ネット情報はなぜ偏る?18歳までに学んでおきたい「メディアリテラシー」の基本

池上彰(監修)
2025.05.08 14:51 2025.05.14 11:50

寝ながらスマホを触る男性

私たちが日々目にするネットやSNSの情報は、実は“自分にとって都合のいいもの”ばかりが届いているかもしれません。情報があふれる時代だからこそ大切なのは、信用できる情報を見極める力。選挙権を得る前の中高生に伝えたいメディアリテラシーの育て方について、池上彰さん監修『正しく疑う 新時代のメディアリテラシー』より抜粋してご紹介します。

※本稿は池上彰監修『正しく疑う 新時代のメディアリテラシー』(Gakken)より一部抜粋、編集したものです。

あなたに届く情報、偏っていない?

わたしたちが日々何気なく手にしている情報は、実は、それぞれの好みや考え方によって選別され、手元に届いています。その点に注意して見ていきましょう。

複数の情報に触れるようにしよう

インターネットが発達し、何で情報を得るか、どの情報を信じるかは、個人個人で選べる時代になりました。しかし、自分の心地いい情報ばかりを受け取ってしまうと、偏った考え方になってしまう可能性もあります。

たとえばネット検索では、あなたに合ったサイトが選別されます。その結果、自分の考え方に近い情報だけを受け取り、自分と異なる意見を含む情報が排除されているかもしれません。

また、SNSでは自分の好みのアカウントをフォローすることで、相手の新しい情報を得ることができます。しかし、フォローするのが自分と似た価値観を持っている人ばかりだとどうでしょう?異なる立場の視点での意見や、視野を広げてくれるような情報が届かなくなるかもしれません。

「インターネットを何も考えずに使い続けていると、価値観が硬直化し、考えが偏っていくかもしれない」、そんな危険性があるからこそ、複数のメディアを利用したり、立場の異なる発信者からの情報も得たりするように心掛けましょう。自分の感覚だけを信じないことが重要です。

バイアス

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注意!人間にはこんなバイアス(かたより)がある!?

●自分に都合の悪い情報を無視してしまう「正常性バイアス」

予想しなかったことに出会ったとき、「こんなことはありえない」「特別な状態ではなく正常だ」と思い込み、自分に都合の悪い情報を無視してしまう傾向のことを、心理学用語で「正常性バイアス」といいます。
たとえば、災害や事故の緊急速報を耳にしても「自分は大丈夫」「まだ大丈夫」と思いたがって避難せず、逃げ遅れてしまうことがあります。

●自分に都合のいい情報だけを集めてしまう「確証バイアス」

自分が信じている情報は間違いではないという確証を得るために、偏った情報だけを集めてしまう傾向のことを、心理学用語で「確証バイアス」といいます。
たとえば、病気にかかったとき、医者の診断や治療方針よりも、ネットで自分が調べた情報を信じようとすることがあります。

SNSが政治にも大きな影響力を持つ現代

2024年に行われたある選挙で、スキャンダルがあり落選すると見られていた候補者が当選を果たし、大きな話題となりました。

その候補者について、SNSやネット動画では、本当かどうかはっきりしない情報が流れました。声の大きいインフルエンサーたちのもっともらしい主張に影響された人も少なくなかったようです。

テレビなどのマスメディアはそれらの情報を報じませんでした。テレビや新聞は報道する内容について「政治的に公平であること」「必ず確認を取ること」が求められており、投票までの短い期間では、それらの情報のファクトチェックができなかったようです。

そして、「マスメディアは真実を伝えていない」と非難する人がネット上で増え、有権者のあいだでマスメディアへの不信感が募りました。

こうしたことが有権者の判断に影響し、予想外の選挙結果になったのではないかといわれています。

歴史の中ではこれまでも、マスメディアをうまく使って国民の感情を動かす人はいましたが、現代ではSNSが世論を形づくるための手段として大きな影響力を持つようになりました。

その結果、テレビや新聞などの「オールドメディア」とSNSが対立関係としてとらえられ、どちらのメディアが優れているかという論争が起こることも増えています。

しかし、どのメディアから得られる情報も、誰かが何らかの意図で選び、発信していることには変わりがありません。どのメディアが優れているとか劣っているとかではなく、私たちは1つの発信元の情報にとらわれすぎず、「自分が情報をどう選び判断するか」ということに向き合う必要があるでしょう。

オールドメディア対SNS

オールドメディア対SNS

オールドメディア対SNS

オールドメディア対SNS

残念な選挙結果になっても落ち込む必要はない!

たとえば、自分が投票した候補者が、「実は裏で悪いことをしていた!」と選挙後に判明したとします。
そうなると、情報を判断し間違えたのだと考え、「あの人に投票するんじゃなかった」と後悔することもあるでしょう。

でも、そのときのあなたがきちんと考え、自分なりの結論を出し投票したものであるならば、落ち込む必要はありません。
選挙は1回限りではなく、次の選挙がやってきます。
今回学んだことを生かして、次こそは情報を正しく判断するんだという気持ちを持つことが大切です。
そうすることでメディアリテラシーは高まっていくのです。

池上彰

池上彰

ジャーナリスト。1950年、長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。1994年から11年にわたり「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。2005年よりフリーに。今さら聞けないニュースの本質をズバリ解説。テレビでも大活躍中。

正しく疑う: 新時代のメディアリテラシー

正しく疑う 新時代のメディアリテラシー』(池上彰(監修)/Gakken)

悪ふざけ投稿、誹謗中傷、炎上…。いまや誰もが発信者、気を付けないと自分が加害者になることもあります。また、フェイクニュースやデマも多く情報の受け取り方にもコツが必要です。情報との向き合い方、発し方を池上彰がわかりやすくナビゲートします。