出版社が熾烈な戦い!? 同じようでけっこう違う「学習まんが・日本の歴史」5選

馬屋原吉博

現在、さまざまな出版社から刊行されている学習まんが版「日本の歴史」。学力向上や入試対策として購入する場合、「子どもが実際に最後まで読んでくれるかどうか」が最大の鍵となります。

そこで、それぞれの特徴や子どもに合った選び方について、中学受験個別指導教室で社会科教務主任を務める馬屋原吉博さんに聞きました。(取材・文=久保美鈴、 撮影=澁谷高晴)

【馬屋原 吉博(うまやはら・よしひろ)】
中学受験専門のプロ個別指導教室「SS-1」副代表、社会科教務主任。
中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員。1983年生まれ。著書に『今さら聞けない! 世界史のキホンが2時間で全部頭に入る』(すばる舎)、『カリスマ先生が教える おもしろくてとんでもなくわかりやすい 日本史』(アスコム)などがある。

大手出版社がこの10年で続々と参入した学習まんが「日本の歴史」

中学受験専門のプロ個別指導教室「SS-1」副代表の馬屋原吉博さん

 

――入手しやすい学習まんが「日本の歴史」としては、小学館、学研、KADOKAWA、集英社、講談社といった大手出版社のものがあります。いずれもこの10年で発売されたもので、学習まんが「日本の歴史」市場が活気づいていることがわかりますね。

(馬屋原)2020年度から学習指導要領が改定されたことに合わせて、各社とも最新の歴史観、用語を使用した学習まんがを刊行するようになりました。また、近年の入試では近現代史について多く出題されるようになったため、学習まんが「日本の歴史」でも各社が近現代史に注力するようになり、いずれも入試にも役立つことをアピールしています。

2020年以前に発売されたシリーズでも、ちゃんと重版の際に内容が更新されているものもあります。目的やお子さんのレベルに合わせて、最適な「日本の歴史」を選んでいただきたいと思います。

「初めての子」に読ませたい『「DVD付 学研まんが NEW日本の歴史』(学研)

――では、刊行順に各社の学習まんが「日本の歴史」を見ていきましょう。まずは学研の、『DVD付 学研まんが NEW日本の歴史』。2012年の「日本の歴史」をソフトカバーにして約30分のDVDを付けたもので、2021年に発売されました。

(馬屋原)DVDを付けるというのは子ども向けの図鑑でもよくありますし、読者となる子どもたちは動画世代なのでいいと思いますね。今は動画配信という手段もありますが、親が管理しやすいという意味ではDVDのほうがいいのでしょう。

――他社版がどれも約20巻なのに対して、『「DVD付 学研まんが NEW日本の歴史』は全12巻と、非常にコンパクトです。

(馬屋原)オールカラーで文字もコマも大きく、読みやすさを重視した構成になっています。漫画の中の情報量はあえて少なくして、欄外の豆知識や巻末の資料編でその分を補っているという形ですね。興味のある子は資料編を読むことができますので、知識の量自体は確保できているという印象です。学習参考書で定評のある出版社ならではのアプローチだと思います。

大人が読むと物足りないと思うかもしれませんが、小学校低学年の子どもたちにとっては、こちらのほうが親しみやすいはず。初めて触れる「日本の歴史」まんがとしておすすめです。

歴史の流れを伝える『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』(KADOKAWA)

――続いては、2015年に刊行された角川まんが学習シリーズ 日本の歴史です。2016年以来、7年連続で売上ナンバーワンというデータもあります(「児童書/学習まんが/日本の歴史」ジャンル紀伊 国屋書店チェーン・TSUTAYA[2016/1~2022/12])。

(馬屋原)KADOKAWA版の特徴は、ひとりの先生が全巻の監修をされているということ。東京大学の山本博文先生です。残念ながら2020年に若くして亡くなられましたが、一般の人向けに歴史の流れのとらえ方の本を精力的に書かれた方でした。

最近の入試の傾向として、歴史の流れが重視される傾向がありますが、このシリーズはひとりの方が監修することで、統一された歴史観のもと、巻ごとのつながりや歴史全体の大きな流れがわかりやすくなっています。

また時代ごとの背景が非常にくわしく描かれており、小学生向けのまんがとしてドラマの演出も良くて、読みやすくなっていますね。巻ごとにまんが家さんは異なりますが、統一感があります。全体的な文字の量や、セリフとナレーションの配分、コマのサイズなどが全巻を通してかなり統一されているからではないでしょうか。

資料ページは多くありませんが、グラフや地図などはまんが内に盛り込まれており、まんがの中で説明しようという意識の表れを感じます。まんがの情報量は非常に多くて、中学受験から大学受験まで対応できるレベルです。

――ソフトカバーで四六判というコンパクトなサイズは、KADOKAWA版が最初です。後に講談社・集英社が追随して、現在ではジャンル全体のトレンドとなりました。

(馬屋原)今の子どもは忙しいので、じっくり家でハードカバーの本を読むような時間はないでしょう。移動時間や休憩時間にも読めるようなサイズが、時代にも合っていたのだと思います。収納という意味でも、現代の家庭にピッタリでしたね。

――第16巻は2022年10月に刊行されています。

(馬屋原)東日本大震災から新型コロナウイルス、安倍元首相銃撃事件まで、この10年の社会と政治の動きを子どもにもわかるように伝えてくれる内容になっています。毎年秋になると、中学受験の時事問題対策用の参考書が発売されますが、ほとんどがその年に何があったのかを中心に記述されたものです。この10年をわかりやすく伝えてくれるものとしては類書がありませんので、時事問題対策としても強くお勧めしたいですね。