子どもが突然「窓に向かう、走り出す」本当の原因とは? 医師が解説するインフルエンザで起きる異常行動の正体

吉澤恵理

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厚生労働省の最新報告によると、2025年11月中旬時点でインフルエンザによる学級閉鎖・学年閉鎖・休校は全国で3,584施設にのぼっています。保育園・幼稚園から小中学校まで、例年を上回る勢いで感染が広がり、すでに複数の地域で流行がピーク入りしています。

そんな中、インフルエンザで自宅療養中だった小学生がマンションから転落する事故も報じられ、保護者の間に不安が広がっています。実はインフルエンザでは、「飛び出し」「徘徊(はいかい)」「転落」などの異常行動が起きることがあるのをご存じでしょうか。竹内内科小児科医院院長の五藤良将先生に、異常行動のメカニズムと保護者が今日からできる安全対策について伺いました。(文・吉澤恵理)

インフルエンザで異常行動が起きる理由

――インフルエンザで異常行動が起きるのは、なぜですか?

「いちばん大きいのは、高熱によるせん妄(意識の混乱)です。子どもは体温が急に上がると、脳が一時的にうまく働かなくなり、急に走り出す、窓に向かう、意味不明の言動をするなど、普段の性格とはまったく関係のない行動を取ることがあります。多くは発熱の初日〜2日目、特に夜間や明け方に起こりやすいのが特徴です」

治療薬と異常行動の関係

――治療薬(タミフルなど)が原因だと言われることがありますが、本当ですか?

「これは誤解が多いポイントです。薬の副作用で異常行動が起きると思われがちですが、実は薬を飲んでいない子にも同じ行動が起きています。研究や厚労省の調査でも、薬と異常行動の因果関係ははっきりしていません。むしろ、インフルエンザそのものが脳に負担をかける、と考えたほうが正確です。また現時点で、特定の治療薬が異常行動の主な原因と断定できる科学的根拠も得られていません」

「薬の副作用では?」と思われがちですが、実際には薬を飲んでいない子にも起きることが確認されています。高熱による意識の混乱や脳の一時的な機能低下が原因とされ、発症初日〜2日目の夜間・早朝に集中しやすいのが特徴です。

具体的にはどんな行動が起きるのか

――実際には、どんな行動が多いのですか?

「保護者の方が驚くような行動が出ることがあります。たとえば、

急に立ち上がって走り出す
玄関へ向かって外に出ようとする
ベランダ・窓に近づく
泣き叫ぶ、パニック状態になる
声をかけても反応が薄い
急に興奮し、次の瞬間には覚えていない

これは熱性せん妄と呼ばれる状態で、多くは数分〜数十分でおさまりますが、事故につながる危険があるため家庭での見守りがとても重要です」

どんな子どもに起きやすいのか

――どんな子に起きやすいのでしょうか?

「突出した特徴はありませんが、小学生〜中学生の年代に比較的多くみられます。普段から落ち着いている子でも起きるため、どのお子さんにも可能性があると考えてください」

家庭でできる4つの安全対策

――家庭でできる対策はありますか?

「ポイントは4つあります」

① 子どもをひとりにしない時間をつくる

特に発熱初日の夜〜2日目の早朝が要注意です。「別室で隔離する」「一人で寝かせる」は、かえって危険な場合があります。

② ベランダ・窓・玄関の施錠

飛び出し・転落を防ぐため、鍵の位置や開閉ロックを確認しましょう。

③ 脱水を防ぎ、体力の消耗を抑える

水分不足はせん妄(意識の混乱)を悪化させることがあります。こまめな水分補給を。

④ 解熱剤の使用

子どもが高熱で苦しそうな時や眠れない時には、解熱剤を適切に使うことで、せん妄の悪化を防ぎ、異常行動のリスクを下げられる可能性があります。

使える薬は、アセトアミノフェン、医師から指示がある場合は、イブプロフェンなどです。ただし、小児では、サリチル酸系やアスピリンはインフルエンザでは使用しないように注意してください。

すぐに受診すべきサイン

――こんな時は受診したほうがいい、というサインは?

「次のような場合は、すぐに医療機関へ相談してください。

高熱が続き、ぐったりしている
呼びかけに反応が悪い
水分が取れない
異常行動が繰り返し起きる
けいれんの既往がある
呼吸が苦しそう

いつもと違うと感じた時は、迷わず受診を。早めの対応が安心につながります」

学級閉鎖中の家庭での注意点

――学級閉鎖が増えていますが、家庭で注意すべきことは?

「学級閉鎖は家で安静にして感染を広げないための措置です。軽快してきても外出は控え、静かな遊びや読書でゆっくり過ごしてください。兄弟姉妹がいる家庭では、手洗い・換気・水分補給を徹底することが大切です」