「公立はレベルが低いから中学受験」は正しい? 塾講師が語る受験の本当のメリット
「地元の公立中学はレベルが低いらしいから、中学受験をしたほうがいい」
「内申点に振り回される高校受験は不公平だから、早めに回避したい」
中学受験を検討するなかで、こんな言葉を耳にしたことがある保護者も多いのではないでしょうか。
たしかに、中学受験を選べば私立中高一貫校という選択肢が開けます。しかしその動機が「公立への不安」や「公立否定」だけであった場合、本当にそれはわが子にとって望ましい選択なのでしょうか。
多くの受験生と家庭を見てきた塾講師・矢野耕平先生の著書より、中学受験の本当の意義について抜粋してご紹介します。
※本稿は、矢野耕平 (著), ぴよととなつき (著)『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)より一部抜粋、編集したものです。
「公立否定」の中学受験をすすめない理由
「友だちの○○くんが塾に通い始めたから、ぼくも行きたい!」というのは、子ども本人が中学受験を自ら志す最たる理由です。それはそうですよね。小学校低学年のときに「中学受験勉強の意義」や「私立中高一貫校の魅力」といったものを尺度に自身の進路を考えられるはずはありません。
一方、保護者がわが子の中学受験を考える動機として多いのは、先述した「周囲の影響」と並び、地元の「公立否定」ではないかとわたしは考えています。
「地元の公立中学校は、中学受験を選択しない『教育意識の低い』ご家庭の子どもたちが大半を占めていて、全体的に生徒のレベルが低いらしい」
「高校入試は内申点重視でフェアではない。内申点は教員の主観で決まる側面があるみたいなので、そういう世界からわが子を遠ざけたい」
どちらも中学受験の動機付けとしては良いものではないとわたしは考えます。どうしてでしょうか。
まず、保護者の皆様に再度申し上げたいのは、中学受験は同学年の子どもたちの8割以上は選ばない世界であり、特殊な世界だということです。地元の公立中学校に進学して、高校受験をするのが一般的なのです。確かに、都心エリアでは同級生の大半が中学受験を志すという小学校も存在します。ただ、中学受験をするのは必ずしも「教育意識の高い」ご家庭ではなく、在住地域や世帯年収に左右されるところが大きいのです。
そして、高校入試は「内申点」が加味されるフェアな世界ではないから中学受験が良いというのは短見です。確かに中学入試では学校の調査書はほとんど見られず、あくまでも当日の試験で何点取れたかが勝負を分けます。しかしながら、中高一貫校に進学し、高校入試を回避できたとしても、学校の教員からの「評価」(内申点)からは逃れられません。それを基準にして指定校推薦や、(大学付属の中高一貫校であれば)系列大学の希望学部に進めるかどうかが決まります。さらに、大学に入ったあとも、成績評価があり、それがGPA(Grade Point Average)として算出されて、大学院進学の目安になったり、海外大学への編入や留学の基準になったり、企業によっては学生の就職活動の際に、その評価を参考にしたりするのです。社会人になったあとでも組織の中で働けば、いわゆる「人事考課」による上司からの評価を避けることはできません。
つまり、内申点評価が盛り込まれるから高校入試を避けるというのは皮相浅薄、目先のことしか考えていないと言えます。
いずれにせよ、「公立否定」の中学受験スタートはおすすめしません。何よりどんなに時間をかけて中学受験の準備をしたとしても、私立中高一貫校のどこかに合格をもらえるという保証はないのです。また、中学受験勉強の途中で、挫折しないとも限りません。つまり、地元の公立中学校に通う可能性はゼロではないのです。保護者の「公立否定」は知らず知らずのうちにわが子に伝染するものですから、最終的に「公立中学校」に進学することになれば、彼ら彼女らはそういう自分に対してどういう思いを抱くでしょうか。保護者はそこまで思いを馳せるべきでしょう。
中学受験は親がわが子にすすめる世界
中学受験の主役はもちろん「わが子」です。
なぜなら、塾に通って中学受験の勉強に連日励むのも、中学入試本番で初見の問題に挑むのも、それこそ、合格した学校に通うのも子ども本人だからです。しかしながら、わが子に中学受験の道を提示するのは保護者の役割です。
中学受験勉強は小学校3〜4年生くらいからスタートするのが一般的ですが、その年代の子どもたちが「確固たる」動機付けで中学受験を選ぶのは不可能です。先述した通り、仲の良い友人が塾に通って中学受験をするという話に影響を受けて、「それなら自分もやってみようかなあ」と軽く考える程度です。
そして、保護者は「公立否定」で中学受験をすすめてはならないと申し上げました。何かを否定して、別の何かをすすめるのはそもそも「不健全」です。それでは、わたしの考える「中学受験の意義」を説明しましょう。
中学受験は学びを楽しめる機会
保護者は、わが子にとって中学受験の経験が有益なものになるかどうかを熟考してください。わたしの考える中学受験の意義を大雑把に三点挙げてみます。
まず、中学受験は学びを楽しめる機会になります。中学受験勉強は大変な世界です。小学校5、6年生の2年間は「塾中心」の生活を子どもたちは送るようになりますし、中学入試で合格点を獲得するためには、難しい内容の学習に挑まなければなりません。世の中にはそんな中学受験生の姿を指して「かわいそう」だと同情する声がありますが、わたしからすると塾に通う子どもたちの大半は楽しく学んでいます。算数、国語、理科、社会といった教科は学べば学ぶほど眼前の世界が広がるエキサイティングなもの。また、解けなかった問題が解けるようになるのは子どもたちにとって嬉しいことです。
こういう過程で身につけた学習姿勢は、中学入学以降にも大いに役立つとわたしは考えています。
中学受験はわが子が自立できる機会
次に、中学受験はわが子が「自立」する契機になるという点です。中学受験は「親子二人三脚」と形容されますが、その主役は子どもであるゆえ、中学受験の「終盤」は子ども中心で学びに打ち込めるよう導いてほしいのです。入試の間際まで保護者が勉強を見たり、そのスケジュールを管理したりするのはおすすめしません。なぜなら、そういう保護者にとっては「わが子の合格」がゴールになってしまっているからです。ことばにすると当たり前ですが、中学校に入学したら、また新たな勉強が始まります。しかし、その際にこれまでそばにいてくれた保護者が急に姿を消したら、一人で勉強する方法がわからず、結果として中学入学以降は学力的に苦しんでしまう……そんなケースをよく見聞きします。さらに、「距離の近すぎる」保護者とわが子は円満に勉強を進められないことが多いのです。保護者はわが子の「できないところ」ばかりについ目を向けてしまうもの。子どもは保護者に対して甘えがありますから、何か手厳しいことを言われると、それに反抗し、喧嘩になることだってよくあります。
中学受験で中高一貫校と出合える
私立中高一貫の教育を享受できる。これが3つ目の中学受験の意義として挙げられます。
それは、「中高六年間で生涯付き合えるかけがえのない友人、恩師と出会える可能性が高い」ということです。中学と高校で「断絶」するより、同じ学び舎で6年間過ごすことで、その後も長く付き合える友人を見つけられることが多いのです。わたしの周囲の大人を観察していても、40代や50代になったいまも中高時代の友人と頻繁に会っている人たちは中高一貫校出身者が多いです。
そして、私立中高一貫校は教員の異動があまりないのが特徴です。すなわち、自分が中高時代に師事した教員が、十何年後もそのままその学校にいることがよくあります。大人になって何か大きな決断を下さねばならないとき、辛いことがあって思い悩んでいるとき……。そんなときに母校を訪れて恩師に話を聞いてもらうというのは中高一貫校でよく見られる光景です。わが子に中学受験の道を選択させるのは、保護者が中学受験、あるいは中高一貫教育自体に「魅力」を感じ、その「良さ」をわが子にも享受してほしいという思いからであってほしいのです。そういう確かな動機は、順風満帆には決していかない中学受験の世界で、いざというときに親子で踏ん張れる原動力になる。わたしはそう確信しています。
矢野 耕平 (著), ぴよとと なつき (著)『中学受験のリアル マンガでわかる 志望校への合格マップ』(KADOKAWA)
中学受験のスタートからゴールまで、マンガでイメージトレーニング
中学受験をはじめる前に、知っておきたい60のポイント徹底解説!
■はじめる動機、これで良い?
■受験校はどう決める?
■塾の面談、どんな準備をすれば良い?
■入試直前、どう接するのが正解?
■中学受験で得られる財産とは?
などなど、中学受験をはじめる時、はじめてから受験直前までに生じる疑問を、ベテラン中学受験講師が解説します。
