本を読むと本当に頭はよくなる? 大規模調査で判明した「読書と知能の関係」

猪原敬介
2026.02.25 18:52 2026.03.13 11:50

図書館で読書する男の子

子どもの知能を伸ばしたいと考え、読書を勧める親は少なくありません。では実際に、「本を読めば頭がよくなる」という言説は科学的に裏づけられているのでしょうか。本稿では、書籍『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』より、研究データが示す読書の効果を解説します。

※本稿は、猪原敬介著『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』(日経BP)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

本を読むと本当に「頭はよくなる」のか?

本を読む子ども

読書に期待される効果の1つに、ざっくりといえば「頭がよくなる」というものがありますね。
しかし、そもそも「頭がよい」というのは、どういう意味なのでしょうか?

人によって「頭がよい」に含めるものは違いますが、一般的な「頭のよさ」として、次のようなものがあります。

● 知能が高いこと
● 勉強ができること
● コミュニケーション力があること
● 物事を深く考えて判断できること
● 創造性があること

これらは多くの人が「ああ、これは『頭のよさ』だね」と同意してくれるものだと思います。
実はこれら5つの「頭のよさ」には、すべて「読書が影響するか?」を検討した研究知見があります。

ここではひとまず、これらのうちから「知能が高いこと」と「勉強ができること」を取り上げ、「頭のよさ」としてみましょう。

「読書が知能を高める」のは実証ずみ!

図書館

この見出しを読んで、「え、知能って生まれつきのもので、変化しないんじゃないの?」と思った方がおられるかもしれません。

実際には、知能指数(IQ)の高低について、「生まれつき」によって説明できる割合は5割程度であること、特に児童期に測定された知能については「生まれつき」では4割程度しか説明できないことがわかっています(※1)。
「生まれつき」以外の要因、つまり「環境」によって、知能もきちんと変化するということですね。

知能には、情報をすばやく正確に処理したり、推論を働かせたりする「流動性知能」と、言葉の力や一般的知識と関連する「結晶性知能」の2つがありますが、環境によって変化するというのは、このどちらについてもいえることです。

(※1)安藤寿康(2016). 日本人の9割が知らない遺伝の真実. SBクリエイティブ

アメリカでの大規模調査の結果

本を読む子ども

では次に、読書と知能の関係を見てみましょう。

児童の健康と脳の発達についてのアメリカ最大の追跡調査で、「ABCD調査」と呼ばれるものがあります。

10歳前後の児童、約1万2000人を対象に1回目の調査を行い、彼/彼女らが12歳前後になる2年後に2回目の調査を行いました。

中国のある研究チームは、このABCD調査のデータを用いて、「子どものころの『楽しみのための読書』は、知能や精神的な健康を高めるのか?」について検討しました(※2)。

保護者の回答をまとめると、子どもが楽しみのための読書をした期間は、
●0年〜2・5年という「読書期間が短いグループ」が全体の48%
●3年〜5・5年という「読書期間が中くらいのグループ」が全体の41%
●6年以上という「読書期間が長いグループ」が全体の11%
でした。

なお、「読書期間が短いグループ」には、楽しみのための読書をまったくしてきていない子どもも含まれます。
 
10〜12歳前後の時期といえば、日本では小学4〜6年生ごろになります。この期間の「知能」の変化に、小学4年生以前の「楽しみのための読書」は、どのような影響を与えたのでしょうか?

ここでの「知能」には、情報をすばやく正確に処理したり、推論を働かせたりする「流動性知能」と、言葉の力や一般的知識と関連する「結晶性知能」の両方が含まれています。

結論としては、楽しみのための読書期間が長い児童ほど、知能が高まっていたのです。

しかも、
● 楽しみのための読書期間が長い→ 思考や記憶など、高次の能力を司る脳皮質の体積が増加→ 知能上昇
という因果関係があることをデータは「否定しなかった」のです。

(※2)Sun, Y. J. et al(2023). Early-initiated childhood reading for pleasure: associations with better cognitive performance, mental well-being and brain structure in young adolescence. Psychological Medicine, 54, 1-15.

「データは否定しない」とは?

読書、本棚、勉強

「データは否定しない」というと、ずいぶん遠回しな表現だと感じられるかもしれません。しかし心理学が得意とする「参加者を多数集めて、得られたデータを統計解析にかける」というアプローチでは、何かを「証明する」ことはほぼ不可能です。

できることは、「統計的にみて、その主張をデータは否定しなかった」という知見を積み上げていくこと。これを「実証」といいます。

こうした実証を積み重ねていく方法論の中で、ABCD調査では、「楽しみのための読書を小さいころに長く行っていると、脳の体積が増えて、結果として知能が高まった」という結果が出た、というわけなのです。

ちなみに、データの解釈について、このようなことを思ったカンのよい方もおられるかもしれません。

「読書期間が長い家は裕福な家で、読書以外の家庭教育が優れていたから、知能が高まったのではないか?(読書ではなくて、別の家庭教育が知能を伸ばしたのではないか?)」

これはもっともな疑問です。とはいえ、実は先ほどの分析では、
● 年齢
● 性別
● BMI(体重と身長から算出される肥満度)
● 人種/民族
● 家族の社会経済的地位(親の学歴と世帯所得を含んだ指標)
の違いが影響しないように、これらの影響が「統計的に統制」されていました。

「統計的に統制」とは、これら5つの違いが知能に及ぼす影響を統計的に推定し、その影響を打ち消した上で「読書が知能に及ぼす影響」を計算するということです。

つまりここでは、「家が裕福であるかどうかにかかわらず、読書期間が長いほど知能が高まる」といえそうなのです。

猪原敬介

教育心理学・認知科学者。北里大学一般教育部専任講師。京都大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。専門は教育心理学・認知科学。研究・教育の傍ら、エビデンスに基づいて子育て・教育・自分時間を考えたい人のために、読書・ことば・学びの研究知見をわかりやすく発信する活動も行う。著書に『読書効果の科学 読書の"穏やかな"力を活かす3 原則』『読書と言語能力 言葉の「用法」がもたらす学習効果』(いずれも京都大学学術出版会)などがある。一児の父。

X:@inoharakkk

科学的根拠(エビデンス)が教える子どもの「すごい読書」
猪原敬介著『科学的根拠(エビデンス)が教える 子どもの「すごい読書」』
本が好きな子にも、ちょっと苦手な子にも。
本を読めば、将来、直面する「壁」や「迷い」を乗り越えやすくなる。

本の効果は、「頭がよくなる」だけではありません。
探究心・知的好奇心・思いやり・友達や周囲の大人とのコミュニケーション力...読書の効果を無理なくいいとこ取りするための、科学的根拠が教える読書法!!