊張や不安を緩和させていくことが大切です。
担任として、場面緘黙を早期に発見する方法
1. 最初に、どのような場面で話せないのかを確認する
確認したい事項としては、先生や友だちと話せない、返事ができない、先生に指名されても発言できない、イヤなことがあっても話せない、音読できない、歌えない、絵が描けない、作文が書けない、「トイレに行きたい」と言えない、休み時間になっても席を離れることができない、体育の授業で動けなくなるなどです。
少しでも話せる子なら、次の点について様子を観察していきます。
①どこで(場所)、②誰と、③どんな活動をしているとき、④どんな具合で(緊張の程度)、⑤どんな声(小さな声、ささやき声)で話せているのか│これらの様子を観察します。その様子から、具体的な支援方法を探っていくことができます。
2. 保護者に対し、家庭で普通に話していることを確認する
家では普通に話しているかどうか、それを確認するために、家の中で話している映像を見せてもらうことも必要です。
場面緘黙症の子どもにどんな支援ができるか
まず、教育相談支援センターや小児科心理相談室など、専門機関に行って親子でいっしょに面接をしたり、保護者のみの面接などをします。保育園、幼稚園、学校の担任と情報を共有し、その上でどうすれば有効な支援をできるかを考えていきます。
学校支援(担任、保護者、本人)では、子どもが学習や生活場面で、「自分だってできる!」という自信と感覚(自己肯定感)を育てていくことが重要です。話すことができないなら、代わる方法として、二択制にして手をあげてもらったり、カードで示したりします。
1人でいることが不安を生じさせているのであれば、友だちに声をかけてもらい、いっしょに移動できるようにします。みんなと給食を食べられないのであれば、別室で給食を食べられるようにします。集団登校をいやがるのであれば、慣れるまでは親が付き添って登校してもかまいません。
大事なのは、緘黙症の子どもが安心して行動したり、学校生活を楽しく過ごしたりできるような支援方法や環境を少しずつでも考え、整えていくことなのです。
担任の先生は、1つひとつの行動に対して、「○○できたね」「上手だね」などの言葉をかけて、子どもに「いつも自分を見てくれている」という安心感を与えていくことです。
保護者は、特定の場面(保育園、幼稚園、学校、公共の場など)で話そうとしても声が出なくなることは、子どももその理由がわからずにいること、相手の問題でも、性格の問題でもない。がんばれば話せるわけではないし、放っておけば治るとも限らない。話せないだけでなくつらい思いをしていることを理解し、家庭で支援していくことが大切です。
場面緘黙症のA子さんの場合
場面緘黙症のA子さんが一番気持ちの安らげる場所がジャングルジムと特定できたので、担任の先生は休み時間に「ジャングルジムに行こう」と声をかけました。
「てっぺんまで行くよ」と誘うと、ジャングルジムに上って周りを見渡しています。表情が少し柔和になったのを見て、「休み時間が終わったら、教室に戻るよ」と毎日繰り返しました。担任以外の支援助手の先生も交替で付き添いました。
数か月経って慣れてきた頃、途中までいっしょに行ったあと、「1人でジャングルジムに行っておいで。先生は教室から見ててあげるから」と言葉をかけます。ジャングルジムに着いたら、先生が手を振って合図をして安心させます。「戻っておいで」の合図も教室から送ります。そうしないといつまでもジャングルジムから離れることができないからです。
こうして、1人でジャングルジムへの行き来ができるようになりました。その後は、クラスの友だちを1人、2人と徐々に増やしていき、みんなでジャングルジムで遊べるようになりました。1年経っても学校ではひと言も発しませんが、みんなから声をかけられたら、すぐにジャングルジムには行くことができるようになりました。
安心して過ごせる場所を見つけること、人とのかかわりで情緒の安定を図っていくこと、スモールステップでも、できることを積み上げていくことが大切です。
発達障害&グレーゾーンの子どもが「1人でできる子」になる言葉のかけ方・伝え方(日本実業出版社)
長年、小学校の特別支援学級で先生として、家庭では発達障害の子どもを育てる母親として、発達障害やグレーゾーンの子どもを支援してきた著者による、効果的な接し方や才能を伸ばすノウハウをわかりやすく解説。子どもたちが笑顔でのびのび成長し、将来の自立にむけて「1人でできる力」をぐんぐん伸ばせる!