発達心理学が明かす「子どもに親が取るべき態度」

森口佑介
2023.04.04 20:51 2023.04.04 20:26
 

親の温かさが子どもに影響する 

泣く子とママ

また、他者の信頼だけではなく、向社会的行動(思いやり)に特に大事だとされているのが、親の温かさです。ここで言う温かさとは、子どもへの愛情と支援のことです。

やはり向社会的な行動の根底には、他者に対する共感や同情があるので、親が温かさを持って子どもと接することで、それらが育まれ、子どもの向社会的行動の発達につながるのでしょう。

カナダの研究では、親の温かさと幼児の向社会的行動の間に関連があるかを調べました。この研究では、母親と父親を対象に、質問紙で温かさを調べています。

たとえば、「あなたが温かい声で子どもに声をかける頻度は?」などの質問を与えられます。また、子どもがどの程度、向社会的行動をするかも聞いています。

その結果、母親、父親双方の温かさが、後の子どもの向社会的行動と関連していることが示されました。ただし、その影響力は小さなものであることにも留意する必要があります。

多くの研究が母親の影響は示しているものの、父親の影響を示したものはほとんどありません。今回の研究では母親の温かさと父親の温かさはそれほど強く関係していないので、父親の影響力が弱いながらもあったと考えられます。筆者自身、父親ですので、父親の影響もあるという点はよかったなと思います

この研究では、逆の方向性――子どもの向社会的行動が両親の温かさに影響する可能性もあるので、その方向性も検討しましたが、こちらの影響は認められませんでした。

一方、8か国の小学生以上を対象にした研究では、むしろ、子どもの向社会的行動が両親の温かさに影響することも示されています。

筆者らも国内で母親の温かさと子どもの向社会的行動の関連を検討したのですが、関係は認められませんでした。向社会的行動の測定方法の違いや、全体的に温かさが高かったことが起因しているかもしれません。

まとめると、子どもが幼い頃は、両親の温かさが子どもに影響を与え、向社会的行動を育むものの、その後は、子どもの向社会的行動に親がほっこりするような、そういう関係性が認められます。

親の権威は大事

料理をする親子

具体的な子育て方法を少し離れて、育児態度(のようなもの)についても触れておきましょう。実行機能(自制心)にしても、向社会的行動にしても、親の権威は大事なようです。

心理学でよくみられる養育態度の分類として、心理学者ダイアナ・バウムリンドが提唱した「権威的」「権威主義的」「許容的」の三つがあります。

ごく簡単に言うと、先述の温かさや子どもの欲求への敏感さを含む応答性という側面と、親が子どもを管理・統制する側面から養育態度を分類します。

応答性は、「子どもが一人で遊んでいて、退屈そうだなと思ったとき、加わって一緒に遊ぶ」などの質問で調べ、管理・統制は、「図書館や映画館など静かにしなければならない場所では、子どもを静かにさせる」などの質問で調べます。

応答性が高く、管理・統制も高いのが「権威的」な養育態度で、応答性が低く、管理・統制が高いのが「権威主義的」な養育態度です。応答性が高く、管理・統制が低いと、「許容的」な養育態度となります。

権威的と権威主義的は名前が似通っていますが、応答性があるかどうかで違いがあるのです。

国内外の研究から、子どもの健全な発達に寄与するのは、「権威的」な養育態度であることが報告されています。温かさは大事なのですが、温かいだけで子どもを導けないのもダメなようです。

一方で、親の権威は大事なのですが、権威ばかり重視して厳しすぎて、子どもに温かさを示せないのもダメなようです(権威主義的な養育態度)。温かさと厳しさの両方がバランスよく揃っていることが大事なのです。

実行機能については、母親が権威的な養育態度であると、権威主義的な場合や許容的な場合よりも、子どもの実行機能が高い傾向にあることが国内の研究からも報告されています。ただ、父親の態度はあまり影響を及ぼさないようです。筆者らの研究でも、親が管理的・統制的な傾向が強いと、実行機能の課題の成績が良いことを示しています。

権威的な養育態度は子どもの向社会的行動の発達も促進するようです。これにはいくつかの経路があり、一つは、先述したとおり、温かさなどによって子どもの向社会的行動を直接的に促進させるものです。

二つ目の経路は、実行機能を介した間接経路です。権威的な養育態度が子どもの実行機能の発達を促進させることで、子どもがネガティブ情動を制御できるようになり、向社会的行動をとりやすくなることが示されています。

権威があるということは、子どもが親を敬い、信頼するということでもあります。信頼できる親のもとで子どもの発達が促進するのです。

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