地頭を育てたいなら読み聞かせは必須! 「聞くこと」で伸びる子どもの理解力
読書量が多い子は、国語の成績も高い傾向にあります。しかし、理解力を伸ばすには読む本の種類や、読み方も大切なのだそう。
言語学学者の船津洋先生の著書『「地頭力」を鍛える子育て』より、読み聞かせが理解力を高める理由をに解説します。
※本稿は船津洋著『「地頭力」を鍛える子育て』(大和出版)より、一部編集、抜粋したものです。
理解力を育てる「読み聞かせ」の工夫
国語力についてはさまざまな研究が行われています。理解力に焦点を当てているものは限定的ですが、国語の成績と他の教科の成績との関係、あるいは国語の成績と、読む、書く能力などの関係の調査は多くあります。
調査の中には読書量と国語の成績の関係、幼児期の絵本の読み聞かせとその後の国語力の関係など興味深いものもあります。
これらの研究から、読書量と国語の成績に関しては相関が観察されています。
つまり、本をたくさん読めば国語の成績が高まる傾向にあるようです。
しかし、その他の調査を見ると、読書は確かに語彙力には大きな影響を与えるようですが、国語力そのものに対しては、読書の対象(ジャンル)が大きく影響するようです。
絵本や小説でも語彙の強化は可能ですが、直接理解力の向上にかかわるジャンルは、説明文であるという報告もあります。
読むこと自体は国語力にプラスに働きますが、こと理解力に焦点を当てると、好きな本を読めばよいのではなく、読書対象の選択に注意が必要なようです。
また、未就学児に対する家庭での読み聞かせが、その後の子どもの語彙力や読解力に肯定的な影響を及ぼすことも報告されています。
未就学児に対する絵本などの読み聞かせの量と、就学後の国語の成績を調査した研究において、多く絵本を読み聞かせたグループは、小学校中学年以降の国語の成績が、そうでないグループに比べて有意に高いそうです。
知性に関しては、もちろん生まれつきの要素もあります。また、言語使用の素質としての脳の基本的構造は遺伝子によって作られます。しかし、その後、環境による刺激から、脳の回路が改良されていくのです。
この考え方は幼児期に行う本の読み聞かせ、あるいは学童期になってからの読書、特に説明文の読み込みが、子どもたちの理解力を高めていくのに役立つという研究結果と符合します。
読書をしている脳は、まず文字を音声に置き換える作業(音韻符号化)をします。
同時に文の構造を理解します。
最後に、書かれている内容を映像化させる、つまり心内表象化(理解)します。
さらにすでに行われた理解の記憶を保持しながら、目の前の文の意味(文脈)を把握していきます。
意味を理解する作業をしつつ、次から次へと目に入る文字の音韻符号化と心内表象化をくり返して、積み上げていくわけです。
ここで重要なキーワードは「ワーキングメモリ」です。ワーキングメモリとは「今やっていることを、一旦記憶にとどめておく能力」のことです。
読むことと理解すること、この2つを同時に行うことはワーキングメモリにとっては大変な負荷がかかる作業です。ワーキングメモリが鍛えられていないと、読んだことが、読んだ先からスルスルと抜け落ちていくイメージになります。
結局、「なんの話だっけ?」となるわけです。それでは意味がありません。
読む内容によっては、ワーキングメモリの負荷はずいぶん軽減されます。
たとえば、絵本は絵が与えられているので、情景に関する心内表象化をする必要がありません。音韻符号化とストーリーや登場人物間の構造に注目する理解に集中できます。
また、少し挿絵がついている程度の読み物も、未知語(意味を知らない初めてみる語)の推測や理解(心内表象化)に役立ちます。
物語などは説明文に比べて抽象度が低く、一般に筆者が心内表象化を容易にするような表現を駆使するので、これも教科書的な説明文よりはワーキングメモリの負荷が低いでしょう。
最もワーキングメモリに負担をかけずに、脳が心内表象化の働きに特化できる読書は「読み聞かせ」です。
「音韻符号化」を誰かに任せるわけですから、聞き手の子どもたちはその情景を思い浮かべること、あるいはストーリーの流れや登場人物の性格などの構造の記憶を保持しながら、次々と耳に入ってくる新しい情報の「理解」に集中できるのです。
言い換えれば、読み聞かせは聴覚からの心内表象化のトレーニングになります。
これらの能力(心内表象化や音韻符号化)は反復によって自動化されます。
聴解力が高い人は、ぼんやりと周囲の音声を耳にしているだけでも内容が理解できますし、同時に読む力に優れている人たち、我々も含め、文字を読むことはほぼ自動化されているので、ここにワーキングメモリを使うことはありません。
したがって、通常は読むといった意識はしないまま、内容の理解に集中できるのです。
ただし、それは大人の話。ここでの対象の子どもたちは「読む」ことの自動化はできていても、「理解」の自動化ができていないと考えておくのが妥当でしょう。
聴覚からの心内表象化には、もちろん知覚力も関わってきます。
その知覚力のベースを成すのは語彙力でした。
読書量は語彙の豊かさと相関関係にあります。つまり読書量が多ければ多いほど、知覚・理解の両方に優れることになります。
しかし、その入口の「聴解力」が育たないまま、「読解力」へ進ませようとすると、肝心の「理解力」が置き去りになってしまう可能性があるのです。
海外の映画などを見ていると、小学校中学年、あるいは高学年かとも思しき子どもたちに、親が本を読んで聞かせている場面に出会ったりします。
耳からの理解力、つまり聞いた内容を心内表象化する能力の育成は、幼児期はもちろんのこと、小学生になっても有効なのです。
船津洋著『「地頭力」を鍛える子育て』(大和出版)
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