「学校に行きたくない」とキレる子 “親の説得“が逆効果になる理由は?

原田謙
2025.03.03 12:41 2025.03.10 11:50

キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本

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「学校に行きたくない!」と子どもが言い出したら、親は何とか説得しようとしますよね。でも、その説得が逆効果になってしまうことも…。

なぜ子どもは反発してしまうのか? そして、親はどう対応すればいいのか? 子どもの本音と適切な向き合い方について、児童精神医学の専門家である原田謙先生の解説をご紹介します。

※本稿は原田謙(著)『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(講談社)から一部抜粋・編集したものです。

「学校に行きたくない」と言って、親に反発する子

キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本

 

小学校高学年から学校を休むように

中学生Dくんは小学校高学年の頃から、ときおり体調不良を訴えて学校を休むようになりました。親は当初、心配してDくんを病院に連れていきましたが、特に病気は見つかりませんでした。医師からは「疲れがたまっているのではないか」と言われました。

親は医師の話を受け止め、また「学校生活のストレスもあるのだろう」と考えて、本人が不調を訴えたときには休ませるようにしました。しかし、中学に入ってからも同じことが続き、対応に悩み始めました。調子の悪い日が増えてきて欠席日数が多くなり、高校受験に影響する可能性が出てきたのです。

親は励ましていたが、徐々に険悪に

親は先々のことも考えて、Dくんを励ますようにしました。Dくんが「学校に行きたくない」と言ってきたときに、そのまま休ませるのではなく、「今日はがんばろう」と声をかけて登校を促すようにしたのです。それでも結局休む日もありましたが、本人が考えを切り替えて登校する日もありました。親は「あそこの高校に行きたいって言っていたじゃない」「年間○日以上欠席したら難しくなるかもしれないよ」などと説明して、現実的な見通しも示しました。

ところが、そのようなやりとりを続けているうちに、Dくんが徐々に苛立ちを見せるようになりました。親が登校を促すと、「転校したい」「引っ越ししたい」などと極端なことを言い出すのです。マンガのように、最後には親に向かって物を投げつけることもありました。

この事例では、結果としてDくんが怒り、親も否定的に反応してしまったわけですが、このような場面で、親はどうすればよかったのでしょうか。

親はどうすればよかったのか?

子どもが聞き分けのない態度を取っているときには、多くのことを経験してきた大人として、何か助言をしたくなる場合もあるでしょう。しかし事例のように、説得しようとすると、子どもが強く反発することも少なくありません。

そのような場面では、子どもの気持ちを受け止めることが大事です。キレる行動の多い子に話を聞いてみると「親は(先生は)わかってくれない」と語ることが多いです。彼らは受け入れてくれないと感じるからこそ、反抗的になるのです。

子どもの「学校に行きたくない」という発言の裏には、さまざまな思いがあります。校内の人間関係や勉強、部活動などに悩んで、学校に通うのがつらくなっているのかもしれません。学校生活以外に何か悩みがあって、登校する気分になれないのかもしれません。

その思いを表現することができれば、そして誰かに受け止めてもらえれば、子どもの怒りはやわらぐでしょう。結果として、キレることは減るはずです。

日頃、家庭や学校でDくんの例のような言い争いが発生している場合には、子どもに何かを言い聞かせようとするよりも、その子がどんな気持ちを抱えているのか、どうしてキレるのかを考えていくことが大切です。

遠回りに思えるかもしれませんが、それがキレる子どもと接していくときの、根本的な対応となります。

【ポイント】
なぜキレるのか」を考えよう
…子どものキレる行動の背景に、どんな思いがあるのかを考えていきましょう

「不当性」「故意性」に、子どもは怒る

子どもは何に怒っているのか?

「この子は何に怒っているのだろうか」と考えていくときに、ヒントになるキーワードがあります。「不当性」と「故意性」です。

感情心理学者で、怒りの制御やマインドフルネスなどを研究している湯川進太郎氏は、怒りというのは、自分や社会に対して不当な、もしくは故意による物理的・心理的な侵害があったときに、自己防衛や社会維持のために生じるものだと定義しています。この定義にそって考えると、なんらかの出来事によって被害を受けたとき、それを「正当ではない」または「わざと行われた」と感じた場合に、怒りが生じることになります。

例えば、子どもが家庭内のルールを守ってゲームをしているときに、親の急用で中断することになったら、その子はおそらく怒るでしょう。「自分は約束を守っているのに、どうしてこんな扱いを受けるのか」と「不当性」を感じて、キレるのです。

また、子どもが友達に悪口を言われたり、からかわれたりして怒ることもあります。相手の言動に悪意を感じて、「この人はわざとひどいことをしている」と思ったときにも、怒りがわいてくるわけです。このときに感じるのが「故意性」です。

子どもは「自分が悪いことをした」という自覚があるときには、𠮟られても激しく怒ったりはしないものです。子どもが怒ってキレるときには、多くの場合、不当性や故意性を感じています。その思いを誰かが受け止めて、理解してくれれば、子どもの怒りや悲しみはやわらいでいくのです。

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「何を不当だと感じているのか?」を考える

大人は子どもの発言を打ち消しがち

 子どもが何を不当だと感じて怒ったのかは、本人に聞いてみなければわかりません。事例では子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、親は「そんなこと言わないで」と応じていました。子どもの発言が期待に反した内容だった場合に、大人は即座に否定的な反応を返してしまうことがあります。この場面で親は「がんばって登校したほうがいいよ」と伝えたかったのかもしれません。しかし結果としては子どもの訴えを打ち消すような返答になり、子どもは反発してキレてしまいました。

まずは子どもの言い分を受け止めよう

 会話は言葉のキャッチボールです。相手の言葉を打ち返していては、会話は成り立ちません。子どもが何か言おうとしているときには、その言葉をバットで打ち返すのではなく、グローブで受け止める必要があります。

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子どもは急に無茶な話を始めることがあります。学校に行きたくないから「引っ越したい」などと、非現実的な要求をしてくることもあるかもしれません。それは受け入れられないでしょう。しかし、即座に否定するのではなく、まずは「そのくらいつらいんだね」と子どもの言い分を聞いてください。受け止めることを優先し、ものごとを教えるのは後回しでかまいません。

子どもの話を聞くときのポイントは「子どもの話を否定しないこと」です。「そんなこと言わないで」と頭ごなしに否定するのではなく、まずは話を聞きます。話を聞いて、お互いに少し落ち着いてきたら、「どういうところが嫌なのかな?」と質問するのもよいかもしれません。

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原田謙

長野県立こころの医療センター駒ケ根副院長・精神科研修研究センター長・子どものこころ診療センター長。信州大学医学部臨床教授。1962年東京都生まれ。1987年信州大学医学部卒業。神奈川県立子ども医療センター、国立精神神経センター国府台病院、信州大学医学部附属病院などを経て、2014年から現職。専門は児童精神医学。特に発達障害の二次障害、反抗挑発症、素行症。

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