「早くして」と言っても急がないのはなぜ? 実はこどもの時間感覚は大人と全く違った

「早くして!」と急かしても、こどもはのんびりとマイペース。では、なぜこどもは大人の時間感覚を理解できないのでしょうか?
写真家のてんてんさんが捉えた「こどもの時間」を可視化した写真と、時間学の専門家である一川誠先生の解説を通じて、「こどもの時間感覚」について理解を深めていきましょう。
※本稿はこどもの視点ラボ 著『こどもになって世界を見たら?』(トゥーヴァージンズ)から一部抜粋・編集したものです。
こどもと大人の時間、どれほど違う?
お話を伺った先生:一川誠 千葉大学教授 日本時間学会会長
てんてん 写真家
レポート担当:石田文子 沓掛光宏
こどもは時計ではなく「できごと」で時間を計っていた
こどもは大人の時間感覚でまったく動いてくれない。「遅刻しちゃ うよ」といっても朝食をだらだら食べているし、「電車が行っちゃう!」と いってもダンゴ虫を転がし続けている。公園に行くと、そこらじゅうで 親が「早く行こう」「いいかげんに帰ろう」と、動かないこどもたちに説得を重ねて失敗している。不思議生物・こどもは、なぜこんなにも時間 にルーズ(?)なのか。「時間学」の研究者である千葉大学の一川誠先生をお迎えして、大人とこどもの時間感覚の違いについて伺います。
石田:今回は、どうやってこどもの時間を体験すればよいか分からなかったので、写真家のてんてんさんと一緒に「こどもの時間」を可視化してみました。
沓掛:冒頭の写真はてんてんさんのお子さん、4歳(撮影当時)のいとちゃんの公園での30分の行動を、定点カメラで撮って1枚にまとめた作品です。すべての遊具で遊び尽くすというか、可視化すると改めてけっこうな行動範囲だなと。一方、ママは「見守る」行動が中心でした。
沓掛:下の写真は朝の時間です。ママはキッチンと食卓を行ったり来たりという感じでしたが、いとちゃんはおもちゃで遊んだり、机やソファにのぼったり、着替え中もふざけたりと、実にたくさんのことをしていました。
一川先生(以下、先生):すごく面白い作品ですね。大人に比べてこどもがいかによく動いているかが分かって興味深いです。

こどもは、できごとの多さで時間を推測する 「できごと時間」で生きている
石田:前述の写真を見るだけでも、こどもの方がずいぶん時間を長く感じている気がしますが、実際どうなんでしょう?
先生:大人とこどもの時間感覚がかなり違うことは、さまざまな研究で分かっていることです。心的要因といって、人間は多くのイベントを体験すればするほど時間を長く感じる傾向にあります。この写真のように短時間で多くのことを体験すると、当然、感じる時間は長くなります。また、こどもは大人より代謝がはげしいので、身体的要因からも時間を長く感じています。
沓掛:代謝がはげしいと時間を長く感じるんですか?
先生:はい。こどもほどではないですが、大人でも運動して代謝を上げると時間を長く感じますよ。そもそもこどもは、時計という道具を使い慣れていないので「1時間がどれくらい」という感覚がありません。起こった出来事の多さで時間の長さを推測する、いわば「できごと時間」で生きているんです。
石田:「できごと時間」! 確かに、小さい子は時計の見方すら知らない。そのことを大人は見落としているかもしれません。
先生:そうですね。こどもが時計に合わせて行動するというのは、大人が思っているほど容易なことではないんです。
衝撃! こどもに「早くして」といってもムダだった!?
石田:先日、こどもが小学校に入学したんですが「8時までに家を出なきゃいけないよ、あと5分だよ!」といってもまったく急ぐ様子がありません。時計の時間を認識できるようになるのはいつごろなんでしょう?
先生:一般的に発達心理学でいわれているのが「昨日・今日」「明日・あさって」など、過去と未来の感覚がついてくるのが6歳くらい。もちろん個人差はありますが。小学校にあがって時計を基準にした生活習慣に慣れていくことで、9~10歳くらいでやっと大人と同じ感覚になるといわれています。
石田:9~10歳! ということは、うちの子はまだ分かってないですね。いや、分かってない感じがヒシヒシとします(笑)。
沓掛:ということは、「おやつは後で」「公園は明日だよ」といっても、当然幼児は理解していないということでしょうか?
先生:「今じゃない」ことは分かっても、どのくらい待てばいいかは分からないでしょうね。なぜ今はダメなのかピンときてないと思いますよ。
石田:じゃあ「早くして!」も分かっていない?
先生:「早くする」「急ぐ」というのが時間的にどれくらいなのか理解していないので、単純に怒られている感覚しかないでしょうね。
石田:私のここ数年間の「早くして! 早く早く!」は「こらー! こらこら!」と同じだった、ということですかね……。衝撃です。申し訳なかったという気持ちにすらなります。
では、こどもに何かをやめてもらいたいとき、急いでもらいたいときはどうすればいいでしょう?
先生:先ほどお話ししたように、こどもはイベントを目印に時間を判断するので「ちょっとだけ」ではなく「1回だけ」とはっきり回数で伝えたり、「この歌が終わったら終わりだよ」とイベントを基準にしたりすると理解しやすいでしょう。急いでほしいときは「競争だよ」「どっちが早く着替えられるかな?」というふうに、やってほしいことに集中できる指示を出してあげるといいと思います。
石田:このお話、5年前にお聞きしたかったです(笑)。
『こどもになって世界を見たら?』(こどもの視点ラボ 著/トゥーヴァージンズ)
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