「いじめを絶対にゆるさない!」が生み出してしまう“新たないじめ”
子どもはそもそも未熟なもの
また、いじめる側の理論として、「やられるほうにも原因がある」というものがあります。
「あいつが嫌な奴だからやった」ということです。
もちろん、人間ですから「苦手な相手」「嫌いな相手」がいるのは仕方がないかもしれません。
ですが、相手のことを嫌いだからといって、攻撃してもいいのかというとそれは違います。
嫌いな相手を好きになるのは難しいかもしれませんが、その気持ちを表に出さないことはできますし、そうするべきです。
まだ小さかった息子が「幼稚園に嫌いな子がいる」と悩んでいたとき、私はこう言ったことがあります。
「お父さんにも嫌いな人がいるけれど、だからといってその人に意地悪はしないよ。きちんと挨拶もするし、本人に嫌いだと言ったりはしないよ」
このように、「みんな仲良く」という理想論ではなく、「心と行動は切り分けられる」ということを伝えることが大切ではないかと思うのです。
子どもたちの心に、無意識に人の好き嫌いを植え付けないよう、大人たちも気をつけなければいけません。
たとえば他の子について何気なく、「あの子、性格が悪いからね」などと子どもの前で口にしていませんか? こういった考え方の行きつく先が、
「やられるほうにも原因がある」という主張です。
たしかに、大人から見たときに、未熟な行動をする子どももいます。ですが、本来子どもは未熟なものなのです。思ったことをそのまま口にしてしまったり、抑制がきかなかったりすることもあります。
子どもの性格が悪く見えるのも当たり前のことです。今はまだ、社会性を身につけるための成長途中なのですから。
とくにアスペルガー症候群の子どもには、空気を読むのが苦手で率直すぎる発言をしてしまう特徴があり、相手を傷つける言葉を悪気なく発してしまうこともあります。
でもその子が、性格が悪いとは言えないはずです。
大人が子どもたちの振る舞いを、もう少し温かく見守ることも必要ではないでしょうか。
「いじめは絶対に許さない」?
いじめ撲滅の標語でよく使われている、「いじめを絶対に許さない」という言葉があります。
一見、聞こえのいい言葉に感じるかもしれませんが、私はこの言葉は人に対してとても冷たい言葉のように感じます。
「いじめは絶対に許さない」ということは、謝っても許されない、反省しても許さないという言葉に聞こえてしまいます。
そもそもいじめを起こさないために使われるようになった言葉ではありますが、こう言われる環境で育っている子どもたちからすると、はたして正直に「私、あの子をいじめてしまいました」と言えるでしょうか。
もちろん、いじめは決して良いことではありません。いじめをなくす取り組みや指導は必要だと思います。
ですが、言葉で「みんな仲良く」や「いじめを許さない」「いじめをゼロにする」などと言っても、いじめはなくなりません。
ましてや、この多様性を排除する言葉がいじめを生み出す原因になったり、いじめを解決できなくする原因になったりするように、私は感じています。
いじめた相手を「許さない」と切り捨てるのではなく、なぜそうなってしまったのかを共に考える。そして、「心と行動は切り分けられる」ということ、さらに「違いを認めてリスペクトする」ということの大切さを伝え、いじめにつながる要素を減らしていく。それこそが私たち大人のすべき取り組みではないでしょうか。
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