子育ては親同士の競争? 子ども幸福度世界一のオランダ流「学びの本質」
できるだけ早い時期に勉強やスポーツを始めないといけない…そう考えている親御さんは多いでしょう。しかし「子ども幸福度世界一」のオランダでは、小さいうちにABCを教えるよりも、社交性を磨くことが幼児期には何より重要だと考えられているそうです。
子どもを幸せにするオランダメソッドとは? リナ・マエ・アコスタ(著), ミッシェル・ハッチソン(著), 吉見・ホフストラ・真紀子(訳)『オランダ人のシンプルですごい子育て』から紹介します。
※本稿は、リナ・マエ・アコスタ(著), ミッシェル・ハッチソン(著), 吉見・ホフストラ・真紀子(訳)『オランダ人のシンプルですごい子育て』(日本経済新聞出版)から一部抜粋・編集したものです。
リナの家族とミッシェルの家族
オランダのママ友が教えてくれた「学びの意味」
オランダ流子育てについてもっと知りたいと思った私は、一生懸命ママ友をつくった。ある日、長男のユリウスと同じプリスクールに通う2歳の男の子、ハイムのママであるイエットとお茶の約束をした。
彼女の家族は11年間駐在員として海外に滞在し、最近オランダへ戻ってきたばかりだという。私たちはオランダで人気のある「HEMA(ヘイマ)」というスーパーにあるカフェで待ち合わせをした。
「どうしてこんなに小さいうちにABCを教える必要があるの? どうして好きなように遊ばせないの?」と、イエットが私に聞いてきた。
「ほかの子どもと一緒に遊ぶことはたしかに大事なことだけど、でも、ただそれだけなのよ。もし子どもに幼いときから勉強させていれば、それは子どもの将来の助けになるわ」と、私は答えた。
それに対して、イエットはこう言った。
「小学校は大変な世界よ。子どもが誕生日会を開くことがあるけれど、クラスの友だち全員を招待することなんてできないでしょ。そうすると招待されなかった子どものママの中には、自分の子どもがクラスで人気がないんだと嘆くこともあるみたい。
保育園ではね、子どもたちに、友だちをどうやってつくるのか、どうやって順番を待つのか、どんなふうに人に優しく接して一緒に遊ぶのか。そういう社交性を磨くことが幼児期には何より重要だということをきちんとわかっているんだと思う」
「でも、実際の勉強については?」と、私が尋ねると「実際の勉強ってどういう意味? 保育園で子どもが輪になって座っているとき、何をしているのか知ってる?」と彼女は質問を返してきた。
「私が見学させてもらったときには、天気について学んでいたわ。先生が『ハイム、今日はどんなお天気かお話ししてくれる?』と、聞いていたの。そして『青い空と太陽の絵』と『雨の降っている雨雲の絵』と『風が渦巻く曇り空の絵』という3枚の違う絵を見せながら、ハイムに窓の外を見てどの絵が今日の天気と同じか尋ねたわ。するとハイムは自分で窓の外の青空を確認して正しい絵を指差したの。私はそういうことだって勉強の1つだと思うわ」
どうして親は慌ててしまうのだろう?
できるだけ早い時期に、子どもの持っている可能性を絞り出そうとすることが良いことだと私は決して思わない。でもどうして親はそんなに慌ててしまうのだろう?
英語圏の親は、その年齢の赤ちゃんや子どもがこうするべきという指標と比較して、競争をあおられているように思う。それに引き換え、ここオランダでは子どもが幼いときから読み書きができるかどうかということを重要視していない。それどころか、実際にはそうした類の話をすること自体を拒否しているようにも思える。
オランダ人の友だちが「オランダ人は、自分がどれだけすごいことを成し遂げたかなんて気にしない」と言った。このことの重要性は、私のような外国人にとっては見逃してしまう点だと思う。
たしかにオランダでは、自分ができるだけ中間のほどほどのところにいて、自己顕示欲を抑える文化がある。だから、オランダにはママ同士の争いがなく、子どもの才能に目を向けることに熱心な人もいないことにも納得がいく。
平凡な子どもを育てたい
長女のイナは、3歳のときには内気で親にべったりの子どもだった。でも、自然と「ママ」「パパ」「イナ」「ベン」というような言葉を書くことができるようになり、あちこちに書きなぐった。
3歳児検診のとき、待合室で待っている間も、彼女は楽しそうに自分の知っている文字をカードに書くことに夢中になっていた。しかしその検診では、書けることを話題にもせず、淡々とイナの体重と身長を測り、3つの積み木が上手く積み重ねられるかの発育状況を検査をしただけだった。
学習することに対して、イナがやりたいと言えば私は手伝ったが、勉強するように推し進めたことは一度もなかった。彼女が4歳の誕生日のちょっと前に幼稚園へ行きはじめると、担任の先生は、イナが勉強したいと思っていることにすぐに気がついてくれて、学習ワークシートを特別に用意してくれた。だからイナは、文字や計算の練習を自分ですることができた。そのころのイナは、算数にとても興味を持っていたので、ベッドに寝転びながら九九を暗唱していることもあった。
そんなふうに、イナは同じクラスのほかの子どもよりも、一歩進んだ勉強を続け、翌年には本格的に勉強を教えるグループ3(日本の小学校1年生)へ飛び級した。
才能ある子どもがいた場合、一般的なオランダの教育方針では、その学力に合わせて飛び級で上のクラスへ送り込むよりも、その子どもの持つ知識をより深く幅広くさせるため、特別な教材を使って子どもの能力を伸ばそうとする。
イナの場合は、飛び級した後も、そのクラスでの授業の内容が簡単すぎて飽きてきたので、もう1つ上のクラスへ飛び級することになった。
しかし、ほかのオランダの親や先生たちと同じく、私たちも社交性が学業よりも重要だと思っている。だから、イナが11歳になったら、GCSE(一般中等教育修了試験)を受けるような賢い子どもであるより、友だちと仲良くできる子になってほしいと学校の先生に相談した。
その結果、今のところ小学校の最高学年にもう1年イナを在籍させる予定だ。そうすれば、彼女は10歳で中学校へ行く必要がなくなる。
『オランダ人のシンプルですごい子育て』(リナ・マエ・アコスタ(著), ミッシェル・ハッチソン(著), 吉見・ホフストラ・真紀子(訳)/日本経済新聞出版)
朝食にチョコ・塾なし・宿題なしで学力は世界トップ層!
「子ども幸福度世界一」驚きのオランダメソッドとは?
世界中の親が知りたがる、手をかけず「自分の頭で考える力」を伸ばす注目の育児法。