50歳になったつるの剛士が振り返る、 批判殺到した「あの頃の育休」の話

つるの剛士

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芸能生活30年、50歳の節目を迎えたつるの剛士さん。第四子の誕生を機に、当時まだ一般的でなかった「男性の育休」を取得し、大きな話題を呼びました。そんなつるのさんが、今振り返る家族との日々や、たどり着いた子育ての「答え」とは?

著書『つるのの恩返し』(講談社)の出版を記念し、ご本人にお話を伺いました。(本記事は後編です。前編はこちら)

いつしかトゲが取れた夫婦の関係

──著書『つるのの恩返し』を拝読して、ご家族の仲の良さ、特に奥様との仲の良さが伝わってきました。

そうですか? 僕が勝手に大きな想いを語っているだけで、うちの奥さんは僕に対してそんなでもないと思いますよ(笑)。でも僕は、奥さんに片思いをしていても全然いいと思っていて。 昔からそうですしね。

──夫婦ゲンカはあまりしませんか?

します、します!
僕は言いたいことをバーッと言って、そのあとすぐケロッと忘れてしまうタイプです。一方、奥さんは引きずりがちなので、きっとイライラしているはずです。「簡単に謝って終わりにしないで!」と思っているかもしれません(笑)。

でも今は、昔よりケンカする率が減りましたね。
昔はやっぱり、お互いに我が強かったと思います。彼女はフリーのスタイリスト、僕はタレントで、どっちもセルフプロデュースの塊みたいなものですから。そんな2人が同じ屋根の下にいたら、そりゃぶつかりますよね。

イガイガの虫が2匹いて、お互いにトゲを刺し合ってた。でもそれがだんだん研磨されて、今は一つの毛玉みたいに丸くなった感じがあります。

だから今はもう、ケンカになりそうな空気になったら、自然とお互い「やめておこうか」という空気になりますね。

子どもと関わる時間は「量より質」

──「育児」のイメージが強いつるのさんですが、現在ご夫婦での育児の分担はどのようにされていますか?

時間の割合でいったら、育児にかけている時間は奥さんのほうが圧倒的に多いですし、そこはもう、敵わないと思っています。僕も仕事があるので、仕方がないことでもあると思います。

ただ、僕が家にいないときや、逆にママが家にいないときに、どうすれば子どもたちが「パパ感」や「ママ感」を感じられるかは、とても大事なことだと思っています。

──どう関わるか、という視点が大事になるのでしょうか。

育児って、関わる「時間の長さ」よりも「質」が大切なんじゃないかと、ずっと感じています。
「子どもと関わる時間は多ければいい」ってことではなくて、短くてもそこにしっかりとした愛情が感じられるよう、ちゃんと向き合うことが大事なんじゃないかなって。子どもたちも、パパとママが仕事していることは分かってるんですよ。なので、やっぱり、「量より質」かな、と思いますね。

「自分がパイオニア」だと思って育児に取り組んだ

──仕事以外で、男性ならではの育児の参加しにくさを感じたことはありましたか?

昔はありましたね。長男が生まれたばかりの頃は、男性用トイレの個室に、赤ちゃんを座らせる椅子がなかったり。おむつ交換代も授乳室の中にあるので、パパが入りにくい空気はありました。

でも僕は逆に、「自分がパイオニアだ」という気持ちがあったので、子どもを抱えて子育ての場に入っていくことに、ちょっとした優越感があったんです。「どうだ、いいだろう」みたいな(笑)。

当時はまだ、パパがスリングで子どもを抱っこして歩く姿もあまり見かけなかったですしね。「育児がしにくい」と感じるというより、むしろ「俺にだってできるぞ」と誇りを持っていたように思います。

──つるのさんのような先輩パパたちのおかげで、今はだいぶ環境が変わってきていると感じます。

今は時代が変わったなと思いますね。その分、パパたちに求められるハードルもすごく高くなっていて、正直、大変だろうなと感じます。

でも、それってある意味、僕たちの世代が一石を投じた結果でもあるのかなと。育児に関わる姿勢を見せたり、少しずつ環境を変えていったことで、次の世代にはさらに高いレベルが求められるようになったんだと思います。

もちろん、それは社会が成長していく中で必要な変化でもあると思うんですけど……それでもやっぱり今の時代のパパたちは、すごく大変だし、本当にえらいなって思いますね。

賛否両論だった育休取得

──最近は、パパたちの意識も大きく変わってきたと感じます。ただ、男性の育休については、まだまだ職場の理解に左右される面もありますよね。
つるのさんは第四子のときに育休を取ったことが話題になりましたが、当時、不安や周囲の反応に迷いはありませんでしたか?

ありましたよ。芸人さんに「それじゃあつるちゃん、もう仕事に戻るスキがないね」なんて言われたこともありました。でも僕はむしろ、育休を取らなければ、仕事も家庭もうまく回らないと思っていたんです。

すでに子どもが3人いる中で第四子が生まれ、奥さん一人では物理的に手が回らなくなっていたので、僕はすぐにでも家庭に入らなければならない状況でした。だから何を言われても「育休を取る」と決めていましたし、もしこの選択で仕事がうまくいかなくなっても、また一からやり直せばいいと覚悟もできていました。

僕は自分が出演している「すくすく子育て」という番組で「育休」の言葉を知りました。当時北欧ではすでに、男性が育児のために仕事を長期間休む制度があったんです。
日本ではまだあまり知られていませんでしたが、その「育休」という言葉があったからこそ、僕は休みを取る決心ができました。本当に言葉に助けられたと思っています。

僕が休みを取ったことで、「育休」という言葉が社会に広まり、大きな反響を呼んだのには驚きました。それが当時の肌感覚でしたね。

──「男性が育休を取る」という価値観は、つるのさんの世代が作られたものだと感じます。

でも、当時は批判も多かったですよ。やっぱり僕たちのような仕事って、スーツを着て出社するような一般的な働き方とは違うので、ある意味自由じゃないですか。

だから「つるのは芸能人だからいいけど、こっちはそんな簡単に育休なんて取れない」「気軽に育休なんて言ってくれるな」みたいな声もたくさんありました。

もちろん、「育休すごいですね」って応援してくれる人もいたので、反応としては賛否半々でしたね。

──批判は男性からくるのでしょうか。

そうですね。「自分だって取りたいけど、会社がとらせてくれないんだ」って。本当にいろんなことを言われました。

でも、僕は「休まなきゃ無理」という状況だったので、正直、そういった批判はあまり気になりませんでした。何か新しいことを始めるときって、大気圏みたいに突破しなきゃいけない壁があると思うんです。批判されることもあるし、それはもう仕方ないなって思いましたね。

それに、「これから少しずつ世の中は変わっていくんじゃないか」という思いは、どこか頭の片隅にありました。
番組ではじめて「男性の育休」を初めて知った時に、「これはたしかに必要な制度だ」と感じていたので。

──育休中に大切にされていた考え方は何ですか?

あくまで奥さんのサポートを目的に、徹底して家事に専念しようと決めて臨みました。「育休」という言葉に引っ張られて、子どもとの思い出づくりを目的に、本当に休暇のつもりで取ってしまうパターンもありますが、育休は決して「休暇」ではないんですよね。もちろん、復職すれば休暇中のように家事をこなすのは難しくなりますが、それでもママのそばに「本当に理解してくれる人」がいるということは、とても大きな意味を持つと思っています。

──つるのさんは本の中でも、育休で家事スキルが上がったと語られていましたね。ちなみに、今得意な家事はなんでしょうか?

好きも嫌いもなく、なんでもやりますよ。洗濯やお皿洗い、掃除と色々な家事がありますが、どれか一つだけやればいいってものじゃないですから。

家事って、様々なタスクが混ざり合って、けっこうぐちゃぐちゃした状態ですよね。「何がどこまで行き届いているか」を判断するのが、実はすごく難しいんです。
だから僕は、家事は「総合力」だと思っています。
どのタスクがどこまで完了しているか、自分でちゃんと把握できていることがすごく大事かなと。

「洗濯はできるけど掃除はしない」「洗濯はするけど子育てには関わらない」だと、それってどうなんだろうって思いますよね。
恥ずかしながら昔の自分は、皿洗いをしただけで、「やってやったぜ!」みたいな顔をしていたんですが、今なら「皿洗いだけじゃねぇんだよ!」って言えます(笑)。

「こんな感じでもいいんだ」と思ってほしい

──最後に、本の読者に伝えたいことがあれば是非お聞かせください。

世間から「イクメン」と呼ばれ(僕はそれを否定していましたが)、幼稚園教諭2種免許、保育士資格を取得するなど、これまで「子ども」について色々と考え、勉強をさせてもらいました。

実際に5人の子育てを経験し、子どもたちもだいぶ大きくなって、今やっと、これまでのことを客観的に見られるようになったなと感じています。

子育て真っ最中の頃は、振り返る余裕もなく、何が正解かも分かりませんでした。そもそも子育てに正解はありませんが、自分なりの答えが見えずにいたんです。でも、子どもたちがすくすく育ち、今まさに彼らが答えを示してくれているというか、これまでやってきたことが、ようやく実を結んできたように思います。

それぞれの家庭に、それぞれの答えがあると思います。でも、「つるの家はこのとき、こんなふうにやってきたんだな」って、ひとつの例として読んでもらえたらうれしいです。

僕はけっこう適当なので、本を読んで「こんな適当でもいいんだ」って、肩の力を抜いてもらえたらなと思っています。……ただ、あとから読み返してみると、「ちょっと真面目に書きすぎたかな?」と思う箇所もありますけど(笑)。

ありがたいことに、僕は今こうして心も体も元気です。夫婦仲も円満だと僕は思っていますし、子どもたちもすくすく育ってくれています。そんな僕たち家族の姿を、ひとつの参考として見ていただけたらうれしいです。

(取材・文:nobico編集部)

つるのの恩返し

つるの剛士 (著)『「心はかけても手はかけず」つるの家伝統・見守り育児 つるのの恩返し』(講談社)

人気絶頂時に芸能界では当時異例の男性育休を取得し、「イクメン」代表として取り上げられ、ベストファーザー賞を受賞。勉強好き、海外留学など、それぞれが好きな道を突き進み「生きる力」が強い5人の子。結婚20年を超えても仲良し夫婦。

令和家庭の理想像を地で行くつるの家ってどんな子育てをしてるの!?

本人のロングインタビューと母・3人の妹・愛妻・5人の子の徹底取材で、つるの家伝統の「手はかけずに気をかける」見守り育児と家族仲の良さの秘密が明らかに!
つるの剛士ってどんな父親?夫?息子?兄?つるの家総勢10名に赤裸々に語ってもらいました。家族からの通信簿、50歳を祝うメッセージなど、意外な真実とくすりと笑えるエピソードが満載です。

後半では、5児の父親であり保育士資格を持ち非常勤幼稚園教諭としても勤務する、つるの剛士の経験と知識を基に、子育てや夫婦関係のお悩み相談に対して、自身のエピソードを絡めながら実践的アドバイス。対談した知育ママインフルエンサーも、つるの剛士のアンサーに驚きと共感の嵐!
「生きる力」、「最強の自己肯定感」を育む“つるの格言”に注目!

「心配より信頼」
「子育てに共通のマニュアル本なんてない」
「負荷をかけて放っておくほうが豊かに実る!野菜作りと子育ては同じ」
etc.