子ども7人に1人がデジタル性被害 「スマホ禁止」では防げない現実とは

今西洋介

近年右肩上がりだといわれるデジタル性暴力。小学校高学年のスマホ所有率が4割を超える現在、親はどう対処すべきでしょうか。

問題はスマホではなく加害者であり、禁止ではなく「正しい使い方を学ぶ」ことが重要だと、小児科医の今西洋介先生は警告します。デジタル性被害の実態を、今西先生の著書よりご紹介します。

※本書は、今西洋介著『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)より一部抜粋、編集したものです。

7人に1人が被害に遭っている

デジタル性暴力の発生数は近年、右肩上がりだといわれますが、実態はどうでしょうか。まず世界の傾向ですが、デジタル性被害は過去30年間にわたって継続的に増加しており、コロナ禍で急増したという報告があります(※1)。

また、オンラインで大規模調査を行い、2022年に結果を学術誌で発表した、アメリカの統計があります。18歳から28歳までの成人2639人を対象に、子ども時代(18歳未満)をふり返って、オンラインを利用した性被害を経験したかどうかを調査したものです。調査対象の性別は女性49.8%、男性48.5%、そのほか1.8%でした。被害の内容とその割合は、以下のとおりでした(複数回答あり※2)。

・ オンラインの小児性被害 15.6%
・ 画像関連の性被害 11%
・ 自作した児童性的画像 11%
・ セクストーション 3.5%
・ グルーミング 5.4%
・ リベンジポルノ 3.1%
・ オンライン商業的性的搾取 1.7%

総合すると、7人に1人が子ども時代にデジタル性暴力を、そして9人に1人が画像に関する性被害を受けていました。これは学校の1クラス(35人の場合)に被害経験のある生徒が4〜5人いるという計算になるので、「少ない」と見ることはできないと思います。被害に遭った時期で最も多かったのは13〜17歳。中学生や高校生にあたる年齢です。

加害者の側に着目した調査でも、子どものデジタル性被害は「よくある」とわかります。男子大学生の79%が少なくとも1回は盗撮行為をしたことがあり、盗撮罪で有罪判決を受けた成人17人のうち3人が、特に子どもを狙っていたと報告しています(※3) 。

「7人に1人の子どもがデジタル性被害の経験あり」と紹介したアメリカの統計では、加害者がどのように子どもにアプローチするのかまではわかりませんが、世界では画期的な“実験“が行われています。

まず、チェコで行われた実験を紹介しましょう。巨大な撮影スタジオに3つの子ども部屋をつくり、それぞれに“12歳の少女“を10日間、常駐させました。実際には、幼く見える18歳以上の女性俳優たちが少女を演じています。各部屋にはパソコンが1台ずつあり、彼女らがSNSで「友だち募集」と投稿したと2458名の名の男性からのコンタクトがあった─。そんな一部始終を追ったドキュメンタリー映画『SNS―少女たちの10日2020年に製作され、翌年に日本でも公開されました。

女性俳優たちは、すべての男性とコンタクトを取りました。すると、大多数の男性は彼女たちが12歳だと確認したうえで、カメラの前で性的なやり取りを要求したり、自身の性器の写真を送りつけたりしたのです。言葉巧みなグルーミングや卑劣な脅しを用いて、実際に会うことを求めてくる男性もいました。スタジオでは、精神科医、性科学者といわれるセクシュアリティの専門家、弁護士、警備員などが女性俳優をバックアップし、ケアしました。それでも彼女たちは、男性たちから一方的かつ容赦のない性的な関心と言葉を浴びせられ、見たくもない画像を見せられたのですから、過酷な体験をしたに違いありません。

また、イスラエルとアメリカの大学でも、チャットルームをとおして子どもと接触しようとする大人の動向を調査した研究があります。研究チームは、“13歳の少女“という設定で会話に自動返信するシステムを作成し、アプローチしてきた18歳以上の成人と会話をさせました。会話は合計953件が記録されましたが、そのほとんどがウェブカメラに誘導する内容だったといいます。大人たちの要求は露骨で、「報酬をあげる」と言ってカメラの前で性的行動をするよう子どもに持ちかけたりする行動が見られたといいます(※4)。

いずれの実験でも、大人たちが群がったのは“架空の少女“でしたが、いまこうしているあいだにも世界のいたるところで、現実の子どもが卑猥な言葉や画像を送りつけられ、カメラに誘導され、グルーミングや脅迫を受けながら性的な画像・動画を要求されたりしているのかと思うと、胸が痛みます。

もちろん、男子も例外ではありません。「男子 わいせつ画像」とニュース検索すれば、たくさんの事件がヒットします。写真を送らせるだけでなく、それを脅しのネタに使って呼び出して、性行為を強いる事件も起きています。

スマホを持たせなければ大丈夫?

日本では現状、子どもを含む若年層のデジタル性暴力について総合的な大規模調査は行われていませんが、断片的に発表されているものはあります。

まずは、内閣府男女共同参画局が若年層の性暴力被害について行った調査を紹介します。「なんらかの性暴力被害を受けた」と回答した人を対象に、「最も深刻な/深刻だった性暴力被害」を尋ねたところ、最多は「言葉による性暴力」で38.8%、次いで「身体接触を伴う性暴力」で28.2%、そして「情報ツールを用いた性暴力」で16.3%でした。「情報ツールを用いた」とは、デジタル性暴力とほぼ同義とみてよいでしょう。この調査では、被害に遭ったときの年齢までは明らかになっていません(図4–1)。

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警察庁による「子供の性被害」(ここでの「子供」は18歳未満)についての統計では、児童ポルノ事犯について詳しく見ることができます。児童ポルノというと、違法なAV(アダルトビデオ)やグラビア雑誌などの商業コンテンツを想像する人が多いかもしれませんが、実際は「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」「盗撮」が大部分を占めます。

2014年から2023年における児童ポルノ事犯は、全体では検挙件数・検挙人員・被害児童数ともに増減をくり返していますが、ここでは特に「被害態様別」を抜き出しました。これを見ると、「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」が最多で4割近く、次いで「盗撮」が約2割を占めています(図4–2)。大事なのは、統計に「児童が自らを撮影した画像に伴う被害」とは「だまされたり、脅されたりして児童が自分の裸体を撮影させられた上、メール等で送らされる形態の被害をいう」と記してあることです。子どもがグルーミングされた結果、写真・動画を送るという流れが、しっかりと想定されています。

オンラインの性的虐待コンテンツの入手可能性を最小限に抑えることを目的に設立された非営利団体「インターネットウォッチ財団(IWF)」は、公開レポートや内部チームを通じて子どもの画像・動画特定する活動をつづけています。同財団が検出した児童の性的画像のほとんどは、子どもたちが寝室で、ひとりで作成したものであると報告しています(※5)。

子どものモバイル端末所有率は年々上がっており、スマホの所有率は小学校高学年で4割を超すともいわれます(※6)。子どもに持たせるかどうか、迷われている家庭も多いでしょう。学校や塾で必要だったり、親子間で連絡をとるにもスマホは便利だと感じていたり、家庭によって考え方はさまざまだとは思います。子どもの所有率は今後、増えることはあっても減ることはないでしょう。

では、デジタル性被害はスマホやタブレットといった端末が原因なのかというと、それも違います。機器を利用する「加害者」が起こしているのだということを忘れてはなりません。それは、つまり、子どもにデジタル機器を持たせなければ被害に遭わないとはかぎらない、ということです。デジタル機器を持たせるにしても持たせないにしても、親や保護者はあらかじめ「加害者はそれを利用してどうするか」を考えておいたほうがいいように思います。ですから私は講演などで、「電子機器を禁じるのではなく、その使い方を学ぶことが大事」とお話ししています。


※1:Chauvire-Geib K, et al. Trauma Violence Abuse 2024;25(2):1335-1348.
※2:Finkelhor D, et al. JAMA Network Open 2022;5(10):e2234471.
※3:Lister VPM, et al. Sex abuse 2024;36(3):320-348.
※4:IT media NEWS 2023年5月18日配信「“13歳少女“のなりすましbotで、子供狙う大人の動向を検証 ほとんどがWebカメラへ誘導」https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2305/18/news065.html
※5:Brown S, Key messages from research on child sexual abuse by adults in online contexts. 2023. https://www.csacentre.org.uk/research-resources/key-messages/key-messages-from-research-on-child-sexual-abuse-byadults-in-online-contexts/ (2024年10月8日最終閲覧)
※6:モバイル社会研究所サイト2024年1月29日配信「小中学生のスマホ所有率上昇 調査開始から初めて小学校高学年で4割を超す」https://www.moba-ken.jp/project/children/kodomo20240129.html

小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害

今西洋介著『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)

1日に1000人以上の子どもが性被害に遭っている――。(厚生労働省調査 令和2年度、推定)
小児科医「ふらいと先生」がエビデンスベースで伝える、まだ知られていない小児性被害の「本当」と、すべての大人が子どもを守る方法。

旧ジャニーズ性加害問題などによって、世間の関心をますます集める子どもへの性暴力。
実際、性被害に遭う子どもは多いの? 少ないの? うちの子は大丈夫?
被害を受けた子は何か「サイン」を出すの? 心と体にどんな「傷」を負う?
結局、子どもを守ったり助けたりするには、どうすればいいの?
医療・育児インフルエンサー「ふらいと先生」として知られる小児科医がエビデンスにもとづき、誤解も多い小児性被害の実態や、パパ・ママから先生まで大人のみんなができる「予防法」を、やさしく伝えます。

大人が小児性被害の「真実」を知れば、大切な子どもを守れる!