母と子の心はつながっている? 児童精神科医が語る「ママこそ自分を大切にすべき理由」
子育ては、体力も気力も使う重労働。忙しい毎日に翻弄され、いつの間にか笑顔を忘れているママも多いのではないでしょうか。
しかし、そんな親の心の状態は、知らず知らずのうちに子どもの心にも影響を与えている可能性があるのだそう。だからこそ、まずは自分の心に目を向けてみる必要があるかもしれません。
児童精神科医のさわさんが、親子のこころの関係について解説した一節を、著書より抜粋してご紹介します。
※本稿は精神科医さわ著『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)より一部編集、抜粋したものです。
親の心の持ちようが子どもの心にも大きな影響をおよぼす
私は、著書『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』をお母さんにフォーカスをあてて書いています。なぜなら、父と母では、子どもとの関わり方に大きな差があるからです。一般的には、母親が子どもと接する時間のほうがはるかに長いだけでなく、関わりも深くなりますし、診察室に来る親子をみていても、母子というのは本当に表裏一体だと感じます。お母さんの不安が強い場合は、子どもも不安が強くなりやすいですし、お母さんが過度に神経質な場合は、子どもも強迫症に近い状態となり何度も同じ行動を繰り返してしまうようなこともあります。反対に、おおらかなお母さんの場合は、一般的に不安症や強迫症の子どもが少ないと感じます。
こういうことを書くと、「子育てをするのはお母さんばかりではないはずだ」「なんでも母親のせいにするのか」とお叱りを受けてしまうかもしれません。もちろん私も、ひと昔前よりも多くの男性が子育てに参加されていると感じています。ただ、やはり母乳は母親しか出ないものであり、母子間の愛着形成(親や養育者との間にできる情緒的な結びつき)は父子の愛着形成と比較して深いものなのです。ですから、お母さんがふだんどんな気持ちでどんなふうに子どもに接しているのかということは、子どもに大きく影響してくるのです。もちろん、お父さんの暴力や暴言で苦しんでいる子もいますし、お父さんにお伝えしたいこともありますが、『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』は、まずお母さんと子どもに向けて書くことにしました。
とくに、今は働いているお母さんが増えています。仕事もしながら子育てをするのは、かなり大変なことです。私も子どもを2人育てていて実感していますが、そもそも子育てって重労働です。私も、子どもが小さいころの子育ては、研修医時代の救急当直をはじめ、これまでやってきたどんな仕事よりもきついと感じました。また、自分の親や親せきなどからも「これをやらなくていいのか」「あれをしなくていいの?」と口うるさく言われて精神的にまいってしまうこともありますよね。やらなくてはいけないことや人から批判されることが多いと、しんどくなって、つい笑顔を忘れがちになってしまうかもしれません。そんなときも、親の心の持ちようが子どもの心にも大きな影響をおよぼすということを忘れないでほしいのです。
お母さん、そんなに苦しまなくてもいいんですよ
児童精神科医をしていて思うのは、診察室にお子さんを連れて来ない親御さんでも、なにも問題や悩みがないという人は少ないのではないかということです。お子さんのことで、親や親せき、ママ友などまわりの人からいろいろ言われて、悩んだり迷ったりしているお母さんも多いと思います。私がこの本を書いたのは、そういうお母さんたちに「そんなに苦しまなくてもいいんですよ」「あなたは1人じゃないんですよ」と伝えたかったからです。そう言えば、以前こんなことがありました。学校に行こうとしたらお腹が痛くなって学校に行けないという小学生の男の子のお母さんが、どうしたらいいかと悩んで診察室にいらっしゃいました。「学校に行けないなら、今は無理して行かせなくてもいいんじゃないですか」
私は、その親子に寄り添うつもりでそう言ったのですが、言い方に配慮が足りなかったのかもしれません。「先生に私の気持ちなんてわかるわけありません! シングルマザーが、家に子どもを1人で置いてくってどういうことかわかってますか? 勝手なこと言わないでください!」ものすごい剣幕で怒鳴られてしまいました。
本当は、私もシングルマザーで長女が不登校なので、そのお母さんと同じ状況です。きっと、そのお母さんは私が同じ状況だとは知らなかったのでしょう。ただ、そのときは圧倒されてしまって自分も同じ状況であるという話もできませんでした。必死になって子どものことを考えて苦しんでいるそのお母さんに、あのとき、どんな言葉をかけてあげられたら、そのお母さんは救われたのだろうと今でも考え、悔やんでいます。子どもも苦しんでいるけれど、お母さんもとても苦しんでいるんだということを忘れてはならないと、学びを得た経験です。
私自身、長女が学校に行っていないことがまったく不安じゃないかと言えば、そんなことはありません。ですが、自問自答しながら2、3年の年月をかけて、子どもが学校に行かない選択もあるということを少しずつ受け入れていきました。その過程があったからこそ、「行かなくてもいいんじゃないですか」という言葉が出たのですが、過程までをきちんと伝えたほうがよかったのでしょう。それ以来、診察室では自分自身の経験を話して、相手に寄り添う姿勢も必要ではないかと考えるようになりました。「うちの子も不登校だから、気持ちはよくわかりますよ。私も最初は必死で無理やりにでも行かそうとしていましたから」そんなふうに本当のところを話せば、「行かなくてもいい」という言葉の受け取り方も変わってくるはずです。そして、シングルマザーが仕事も家庭も自分1人でやりくりしなければいけない苦労も、十分わかっています。「1人でやっていくのって、ほんと大変ですよね。うちもそうです。だから、いろんな人に頼ってお願いしちゃうんですよ」そんなふうに言えば、そのお母さんも少しは気持ちが楽になったかもしれません。とにかくいろいろな言葉をかけながら、苦しんでいるそのお母さんに「あなたは1人じゃない」ということを伝えられたらよかったのですが。そのようなこともあって、今では機会があれば、自分の話もしています。
苦しいときは「助けて」と言える勇気を
私にも、何人も母親代わりと思えるような存在がいます。中高生時代によくグチを聞いてくれた塾の事務のおばちゃん。大学時代に参加していたゴスペルグループのリーダー。大学時代に留学先で出会った日本人のおばちゃんもそうです。苦しいときは「恥ずかしい」とか「人に迷惑をかける」なんて思わないで、だれかに打ち明けてみてください。人に頼ることは恥ずかしいことでもなんでもありません。少しでも頼れる人がいるなら、ぜひ頼ってください。
あなたは、あなたの大切な人に「助けて」と言われたら迷惑だと感じますか? 頼りにしてもらえてうれしいと感じませんか。あなたが思っている以上にあなたの「助けて」という言葉を待っている人はたくさんいるのです。「人に迷惑をかけてはいけない」と教える親も多いですが、生きているかぎり、人に迷惑をかけることも、迷惑をかけられることもあります。
人に迷惑をかけてしまったら、今度はだれかを助けてあげればいいのです。自分が苦しくなったら「こんなことで」と思わずに、勇気を持って「助けて」のサインを出してください。
リストカットなどの自傷行為を行う子どもたちのほとんどは、この「助けて」というサインが出せないのです。苦しいときに親がだれかに「助けて」と言えることは、のちに子どもがだれかに「助けて」と言えることにつながるのです。親であっても、だれかに甘えたっていい。だれかに助けてもらったっていい。だって、完ぺきな人間なんているわけないんだから。
関連書籍
児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること(日本実業出版社)
もしも今、子育てが大変、つらいと感じていながらも、子どもと幸せにすごしたいと願うのであれば、勇気を出して最後まで読んでほしい一冊。精神科医としてこれまで延べ3万人以上をみてきた著者が、子育て中の親御さんに伝えたいメッセージとともに、「子育てで大切なこと」をまとめました。