息子の迷子防止大作戦が大失敗に…USJで起きた“まさかの同化現象”とは?【うちのアサトくん第24話】

黒史郎
2026.01.06 11:21 2026.01.22 20:00

青空の下で駆けていく子どもたち

じっとしているのが苦手なアサトくん。そんな息子を外出時に迷子にさせないための工夫に余念のない黒史郎夫婦。しかしその工夫が裏目に出ることもあるようで…?

小説家・黒史郎さんと奥様、そして自閉症の息子・アサトくんの日常を描いた、子育て実話ショートショート「うちのアサトくん」をお届けします。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2021年5月号から一部抜粋・編集したものです。
※画像はイメージです。

お出かけはド派手な格好で

アサトは、じっとしているのが苦手だ。

僕らが一瞬でも目と手を離せば、その隙にドロンと消えてしまう。

デパートやコンビニのような、商品棚が何列も並んでいる迷路のような場所で見失うと大変だ。

「あっ、しまった! アサトが!」

「わたしはこっち、パパは向こうを探して!」

「わかった! ……ん? 今こっちのほうから歌声が聞こえたぞ」

アサトの甲高い歌声を追いかけて僕が商品棚の裏へまわると、アサトは素早く反対側へまわる。すぐに追いかけるが、そこにはもう彼の姿はない。歌声はまた棚の反対側から聞こえてくる。まるで、そういう妖怪に化かされているみたいに、僕らはずっと棚の周りをぐるぐるとまわり続けることになるのだ。

まだ店の中で済めばいいが、これがもし、たくさんの人込みの中や、だだっ広い山林の中だったら……。

たとえ短い時間でも、幼い我が子の姿を見失えば、親なら誰でも真っ青な顔でパニックに陥るだろう。おそらくそのとき、事故や事件という物騒なワードが頭をよぎるに違いない。

妻と僕も当然、頭をよぎるだろう。でも、怖いのは事故や事件だけじゃない。

アサトが迷子になれば「二度と帰ってこない」という恐怖心を僕らはつねに持っている。

迷子になった子どもは、心細くなってわんわんと泣く。それで周りの大人が気付いてくれる。でもアサトはきっと1人になっても、すぐには心細さを感じない。むしろ自由を満喫し、元気に走りまわる。そういう子だ。 

きっと不安そうな表情も見せないし、1人でも平気で(なんなら鼻歌でも歌って楽しげに)ズンズンと歩いて行ってしまう。そんな姿のアサトを見ても、誰も迷子だとは思わないだろう。たとえ心配して声をかけてもらっても、無視して行ってしまう。名前を聞かれても、知らない人には答えられないだろう。

アサトはきっと、どこまでも歩いて行ってしまう。ああっ、考えるだけで怖い。

世のパパとママは、我が子が迷子にならないように、どんな工夫をしているのだろうか。

僕らは人の多い場所へ行くとき、アサトに目立つ格好をさせるよう心掛けている。

例えば、ド派手な虹色の服、変なイラストやアップリケのある服、悪魔のツノやトナカイのツノが生えた帽子。

こういう目を引くものを身につけていると、すれ違う人たちが「かわいい」と言ってくれたり、「くすっ」と笑ってくれたりする。

このようにアサトに目立つ服を着せることで、周りの人に〝目撃者〟となってもらうのだ。迷子のアナウンスをかけてもらうときにも特徴がわかりやすくてイイ。変身願望のあるアサトは喜んで身につけてくれるのでありがたい。

でも、意外な落とし穴もあった。

あれはUSJに行ったときのことだ。

アサトにとって初めての遊園地。通常の3倍ははしゃいで動きまわることを想定し、いつもより3倍増しに派手な服を着せたのだ。

だが、黄色を基調にしたのがいけなかった。USJにはヤツラ――「ミニオン」がいた。
しかも、着ぐるみにコスプレ――あの黄色い生物が大繁殖していたのである。

はからずも彼らと同色の服を着ていたアサトは、園内に入った瞬間に同化し、僕らの目の前から消えた。大失敗だった……。

派手な場所で派手な服は逆効果。

――ということを僕らは学んだのである。

黒史郎

横浜市在住。重度の自閉症(A2)と診断された息子さん、奥様とともに暮らす。著書に、『幽霊詐欺師ミチヲ』(KADOKAWA)など多数。