「ぼくは耳が聞こえない」 聴覚障害を持つ9歳がつくった“自分のトリセツ”
聴覚に障がいのある水泳ジュニア選手、玉造珠宇(たまつくり しゅう)さんは、デフリンピックやオリンピックへの出場を目指して、日々練習に励んでいます。
そんな珠宇さんは小学3年生のとき、母・美穂さんのすすめで、自分の「聞こえ方」について夏休みの宿題としてまとめました。
「耳が聞こえないのはいつから?」「その理由は?」「それがわかったとき、家族はどう感じた?」
珠宇さんが自分の障がいと向き合い、自分の言葉で綴った「ぼくのトリセツ(取扱説明書)」を、抜粋・編集してご紹介します。
自由研究 ぼくのトリセツ
ぼくは耳が聞こえない。
なんで? どうして?
でも人工内耳をつけるとまぁまぁ聞こえる。
なんで? どうして?
だからぼくは、この謎を解き明かすために、このテーマに決めました。
では、名付けて「ぼくのトリセツ」スタート!
耳の聞こえのしくみ
①外耳─音を集める
②中耳─鼓膜をぶるぶるさせて、音を大きくする
③内耳─音のぶるぶるを電気信号にかえて脳に伝える
音のぶるぶるは内耳で電気信号になって脳で音としてわかるんだって!
でも、電気信号って何????????
電気信号は内耳のカタツムリ 蝸牛でつくられる。
カタツムリを伸ばすと中にたくさん毛が生えている(有毛細胞)。
毛の本数約15,000本。
この毛が音のぶるぶるを電気信号に変えるらしい。
で、
ぼくの耳が聞こえないのは蝸牛の毛の細胞が動いていないから。
なんで?
生まれつきの難聴だから。
ぼくが生まれるまで
ぼくがママのおなかの中にいたころ、ママは検査を受けた。そして、ぼくが障害があるかもしれないと言われたらしい。パパとママはすごくびっくりして、さらにくわしい検査をうけた。結果、ダウン症ではないけれど、ほかの障害があるかもしれないと言われたらしい。
パパとママはすごく悩んで、ぼくを産むことに決めたんだって。
ぼくが聞こえないってわかるまで
ぼくが生まれた時、聞こえの検査は、しなかったらしい。姉が3歳のころ、中耳炎で聞こえがわるくなり、ママはぼくの聞こえを確かめた。
ぼくの後ろでフライパンをガンガンならした。でもぼくはふり返らなかった。
ぼくが難聴と分かってから
ある日、とつぜんぼくが聞こえないとわかってからは、たいへんだったらしい。病院や学校をどうするか、たくさん調べたんだって。
最初は、補聴器を使ったけどほとんど何も聞こえなかったらしい。
ぼくの聴力は
右129dB、左126dB
ジェット機の音も聞こえない。
ぼくと人工内耳
「GJB2型遺伝子難聴」は、人工内耳を使うと言葉のききとりができるようになる人が多い。この話を知ってぼくの両親は手話を使いながら、人工内耳の手術を決めました。
人工内耳は手術をしてすぐに聞こえるわけではない。
ぼくの場合は生まれつき聞こえないので、長い時間をかけて人工内耳を使って聞き取りの訓練をします。
それと発音の訓練もします。
■人工内耳のしくみ
①マイクに入った音をデジタル信号にかえる
②頭の中にうめこまれたインプラントへ信号を伝える
③蝸牛に信号を送る
④信号を聴神経に伝える
人工内耳の手術からぼくが話せるようになるまで
ぼくの耳が聞こえないと分かってから、ママは手話の勉強をはじめて、ぼくに手話で話しかけてくれていた。
人工内耳の手術の前にたくさんの検査をした。
右耳は1才10か月の時
手術は2時間半でぶじおわった。
左耳は2才11か月の時
手術は6時間近くかかったらしい。あまりにもどってこないのでママとパパはすごく心配したみたい。
手術をしてから少しして
音入れで、はじめてぼくは音を聞いた。その時ぼくはイヤな顔をして、ガックリしたらしい。
それから、ろう学校と東大病院と家で、聞いてしゃべる練習を続けた。
ぼくが声で話せるようになったのは1年半後 4才ぐらいの時だった。
言葉の練習は聞こえた音を声に出すのを繰り返しやった。
それからぼくは、本が好きで、たくさん、たくさん本をよんだ。
あと、絵日記を毎日書いていた。
そうやって少しずつ声で話せるようになりました。
ぼくの聞こえのとくちょう
人工内耳をつけても聞き取れないことや聞きまちがいがたくさんある。よく分からないけど分かったふりをすることもある。
にぎやかな場所や、風が強い所では、なかなか聞き取れない。
たくさんの音の中から、人の声を聞きとるのがむずかしい。
■これは✖✖✖
・ロジャーマイクなし※
・みんなが同時に話す時
・後ろからのよびかけ
・文字情報なし
・歌が苦手
■これなら聞こえる(分かる)◎
・ロジャーマイクあり
・一人ずつ話してほしい
・目を見て話しかけてほしい
・文字情報あり
・歌詞をぼうでさしてもらう(オンチはゆるして)
※ロジャーマイク:補聴器や人工内耳に音声を直接送信するマイク
まとめ
ぼくにとって聞こえないのはふつうの事。ぼくにとって人工内耳は服を着るようなこと。
当たり前だと思っていたけど、時々感じていた。
「なんで聞こえないんだろう。人工内耳をつけるとどうして聞こえるんだろう。」
それで今回調べてみて色々わかった。
ぼくの耳が聞こえないのは蝸牛がうごいていないからってこと。そして両親がたくさん調べて、悩んで、人工内耳の手術を決めたこと。
人工内耳がマイクで音を拾って、プロセッサーの中で電気信号に変えて、それを頭の中の電極を通して脳に伝えているってことがわかった。
自分のことを調べるって面白かった!
これからは耳のことを質問されたら答えられる。
ぼくのトリセツ完成!