言葉が出る前に思考は育つ? ベビーサインが育む赤ちゃんの「考える力」
子どもがまだ話せない時期からコミュニケーションをとれる“ベビーサイン”。小さな手の動きには、赤ちゃんの思いや発見がぎゅっと詰まっていて、観察力や類推力が芽生える瞬間が見えてきます。
子どもがベビーサインで教えてくれる、言葉の発達前だからこそ感じられる豊かな心の世界を、吉中みちるさんの著書『ベビーサイン図鑑』から紹介します。
※本稿は、『ベビーサイン図鑑: 簡単なジェスチャーだけで、2歳児以下とも双方向コミュニケーション!』(吉中みちる/Gakken)から一部抜粋・編集したものです。
ベビーサインを通じて「ひらめき」や「観察力」を発揮する
子どもは、一つのベビーサインを「応用」して、まったく別のことを伝える場合があります。
例えば、
▪ 【靴】や【帽子】→「お外に行きたい!」「お出かけしたい」
▪ 【ネズミ】→「ネズミが出てくる絵本を読んで!」
ピタッと合うベビーサインを知らなくても、自分の知っているものをうまく応用して何とか思いを伝えようとする姿を見ていると、本当に子どもはすごいって思います。
子どもは「○○は△△に似ている」という思いを、ベビーサインを使って教えてくれることがあります。私の息子はスーパーで初めてミニトマトを見た時に、ゆっくりと少し自信なさげに【りんご】のベビーサインをしました。赤くて丸くて食べられそう……「りんごに似てるけど、ちょっと違う?」そんなふうに感じていたのでしょう。
別の日、ベビースイミングの帰り道。サウナから出てきた毛むくじゃらのおじさんを見て、迷いなく【ゴリラ】のベビーサイン。しかも「ウホウホ」と声付きでした(笑)。おじさんは苦笑いして通り過ぎていきましたが、息子の中では「似てる!」と直感したのだと思います。
他にも……
▪ 前歯が大きな人を見て【うさぎ】
▪ 自動販売機横のゴミ箱の丸い蓋を見て【カエル】
▪ コンセントの穴を見て【ブタ】
▪ 消火器の赤いレバーを見て【鳥】
▪ エアコンの室外機を見て【電車】
▪ ツブツブのいくらを見て【ぶどう】
▪ 十字のネジの頭を見て【お花】
トイレで「バイバイ」したウンチを見ながら【新幹線】や【バナナ】のベビーサインをした子もいました。きっと立派だったのでしょう(笑)。
このような「○○は△△に似ている」という表現は、物の特徴を観察して、他のものと結びつける=カテゴリー化や類推の力が育ってきている証拠です。こうした力は、将来の言葉の理解や想像力、論理的な思考の土台にもなっていきます。
「話す」ことは複雑で時間のかかるプロセス
私たち大人は、普段何の苦労もなく言葉を話していますが、赤ちゃんが話し言葉を使えるようになるには、脳の発達と社会性の向上に加えて、発話器官の発達が必要です。発声には、声帯・舌・唇・口の中・呼吸器などがうまく連携しなければなりません。
赤ちゃんはまず生後2〜3ヶ月頃から、「あー」「うー」といった母音だけの発声(クーイング)を始め、5〜6ヶ月頃には「バババ」「ダダダ」「マママ」のように子音と母音を組み合わせた発声(喃語)をするようになります。最初は外国語のような発声も混じっていますが、次第に親の母語で使われる音に絞られていきます。このようなステップを経て赤ちゃんは初めて単語を発音できるようになります。
1歳半健診では、「話せる単語が3〜10語あるかどうか」が目安とされています。つまり、「話す」って思った以上に複雑で時間のかかるプロセスなんですよね。
声より先に育つ手のチカラを活用するのが、ベビーサインの真髄
一方で、手や指の運動能力は、発声に関わる器官よりも早く発達します。そのため、早い子なら生後半年くらいからベビーサインを使えるようになり、「まだ話せない時期」からスムーズにコミュニケーションがとれるんです。
話し言葉は、1歳を過ぎてから少しずつ出てくるお子さんが多いですが、そこから毎日どんどん増えていくわけではありません。実は、「潜伏期」と呼ばれる時期を経て、2歳半頃に爆発的に語彙が増えることがわかっています。
ベビーサインも、生後半年~1歳頃まではゆっくり増え、1歳~1歳半頃の「爆発期」になると、大人が見せた手の動きをどんどん覚えて使えるようになります。
言葉がまだうまく出ない時期でも、赤ちゃんはたくさんのことを感じ、考えています。
そして、ベビーサインがあるからこそ、私たちはその思いに気づくことができるのです。
「赤ちゃんにはこう見えているの!?」
「こんなふうに考えていたなんて……」
そんな発見の連続。まるで、赤ちゃんの頭の中をちょっとだけのぞかせてもらっているような、ワクワクした気持ちになります。
ベビーサインは、ただ便利なコミュニケーション手段というだけでなく、親子の気持ちをつなぐ「心の窓」のような存在です。
そして、「伝え合えるって楽しい!」という経験をたくさん積み重ねることで、赤ちゃんは自信を持って楽しそうに話し言葉の世界へと踏み出していくのです。
今すぐ試せる! この記事に出てくるベビーサイン
【靴】

軽く握った両手をトントンと合わせる
玄関先では「【靴】履こうね」と声かけして靴を履かせます。お出かけまでの一連の流れがわかってくると、ベビーサインをしながら一人で準備ができるようになる子どももいるんですよ。
【帽子】

片手で頭をポンポンする
「【帽子】かぶるよ」と、お出かけの時に誘いましょう。
【ネズミ】

人差し指を、鼻をこするように左右に動かす。
【りんご】

カギ状に曲げた人差し指を頬にあて、手首をひねる。
【ゴリラ】

両手のグーで胸を交互に叩く。
【うさぎ】

両手を頭の上に置き、指を前後に動かす(手のひらの向きが逆でもOK)。
【カエル】

両肘を張って上下に2、3回動かす。
【ブタ】

片手の人差し指で鼻を押さえる。
【鳥】

人差し指と親指を口元で、2回閉じたり開いたりする。
【電車】

肘から曲げた両手を車輪のように回す。
【ぶどう】

片手の指先で、もう一方の手の甲を、トントンとさわる。
【花】

花をつまんでにおいをかぐ
お散歩中に見かけたお花だけでなく、洋服の模様や絵本の中でも見つけられますよ。
【新幹線】

軽く指先を曲げた片手を鼻先から離すように動かす。
【バナナ】

バナナの皮をむくように2回ほど動かす。
『ベビーサイン図鑑: 簡単なジェスチャーだけで、2歳児以下とも双方向コミュニケーション!』(吉中みちる/Gakken)
20周年を迎えた「ベビーサイン」が決定版となって、大幅にパワーアップして登場!
「ベビーサイン」とは、簡単なジェスチャーだけで、まだ言葉が話せない2歳くらいまでの子どもとも双方向コミュニケーションがとれる方法。
子どもは、言葉を話し始める前から、たくさんの気持ちや願いを抱えています。
「おしまいにしたい」「もっとやってみたい」「こわいよ」「うれしいな」「バスが来たよ」「リンゴが食べたい」――そんな思いを、言葉の代わりに“手の動き”で伝え合えるのが「ベビーサイン」です。
親子の心の距離をぐっと近づけてくれます。