「なんでできないんだ」はNG 野球経験のある父親ほど気をつけたい“子どもとの距離感”

上原伸一 (著), 松井克典 (監修)

わが子が野球を始めたとき、つい熱が入ってしまう親御さんは少なくありません。特に野球経験のある父親ほど、「自分の理想」を重ねてしまいがちなのではないでしょうか。

20年間高校野球の監督を務め、現在はメンタルコーチとして活動する諸星邦生さんは、「人は思い通りにならない」という前提に立つことが、子どもとの関係を見つめ直す出発点になると話します。親や指導者に求められる「コーチングの視点」とは?

スポーツライターの上原伸一さんによるインタビューを、書籍『子どもが野球を始めたら読む本』より抜粋してお届けします。

※本稿は上原伸一 (著), 松井克典 (監修)『子どもが野球を始めたら読む本』(ベースボール・マガジン社)より一部抜粋、編集したものです。

子どもも選手も思い通りにはならない

上原:保護者である父親は、野球経験があるお父さんと、全くないお父さんとの2つに分けられます。

諸星:野球経験があるお父さんは、ある程度自分のやり方を持ってます。それは子どもからするとメリットですが、それが過ぎると押し付けになり、デメリットに変わってしまいます。

上原:自分の夢を子どもに託すお父さんもいるのでしょうね。実際、そういうお父さんを目にしたことはありますか?

諸星:息子とたまにバッティングセンターに行くんですが、そこでは指導熱心というか、過熱しているお父さんを見かけます。たいていお子さんはかなり上手です。でもすごく怒られている(苦笑)。そういうお父さんは子どもの悪いところだけを改善しようとするタイプが多いかもしれません。

上原:いいところを伸ばすのではなく、悪いところを指摘する。かつては少年野球もこういうタイプの指導者が多かったですね。

諸星:実は私も若いころはそのタイプだったんですよ。恥ずかしながら……。でも、今はすごく躊躇します。これを言ったら、ここのいいところがなくなってしまうんじゃないかなと。

上原:監督としての指導の転換期というのは、何年目くらいでしたか。

諸星:15年目くらいでしょうか。それまで本当にガンガンやってましたね。ただ、先ほども触れた通り、野球だけではなく、いろいろなことをさせてました。私に野球を仕込んでくれた父親がそうだった影響もありまして。浮かんだアイデアをどんどん試してました。例えばタイヤ押しもいいけど、真っすぐに転がすのもトレーニングになるのでは……といった感じに。

上原:これは野球に限った話ではないですが、今でも「何でできないんだ」と叱るだけで、「こうすればできる」と具体的に教えられる指導者が少ないようです。

諸星:そこで必要になってくるのが「ティーチングとコーチング」で、どうすればできるか、具体的に教えてあげるのが「ティーチング」で、どうすればできるかを考えさせてあげることが「コーチング」なんです。自分のライフワークとして、これは広めていきたいと思ってます。総じて野球経験がある指導者や父親は、自分のなかに理想を持ってます。だから、選手や子どもが理想に近づいていない現状に腹が立ってしまうのでしょう。

上原:自分がここまでの選手だったから、こうなってほしい、あるいは自分がこういう選手だったから、そのレベルまで来てほしいと考えてしまうのでしょうね。いずれにしても自分のイメージ通り、思い通りにしたいと……。

諸星:コーチングで言えば、そもそも人は思い通りにならない、相手を変えることはできないという大原則があります。そこを指導者や小学生の親御さんには理解してほしいですし、それだけで子どもとの接し方がだいぶ変わってくると思います。

上原:これは野球だけでなく、いろいろなことに通じそうです。

諸星:子育てもそうですね。子どもは自分の思い通りにならない。私もそう思って子育てをしてます。

成功だけでなく失敗も認めてあげる

上原:するとコーチングと対になっているのが「どうしてできないんだ」なんですね。

諸星:言われた側からすると、精一杯やろうした結果、できなかったわけです。どうしてって責めても仕方ないんですよ。コーチングでは「質問力」という引き出す力が求められます。なぜできなかったか考えよう、という方向に持っていくわけです。

上原:スポーツの現場では、「なんでできないんだ」という言葉を口にする指導者はまだまだ多いですよね。

諸星:それは指導者が選手をフリーズさせているだけなんです。そう言われても選手から言葉が出てくるわけはないのに、追い打ちをかけているだけなんです。

上原:失敗したというのは、その子が一番よく分かってますからね。

諸星:そうですね。人間関係のコミュニケーションの根本的なところに、人を責めないというのがあるんじゃないかなと。どんなケースでも、人を責めても何の解決にもつながらないので……それはスポーツ指導だけでなく、子育てでも、会社の上司と部下の関係でも同じだと思います。

上原:反対に成功した場合は「褒める」ようにしているんですか?

諸星:「認める」ですかね。

上原:いい言葉ですね。「褒める」ではなく「認める」。

諸星:もちろん、よくやったなと伝えますが、なんでこうできたか、その答えを言わせるようにしてます。

上原:子どもとの会話のなかでは、子どもから自発的に発信できるようにコミュニケーションをするといいわけですね。親御さんや指導者が何かを言って終わりではなく、言葉のキャッチボールができるように持っていくのが大事なんですね。

諸星:成功だけでなく、失敗も認めてあげてほしいです。チャレンジがあってこその失敗なので。

上原:成功も失敗も認めてあげる。実際はなかなかできない親御さんや指導者がたくさんいるでしょうね。

諸星:ぜひ、お子さんを認めてあげてください。

子どもが野球を始めたら読む本

上原伸一 (著), 松井克典 (監修)『子どもが野球を始めたら読む本』(ベースボール・マガジン社)

主人公は野球を始めたばかりの子を持つおとうさんとおかあさん。成長期の子どもに本当に必要なもの、食の大切さと体づくり、初めての道具選び、女子野球、気になるお金のことまで。ヒントを求めて7人の賢者を訪ねた筆者が、扉の向こうに見たものは──。