母が涙した長女の本音 妹を支える“きょうだい児”の優しさに学ぶ家族のかたち

蓬郷由希絵

高校生の「ここな」さんと、自閉症と重度知的障がいがある中学生「ゆいな」さんの2人の娘がいる蓬郷由希絵さん。妹を支える“きょうだい児”として成長してきた長女の言葉に、母は何度も胸を打たれてきました。

夫の「てつし」さんとともに、ここなさんの幸せと笑顔を願い続ける家族の姿を、由希絵さん初エッセイからご紹介します。


※本稿は、『どうにかなるっちゃ 知的障がいのある自閉症児ゆいなの母の記録』(蓬郷由希絵/KADOKAWA)から一部抜粋・編集したものです。
※画像はイメージです

長女ここなのこと

子どもたちがまだ小さく、ゆいなのことで頭も体もいっぱいいっぱいだった頃。てつしは会社から帰ってくると、よく「ここなはどうやった?」と聞きました。私たち夫婦にとって、ここなの幸せが一番でした。ここなの笑顔が、一番でした。

それでも、足りなかったと感じるのです。ゆいなは私にべったりくっついているから、ここなは私にくっついたり、手をつないだりできなかった。時折ふたりでデートの時間をつくっていたけれど、それでも足りなかったと感じます。

昔も今も、ここなとはたくさん話します。たくさん笑うし、ケンカもします。それでも、夜にここなの寝顔を見ながら、「今日かーかんにしゃべりたかったこと、全部話せたかな」と振り返る。ここなが高校生になった今でも、続いている習慣です。

ここなは小さい頃、慎重派で穏やかな子でした。石橋をたたいて、たたいて、割るほどたたいて渡れないタイプ。だからゆいなをバカにした男の子をほうきで追い回したと聞いたときは本当に驚きました。正義感の強い子でもあるのです。

小4でミニバスに入ってからは、堂々とした雰囲気になってきました。ミニバスの先輩から、「私にもゆいなみたいな弟がおるんで。だから大丈夫じゃけんな」と言ってもらったことが、本当に心強かったようです。同じ立場の子から言われる「大丈夫」は、けた違いの「大丈夫」だったことでしょう。その報告をしてきたときのここなは、本当に嬉しそうでした。

家族思いの発明家

小5のときの自由研究を見た驚きは、いまだに忘れません。それは、ゆいなへの気持ちを絵本という形でまとめたものだったのですが、そんなに文章を書く子ではなかったのに、ここななりのリアルな感情がよく表れていました。「ゆいながいていやだなと思うときやめんどくさいなと思うことがある」、でも「たよってくれたらうれしい」と。涙が出て仕方ありませんでした。

「バスケをしているときは私だけの時間。お母さんも私だけを見てくれている」と書かれたページでは、私とふたりの時間を大切に思ってくれていたんだなと、胸が締め付けられました。

成長してゆいなに生理が来たときには、失敗ばかりのゆいなのサニタリーショーツに「昼用」「夜用」とナプキンを貼る位置を書き込んでくれました。「だいたいこのあたりに貼る」がわからないゆいなを、よくわかっているからです。

ゆいな以外にも、おじいちゃんにスリッパを発明してあげたこともありました。右半身が不自由だったおじいちゃんがスリッパを揃えるのに苦労しているのを見て、内側にマグネットを埋め込んであげたのです。自由研究として提出したこの発明はなんと県知事賞を受賞し、新聞やテレビに取り上げられました。また、同様に半身が不自由な方がそれを見て、スリッパがほしいと問い合わせてくださり、つくってお渡ししました。

家族のことをよく見ているし、なんとかしてあげようと機転をきかせてくれるのです。

そんなここなを、ゆいながこじらせて避ける様子が切なくて。最近もここなは、「ゆいなはいつまでああなん?」とこぼしていました。ここなはいつも、ゆいなが困ればスッと手をつないでくれる。みんなについてこられているか、何度も振り返って確認している。ゆいながおかしなことを言っても怒らず、ゆいなにわかりやすい言葉で話しかけている。いつもゆいなのことを思って行動しているここな。

大阪講演に家族で行ったときには、道頓堀クルーズに乗るつもりが乗り場を間違えてしまうということがありました。とっさにここなは、ゆいなの手を引いてダッシュ! 目立つのを嫌う年頃で、離れて歩きたがってもおかしくはないというのに、じーんときてしまいました。まるで私が取る行動のようだった。

一瞬一瞬のそんな景色を胸に焼き付けて、今日も進んでいく力をもらっていると感じます。

ここなが気を遣って我慢をすることがないように

ここなを育てるにあたって心がけていたのは、本当に基本的なことです。子どもだからといなすのではなく、対等な存在として扱うこと。怒りすぎてしまったなと思ったら、ちゃんと反省して「こないだはごめんな」と謝りました。完璧な母ではないと、弱みも伝えてきました。

そして気を遣って我慢をすることがないように、「ここなはどうしたい?」を聞くようにしてきました。けれどここなは、「かーかんは?」「かーかんと一緒ならいい」と言うような子でした。空気を読んで、かーかんをゆいなに譲ってくれることもたくさん、たくさんありました。だから先日ホテルの部屋割りで、「私はかーかんと一緒にクロミちゃんの部屋で寝る」としっかり希望を言ってくれたときは本当に嬉しかった。今までずっと部屋割りではゆいなの希望を優先させてくれていたもんね。

そんなここな、学校の行事で障がいのある子どもたちと触れ合ったとき、接し方が上手で先生方に驚かれたそうです。普段はあまり話さない子がここなと話す様子を見て、「あの子はいったい?」となったのだそう。嬉しかったようで、支援学校の先生になりたいと話していました。

その夢を追ってもいいし、違うことをめざしてもいい。大学に進学するなら、どの土地でもいいし、うちから通ってもいい。ゆいなのことは置いておいて、自分の世界をどんどんつくって、やりたいことをとことん楽しんでやってほしい。ここなの望む方向を、私たちは心から応援したいと思っています。

どうにかなるっちゃ 知的障がいのある自閉症児ゆいなの母の記録

どうにかなるっちゃ 知的障がいのある自閉症児ゆいなの母の記録』(蓬郷由希絵/KADOKAWA)

発売即重版! 密着取材動画で200万人が感動! 自閉症児を育てる母の初著書
全国から講演会オファーが殺到、メディア出演でも話題。
知的障がいを伴う自閉症児ゆいなちゃんの母、蓬郷(とまごう)由希絵さんの初エッセイ。
キャラも濃いけど、愛はもっと濃い。
子育てで心折れそうになっているすべての親・家族に、「大丈夫だよ。」と伝える希望の書。