入学して3日で不登校に…「学校をこわがる小1の娘」を変えた親との会話

水野達朗
2023.08.24 12:59 2023.09.04 11:50

親に叱られる子ども

突然、我が子が不登校になり戸惑う親御さんは多くいます。なかなか不登校の原因を聞き出せないケースも珍しいことではありません。そもそも不登校とは何なのか、そして不登校を克服した親子の体験談を、不登校専門の訪問カウンセラーである水野達朗さんが紹介します。

※本稿は水野達朗著『無理して学校へ行かなくていい、は本当か 今日からできる不登校解決メソッド』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです

水野達朗(家庭教育アドバイザー、不登校復学支援専門のカウンセラー)
不登校専門の訪問カウンセラーとして多くの不登校の子どもたちと関わり復学へと導く。不登校の解決法として家族内コミュニケーションの在り方に着目し、水野式の家庭教育メソッドである「PCM(=ParentsCounselingMind)」を構築。家族と子どもの自立を第一に考え、全国の親と子をサポート。

「不登校とは何か」を知りましょう

学校の教室

本稿を読まれている方は、今現在、もしかしたらお子さんの登校を行き渋る様子を見て驚き、戸惑い、混乱しておられるかもしれません。先生であれば、不登校の子を持つ担任として必死に情報を集めておられるかもしれません。

子どもが学校に行き渋るには必ず「原因」と「きっかけ」があります。不登校の問題を解決していくためにはまず不登校の「原因」と「きっかけ」を明確にし、親も教師も不登校についてよく知る必要があります。

不登校は「精神的な病気」「生まれ持っての脳の構造の問題」「発達障がい」だという声をよく聞きます。にそのようなケースもありますが、ほとんどはそうではない、と私は思います。

なぜなら、私の支援を受けて、多くの不登校で苦しんでいた子どもたちが元気に学校へ戻りました。その支援の際に医療的な行為や投薬治療は行っていないからです。

親が家庭内対応を変えることと、訪問カウンセリングによるサポートだけで子どもたちは学校へ戻りました。

その中には「発達障がいのグレーゾーンです。学校はあきらめてください」と心療内科の医師に宣告されたケースや、「起立性調節障害ですので様子を見ましょう」と言われ、投薬治療を続け、長い間学校へ戻れずに苦しんでいた子もいます。

もし、すべての不登校が本当に病気であるならば、私の支援を受けてもきっとこのような結果には至らなかったはずです。

遠くを見る子ども

不登校には様々な要因が複合的に絡み合っています。

友人関係? いじめ? 勉強面? 学力? クラブ?  体力面? 本人の性格? 自己肯定感の低さ? 教師との不和? コミュニケーション能力? 生まれ持った資質? 家庭環境? 親の夫婦関係? これまでの子育て?

もしかしたらそれらすべてが絡み合ってるかもしれません。また不登校期間が長ければ、絡まった糸はより複雑になります。

そして不登校の子どもたちは、さらに次のような悩みを心に抱えてしまいます。

・勉強の遅れが気になる
・友達にどう思われているかが気になる
・朝起きられない。夜寝られない
・どうせ私なんて~だから
・なぜ学校へ行けなくなったのかわからない

休み始めた当初にはなかったこれらの問題が深刻化してしまい、具体的な問題が抽象化していくことが不登校の問題です。そうなると学校を休んでいる当事者である子ども自身も「なぜ学校に行けないのかわからない」となることがあります。

不登校の状況を「現場」で見ていると、中には学校へ行けない自分を責め、非常につらい精神状態になっている子どもたちがいます。頭痛、腹痛、吐き気などの身体症状や、強迫神経症や家庭内暴力、リストカットなどの形で苦しさを表現している子どもたちもいます。

その背景には「みんなと同じように学校へ行きたい」「このままでは将来が不安」と焦る気持ちがあります。このような状態の子どもを見ると、教師や家族はすぐに医療機関に繋げてしまいがちです。

しかし、私の経験的には、医療行為が必要なケースは、不登校初期ではほとんどないです。むしろ医療行為にかかり、投薬や入院をすることで子ども自身が自己肯定感を失って、本来精神的な病気ではなかったものが、本当に病的な症状を訴えてくることも懸念されます。

不登校を乗り越えた親からの手紙

野原を走る小学生たち

・「学校が怖い! 学校に行きたくない!」の正体がわからずに(小1・女)

春。桜の花が舞い散る中、真新しいランドセルを背負い近所の友達と笑顔で登校路を歩いていく。そんな日を過ごせたのは入学式から3日間ほどでした。

娘は「学校が怖い」「学校に行きたくない」と、登校時間になると玄関でランドセルを背負ったまま固まるようになってしまいました。そしてある日を境に学校へ行けなくなってしまいました。

その姿を見て、これはただ事ではないと感じました。これが不登校というものなのかと目の前が真っ暗になったのを鮮明に覚えています。

休み始めた頃、私は担任の先生に学校で何か問題があったのかを尋ねました。しかし学校で何か嫌なことがあったわけではないとのことでした。

それもそうです。嫌なことも良いことも、数日間しか学校へ行けていないのに、「いじめ」などの具体的なものがあろうはずもなく、ではなぜ娘は学校を怖がるのだろうか、とますます親自身がわからなくなってしまいました。まさに不登校の袋小路に迷い込んでしまったのです。

学校側にも心配していただき、母子同伴登校を勧めてくださいました。しかし娘は「私だけお母さんと一緒に行くなんて恥ずかしい」と拒否をし、担任の先生が家庭訪問に来てくださっても会おうとしませんでした。

学校の教室

このままでは娘だけがこの小さな家という空間に取り残されてしまうと、親の焦りだけがどんどん加速していきました。

娘の性格は一言であらわせば、「とても優しくて、手がかからない、いい子」です。しかし言い換えれば、繊細で周囲の目を気にしすぎて、自分の意思表示をするのが下手なところがありました。

また家の中では自分一人では何も出来ずに、母親である私に頼ってばかりでした。「お母さん、トイレに行きたい」「お母さん、2階に一緒に来て」「お母さん、おんぶして」など。不登校になってから、その傾向はさらに助長されました。

不登校の初期は、「担任の先生の指導力不足ではないか」と学校のせいにしていました。しかし担任の先生とお会いすればするほど、その優しさや配慮の深さを感じました。実際、クラスで学校に行けていないのは娘だけです。

きっと学校ではなくウチの娘に問題があるからこうなったのだろうという思いが強くなってきました。

手

そんな時、教育委員会主催の講演会で水野先生のお話を聞く機会がありました。まるで何かで頭を殴られたかのようなショックを受けたのを覚えています。小学生の不登校の事例の紹介があり、その背景には親子のコミュニケーションの在り方があるとのことでした。

子どもが失敗しないように親が先回りして手助けをする。母親が心配性で本来は目を離さず手を離す時期にもかかわらず、がっちり手を握ったままで肌を密着させていること。父親の立場が低く子ども上位の家庭であることなど。父親も「まさにウチのケースだね」と申していました。

講演会終了後に夫婦で水野先生の控室に押しかけて相談に乗っていただきました。

鬼気迫る表情で事情を話す私たち夫婦に、水野先生は穏やかな笑顔で、「大丈夫ですよ。娘さんのことが心配でこんな講演会にまでご夫婦そろって来られるくらいですから、きっと愛情深い親御さんなのでしょう。その愛情や良かれと思ってしてきたしつけがボタンのかけ違いになっている可能性があるので、それをひとつひとつ戻していけば大丈夫」とおっしゃいました。恥ずかしながら、人目をはばからず涙が止まりませんでした。

支援を受けてまずは親の立場を作っていくことに取り組みました。私は叱り役となる父親を、子どもの前でしっかり立てていきました。父親もまた、子どもが私にむちゃな要求をしてきた際にはしっかりと子どもを座らせて叱る対応を積み重ねていきました。

そしてこれまで口うるさく「しつけ」と称して行ってきたことをやめて、娘自身に考えさせる対応をしました。そして娘の失敗に寛大でいるよう努力をしました。

見つめあう親子

また、何より効果的だったのが「傾聴する」ということでした。それまでは娘の発言に対して、すぐに教訓めいたことや説教をしていましたが、そこを「あなたはそう思うんだね」とアクティブリスニングで受け止めるようにしました。

すると1ヶ月も経つ頃には、子どもからの会話が随分と増え、自分でできることは自分でするようになっていきました。

そのような家庭内対応の変化によって子どもが随分しっかりしてきた頃、父親から登校刺激を行いました。娘は以前とは違い「行ってもどこに座っていいかわからない」「勉強の遅れが不安」「○○ちゃんは仲良くしてくれるかな」などと具体的な悩みを話してくれました。

このような具体的な悩みを共感的に受け止めながら、学校の先生と親で連携をし、学校情報をしっかりと娘に伝え、家庭訪問にも来ていただき(この時には緊張しながらもしっかりと先生とお話ができました)、○○ちゃんにも一度家に来てもらって一緒に遊ぶことができました。

その時に娘は○○ちゃんに「月曜日から私も学校に行くからね」と言っていました。その言葉を聞いて自然と涙が溢れてきました。

そして、今日から学校に行くと家族で話し合って決めた日。娘は有言実行で学校に戻りました。それはの香りが街に漂い始めた頃でした。この日は、私たち夫婦にとって一生忘れられない日となることでしょう。

そして桜が咲く頃に毎年、不登校にしてしまった子育ての反省点を思い出し、金木犀の香りを感じるたびにこの喜びを思い出すのでしょう。

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