【子育て体験談】精一杯の優しさ

読者からの体験談
2023.10.06 14:30 2023.02.01 16:48

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夫が警察学校へ入校して始まった母子家庭生活。仕事と育児を1人でこなす大変さにくじけそうになったときに届いた手紙は…。

※本記事は『PHPのびのび子育て』(2012年10月号)に掲載され、WEBサイト「PHPファミリー」にて一部抜粋・編集の上で公開されたものです

子どもの成長におどろいた話

「今のうちに、新しい職場を探さないといけないかも。会社を継げるような景気ではなくなってきた」

ある日、夫から打ち明けられました。景気の良かった頃、勤務先の社長より、「後継ぎがないので会社を継いで欲しい」と言われていましたが、今は経営不振に陥っていたのです。

育児休暇中で、収入の激減していた私は驚きました。その後、一緒にハローワークに仕事を探しに行きましたが、夫が就きたいと思えるような仕事はありません。

ふと、「小さい頃は何になりたかったの?」と夫に尋ねると、「母に初めて買ってもらった本が白バイの本だった。それをいつも見ていて、自分も白バイに乗りたかった」と言ったのです。

「あなたは若いから、まだ間にあうよ。チャレンジしてみたら?」と励ますと、夫も決心がついて、試験勉強を始めることになりました。その後、夫の勤務先は会社をたたむことになりました。

夫は、家計のため8時間以上のアルバイトをしながら夜中に試験勉強、休日は5~6時間勉強し、無事公務員試験を突破。訓練のため、10カ月間警察学校に入校することになりました。

入校式当日、私は義母と息子を連れ、式典に行きました。緊張感ただよう雰囲気の中、1歳9カ月の息子は式典を理解できるはずもなく、座るのに飽きてくると、会場内を走りだし、私が追いかけて捕まえては会場内から注目を浴びることを繰り返していました。

その後、本格的に母子家庭生活が始まりましたが、想像以上に1人で仕事と育児と家事をこなすのは大変でした。

2週間ほど経って、心身ともに疲れてきたある日のこと。夫から手紙が届きました。

「毎日が厳しいですが、なんとか頑張っています。もう少しで、あなたと息子に会えると思うとしくて、厳しい訓練にもついて行くことができます。子育て、家事と、迷惑をかけてごめんね。体調に気を付けて、働きすぎないようにね」

訓練に明け暮れる夫は、家族のことなんて忘れているのではないかと思っていたので、とても嬉しく思いました。

とはいえ、夫が帰宅できるのは月2回ほど。会うたびに身長が伸びたり、言葉が増えていたりする息子の姿を見て、「自分の知らない息子がいる。成長を見ることができず淋しい」と話している一方で、息子は、夫が仕事のために時々しか帰ってこないことが理解できません。目を覚まし「パパがいない」と泣き続けたり、不安定になったりすることもあり、手がつけられないことが時々ありました。

私はフルタイムで働いているため、息子が熱を出したからといって、いつも仕事を休めるわけではありません。自分なりに頑張っているのに、仕事も育児も上手くいかないことが続き、一度だけ感極まって、息子の前で声を出して泣いてしまったことがありました。

一度泣いてしまうと、気持ちが高ぶってしまい、涙が止まりません。その時、息子は驚きました。でも、黙って近寄ってきて私を抱きしめてくれたのです。今まで、私が抱きしめることはあっても、自分から抱きしめてくれることはありませんでした。息子の精一杯の気持ちだったと思うと、ますます涙があふれてきました。

そうやって家族3人、それぞれが毎日を精一杯過ごし、入校から10カ月後、夫は無事に卒業式の日を迎えました。式典中、私は、長かった月日を思い出し、涙が止まりませんでした。息子は2歳6カ月になり、入校式の日の走り回っていた時とは別人のように、きちんと座って式典を見守っていて、10カ月の成長を感じました。

卒業式の翌日、息子は保育園で担任の先生に、「パパかっこよかった」と話したそうです。「パパがいない」と泣いていた息子は、今では、「大きくなったらパパと一緒にお仕事するの」と嬉しそうに言っています。

卒業後、半年間単身赴任生活があり、その後また一緒に住むことができるようになりました。計1年4カ月の生活は、家族のを一層強くし、息子の優しさや成長も感じることができました。

今の幸せな生活が当たり前のことだと思わないように、時々夫のくれた手紙を読み返しています。これからの人生で、つらい出来事が起こっても、この生活を思えば、乗り切っていけそうです。

(河野恵、愛媛県)

nobico(のびこ)編集部

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