当番に親同士の上下関係… 子どもの硬式野球で知った「保護者の現実」

上原伸一 (著), 松井克典 (監修)
2026.02.18 10:42 2026.03.04 11:50

少年野球で仲間を応援する小学生たち

野球を続けるには、月謝や遠征費などの金銭的負担がかかります。しかし実は、親に求められるのはお金だけではありません。当番、遠征帯同、保護者同士の「上下関係」など、家庭が向き合うことになる現実とは?

小学校から大学まで野球を続けた息子を持つ父親・Sさん(仮名)へのインタビューを、書籍『子どもが野球を始めたら読む本』より抜粋してお届けします。
(本記事は後編です。)


※本稿は上原伸一 (著), 松井克典 (監修)『子どもが野球を始めたら読む本』(ベースボール・マガジン社)より一部抜粋、編集したものです。

選手の親にも学年の上下関係があった

野球の帽子、バット、グローブ、ボール

上原:他にはどんなことでお金がかかりましたか?

S:用具やチームで揃えるウエアにもお金はかかりましたが、全国大会の遠征やゴールデンウイークの合宿では旅費や宿泊費の大きな持ち出しがありました。特に3年生のときに出場した全国大会の1つは、開催地がかなり遠方だったので、私、妻、そして息子の3人分で、40万円ほどかかりました。それは一応、自由参加にはなってましたが、息子の晴れ舞台ですからね。親としても見に行きたいと。

上原:保護者の当番はありましたか?

S:はい。1学年にお父さんとお母さんがペアで所属する班が4つくらいあり、だいたい1カ月に1回くらい順番が回ってきました。

上原:どんなことをするんですか?

S:主にバッティングゲージの設置など練習の準備と、終わってからの撤収です。練習の間、お母さんたちは監督、コーチにお茶を出したり、練習試合があれば、当番の家庭が配車やアナウンスを担当するのですが、お父さんは特に仕事はありません。でも撤収があるので、原則1日中、グラウンドにいなければならない。炎暑の日もあれば、寒風吹きすさぶ日もあり、季節によっては体が辛かったときもありました。

上原:練習は土、日、祭日ですから、仕事の都合で当番ができない人もいたでしょうね。

S:そういう人はいました。毎回、お父さんが来られないとか……「何であそこはいつもお父さんが来ないのか?」と口にする人もいましたね。

上原:しかし、行けないのはお仕事の関係ですからね……。当番以外でも保護者の仕事はありましたか?

S:チームがグラウンドを持っていなかったので、その抽選に行くのも親の役目でした。あと合宿の担当になった場合は、子どもたちと同じところに宿泊し、運営のサポートをしなければなりませんでした。

上原:保護者間の人間関係は良好でしたか?

S:同学年の親同士は良かったですね。同学年の家庭で組んでいた班の人たちとは今も交流があります。ですが、上の学年との親御さんとのコミュニケーションには苦労もありました。下の学年は親も必ず敬語を使わなければいけないとか、お母さんは学年が上のお母さんには目の前で背中を向けてはいけないとか……。

上原:そういう決まりがあったんですか。

S:明文化された「決まり」ではないんですが、いま考えると不思議な、世の中の常識とはかけ離れているような「不文律」がいろいろありました。父親同士よりも母親同士のほうが難しいところがあったようで、私より妻のほうが苦労したと思います。監督、コーチにコーヒーを出すときも、あの人はブラック、あの人はミルクだけとか、そういうことも覚えなければいけなかったようで……。

父親間では野球経験で立場が変わる

野球をするバッターの小学生・中学生

上原:お話をうかがうほどに、子どもが中学で硬式野球をするには、親御さんもある種の「覚悟」が求められるような気がします。

S:それはあると思います。そもそも強豪の中学硬式クラブチームは、親の熱さが違うんです。特に小学時代から活躍していた選手たちの親は、子どもへの期待や入れ込み方が尋常ではなくて……子ども以上に親が野球に懸けている感じがしましたし、あまりにも子どもへの期待が大きく、あれでは子どもが可哀そう、と。試合で凡退すると、大きな声で自分の子を叱りつける親もいましたから。

上原:中学でも活躍して、高校は野球の強豪に入って甲子園に出場するという、青写真を親御さんが描いているんでしょうね。

S:当時はわからなかったんですが、先を見据えていたんだと思います。試合応援1つにしても気合いが違うんですよ。もっと一生懸命に親が応援しなければいけないと、応援練習までやらされました。

上原:ある種の同調圧力ですね。

S:そんな感じもありましたね(苦笑)。ウチもそうでしたが、そこまでではない家庭も少なくなかったので。熱心過ぎる親御さんに合わせていた感じですね。そういう親の子はたいてい中心選手でしたが、子どもの野球レベルによって親の「序列」が決まってしまうこともありました。

上原:良く言えば、熱がある親御さんが引っ張っていたのでしょうが、疑問や不満を持っていた親御さんもいたのでは。

S:流せる人もいれば、ぶつかってしまった人もいたようです。父親間では野球経験による「序列」のようなものも存在しました。野球の経験値の順番で「番付」が決まるという……社会人野球や大学野球の経験者、あるいは甲子園に出場した人が偉いような空気がありました。実際、小学時代までしか経験がない私はよく「そんなことも知らないのか」という接し方をされましたし、最初の頃は勝手がわからず作業でもたついていると「部下」のような扱いも受けました。

上原:たとえ野球の経験値が低くても、いい歳をした大人の社会人ですからね。疑問が生じるというか、受け入れ難いところもあったでしょうね。

S:正直なところ、カチンとくることもありましたが、そこは子どものためにとやり過ごしていました。妻も同じだったと思います。

上原:保護者間ではないですが、保護者が監督やコーチから「部下」のように使われる、という話も聞いたことがあります。なぜ実社会ではないところで、伝えていただいたような「大人の上下関係」が生じるのか不思議です。一部の中学硬式のチームからすると「そういうもの」なのかもしれませんが、利益を生む組織ではない分、余計に人間関係が難しいのでしょう。

S:昭和の運動部のような封建的な感じもありました。一方で親が一生懸命だと、監督やコーチの子どもに対する見る目も変わってくるような感じも受けました。ボランティアチームですから、当番以外にも積極的にチームの手伝いをしてくれる親がいると助かるのは確かですし、反対にあまり顔を出さない親に対しては協力的ではない印象を持っていたようです。

上原伸一

1962年生まれ。東京都出身。國學院大學文学部を卒業後、外資系のスポーツメーカーのマーケティング職などを経て、2001年からスポーツライターに転身。活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在ではベースボール・マガジン社の『週刊ベースボール』、『大学野球』、『高校野球マガジン』などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞『4years.』、『NumberWeb』、『スポーツナビ』などに寄稿している。2020年より「Yahoo!ニュース エキスパート」。

松井克典

1973年生まれ。日本工業大学共通教育学群・准教授(コーチング学)。埼玉・春日部高、千葉大、山形しあわせ銀行(現・きらやか銀行)、全大宮野球団で内野手としてプレー。以降、体育科教員として勤務した6校(スポーツ専門学校2校、高等学校3校、大学)で野球部コーチ、監督を歴任。並行し、自分の子どもと同時に入団した学童野球チームでコーチを5年間務めた。現在は大学での教育・研究とともに、一般社団法人野球まなびラボ代表理事として小中高の野球指導者・保護者の学びの場の創出や、コーチングやチームビルディングの普及活動に尽力。野球をはじめスポーツに関わるすべての方々が学び、成長していくため活動を行っている。「人生一期一会」「スポーツと教育のミライをデザインする」をコンセプトに、スポーツや教育のあり方を追求している。

子どもが野球を始めたら読む本

上原伸一 (著), 松井克典 (監修)『子どもが野球を始めたら読む本』(ベースボール・マガジン社)

主人公は野球を始めたばかりの子を持つおとうさんとおかあさん。成長期の子どもに本当に必要なもの、食の大切さと体づくり、初めての道具選び、女子野球、気になるお金のことまで。ヒントを求めて7人の賢者を訪ねた筆者が、扉の向こうに見たものは──。