「周りがやってるから」で中学受験を決めていい?始める前に親が考えるべきこと

矢野耕平
2026.02.16 12:20 2026.02.17 11:50

勉強をする男の子

周囲で中学受験の話題を耳にするようになり、「そろそろ、わが家も……」と中学受験を意識する家庭は、決して少なくありません。しかし、「周りがやっているから」という理由だけで、その世界に足を踏み入れてしまって本当に大丈夫なのでしょうか。

数多くの受験生と保護者を見てきた塾講師・矢野耕平先生の著書より、中学受験を始める前に親が一度立ち止まって考えてほしいポイントを抜粋してご紹介します。

※本稿は、矢野耕平 (著), ぴよととなつき (著)『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)より一部抜粋、編集したものです。

周囲が中学受験をするから、ウチも……は危険

悩む女性

昨今は中学受験が盛況を博していて、皆さんの周囲でもこの手の話がよく交わされるのではないかと思います。

だからでしょうか。中学受験を検討する理由としていちばんに挙がるのは、「周囲が塾通いをして、中学受験をする。だからわが家もその世界に関心を抱いた」というものです。わたしが塾講師あるいは塾経営者として、数多くの保護者と話をしている中での感覚に過ぎないのかもしれませんが。

誰がいつどんな動機で中学受験の世界に興味関心を抱くのか、というのは「偶発性」に依ります。ですから、わたしは一概に「周囲が中学受験をするから」という動機付けを否定するつもりはありません。

中学受験は「大変」な世界

勉強が憂鬱な女の子

ただし、この「中学受験に関心を持った動機」をそのまま「わが子が中学受験に挑む動機」と同一視してほしくはないのです。中学受験が気になったその先、塾通いをスタートする前に、保護者にはじっくりと考えてほしいことがあります。

まず、中学受験をする子どもたちの大半は、塾通いをします。小学校四年生いっぱいまでは比較的緩やかなカリキュラムで進行する塾が多く、週1〜2回程度の通塾で済むところが大半であり、そこまで大きな負担にはなりません。しかし、進級すればハードな学習が質量ともに求められるようになります。たとえば、小学校5年生以降は前年までと比較するとその様相が一変し、週3〜4回の塾通いが必要となるのが一般的です。なおかつ、授業時間も大幅に長くなる傾向にあります。中学受験をする小学校5年生、6年生は「塾漬け」の日々を余儀なくされるのです。

ですから、仲の良い友だちが中学受験塾に通い始めたから、わが子も……そんな雰囲気に流されて舵を切るのはおすすめしません。中学受験はわが子に「大変な労力が求められる世界」なのだという覚悟を持たなければいけません。それを知らずに中学受験の世界に入ってしまうと、さまざまな由々しき事態が生じる可能性が高くなるでしょう。一例を挙げますと、バレエ教室と塾を両立してほしいと考えていたが、小学校5年生になると、時間的、労力的にそれが厳しい状況になってしまった……それでも、無理に両立を求めることで、結果としてバレエも勉強も中途半端になってしまうし、本人はその両方を嫌がるようになってしまった……。こうなるなら、中学受験を志すことなど端からやめたほうがよかったのではないか……など。

保護者は入試問題を眺めよう

読書 男性

大変な労力が求められるのが中学受験と申し上げました。論より証拠です。保護者は、塾通いをさせるより前に、書店に陳列されている「私立中学校の過去問題集」(過去に実施された入試問題を掲載したもの)を眺めてみましょう。保護者自身が中学受験に縁のない人生を送ってきたなら、きっとその入試問題の内容を見て驚くに違いありません。大人でさえ、到底太刀打ちできないレベルの問題がずらりと並んでいると感じられるはずです。仮にわが子が小学校3年生だとしましょう。たった3年後にこういう難問に取り組まなければならない……そう考えながら過去問題集を見ると、中学受験の世界を少しだけ「体感」できるかもしれません。

それだけではありません。中学受験は「相当な費用がかかる世界」です(もちろん、私立中高一貫校進学後も)。この点の覚悟だって保護者は事前に持っておかなければいけません。たとえば、わが子が嬉々として塾通いを始めて、結果として学力がぐんぐん伸びていったとします。そういう「喜ばしい」タイミングで、「ぼくは○○中学校に行きたい」という希望を口にした際に、「いや、わが家は経済的に厳しいから、中学受験はさせられない」などとはさすがに言いづらいですよね。そのことがわが子を傷つけてしまうリスクもあります。

中学受験で「成功譚」ばかりが流布するワケ

スマホをする人

首都圏を中心に中学受験が人気を博せば博すほど、メディアはこぞって中学受験の特集を組んだり、数多くの中学受験に関する書籍が刊行されたりするものです。「中学受験」でインターネット検索をするとおわかりになるでしょうが、中学受験に関する情報は巷に溢れています。それらの情報が「氾濫」していると形容しても過言ではありません。

「情報過多」の世界では、皮肉なことにそれらの情報の価値は低下、軽んじられるようになります。こうなると、身近な人間の「口コミ」が絶大な信頼を集めるようになるのです。たとえば、わたしは東京都世田谷区奥沢(自由が丘エリア)と東京都港区三田で中学受験専門塾を営んでいます。小さな塾ゆえ、大手塾のように広告でお金を使えないこともありますが、ただその事情を差し引いたとしても、わたしは「口コミ」の威力の大きさを日々感じています。わたしの塾に新規で問い合わせてくる保護者の実に6〜7割程度は、在塾生やその保護者からのご紹介です。

わたしの塾で学んで、わが子が中学受験で納得のいく結果を収めた、中学受験を選択して本当に良かったと心から思える保護者は、わたしの塾を周囲に広めてくれます。その反対はどうでしょうか。すなわち、わたしの塾に通って中学受験に挑んだものの、納得のいく結果にならなかった、未練の残る入試になってしまった……という場合です。「あんなロクでもない塾に通うべきではない」、「矢野という塾の代表者はいろいろな情報発信をしているが、実力のない薄っぺらな人間である」などと陰口を叩かれそうです(自分で書いていて身震いしました)。ただ、わたしの塾のみならず、他塾であっても、中学受験塾については「良い評判」に比べれば、「悪評」はさほど多くはないとも感じています。

いったいどうしてでしょうか。

理屈は単純です。中学受験で無念な結果になってしまったご家庭は表立ってそのことを話したがらないからです。

すると、わが子の中学受験の経験談を嬉々として周囲に広める保護者は、――たとえば、小学校のパパ友、ママ友であったり、会社の同僚であったり――わが子の中学受験結果に満足している方の占める割合が高くなるのは当然のことでしょう。

よそはよそ、ウチはウチ

微笑みあう親子

近年首都圏を中心に中学受験は盛況です。各校の実質倍率をみても、中学受験は第一志望校に見事合格を射止められる子たちより、そうでない結果を突き付けられる子どもたちのほうが圧倒的に多い世界です。ですから、身近な人が中学受験の良さを周囲に語っていたとしても、「ああ、この人のお子さんは中学受験で上手くいった側なのだな」と冷静になって、その話に耳を傾けることが大切です。その人の話に食いついて、「それなら、わが家も中学受験を!」と飛びつくのは短絡的なのでやめましょう。「よそはよそ、ウチはウチ」というスタンスでいてください。

繰り返しますが、中学受験塾の評判は「成果バイアス」に依るところが大きいのです。

わたしは昨年X(旧Twitter)で、こんな投稿をする母親のアカウントを見かけました。わが子が小学校6年生、受験生の時点では中学受験がいかに素晴らしい世界かを滔々と語り、また、わが子の通う塾の講師に日々感謝を表明していました。ところが、お子さんの中学受験は第一志望だけでなく、第二志望校、第三志望校、第四志望校にも不合格。(その母親曰く)何とか「安全校」として受験した学校のみ合格。すると、それまでとは態度が豹変。中学受験がどんなに過酷な世界か、通っていた塾がいかに良くないところだったのか、恨み節を炸裂させるようになりました。

もうおわかりでしょう。仮にこの母親のお子さんが第一志望校に合格、進学を決めていたら、「中学受験は良い世界!」「わが子が通っていた塾は素晴らしい!」と外に向けて発信していたに違いありません。ですから、塾や中学受験自体の評価は「口コミ」だけでは推し量れないのです。

結局、わが家にとって、わが子にとって中学受験はどのような意味を持つのかをじっくりと考えて、中学受験をするか否かを決断すべきだということですね。

矢野耕平

1973年東京都生まれ。中学受験指導スタジオキャンパス代表、国語専科博耕房代表。指導担当教科は国語と社会。中学受験指導歴は今年で33年目を迎える。法政大学大学院人文科学研究科日本文学専攻修士課程修了。現在は社会人大学院生として同大学大学院同研究科国際日本学インスティテュート日本文学専攻博士後期課程に在籍し、認知言語学、語用論などをベースに学齢児童の言語運用能力の研究に取り組んでいる。著書に『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文藝春秋)など。

中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ

矢野 耕平 (著), ぴよとと なつき (著)『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)

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