「本番で緊張しない子」が行っている直前の準備とは

羽生綾子

スポーツの試合や、試験で実力を発揮するためには、「緊張」と向き合うことが大切です。東京オリンピックで4つのメダルを獲得した日本卓球を支え、張本智和選手や平野美宇選手など輩出した、国際競技大会にて活躍できる目的で設立されたJOCエリートアカデミー。その卓球部門の責任者などを務めた羽生氏が教える、本番を成功させるための準備とは?

※本稿は、羽生綾子著『子どもが本番で最高の結果を出せるコンディションの整え方』(日本能率協会マネジメントセンター)から、一部抜粋・編集したものです

[著者紹介]羽生 綾子(はぶ・あやこ)
公益財団法人日本卓球協会NTC専任アスレティックトレーナー、一般社団法人日本肢体不自由者卓球協会ヘッドコーチ、JOCエリートアカデミーコーチングスタッフ。
1971年東京生まれ。アリゾナ州立大学卒・ピッツバーグ大学大学院卒。アスレティックトレーナーとして、米大学スポーツでトップアスリートをサポートし、また整形外科クリニックでも幅広く指導を行う。帰国後は2006年より卓球女子ナショナルチームのサポートを担当、オリンピックをはじめとする国際競技大会で活躍できる選手の育成を目標にしたJOCエリートアカデミーの責任者を経て、2022年よりオリパラ卓球に携わる。

試合や本番の直前期に行うこと

アカデミーでは、できるだけ試合に近い緊張感を持たせた練習をするようにしています。

もちろん、試合と同じ緊張感を出すことはできませんが、試合前のシミュレーションとして、周囲の環境を静かにして、むやみに話しかけない、学校の話をしない、ウォーミングアップやクールダウンも自分でするなどを実施しています。

例えば、その試合の開始が朝9時なら何時に会場に入るのかを考えて、その時間に練習場に来て自分自身でウォームアップをするなど、試合当日と同様に自分の流れで行います。

過度な緊張は、準備不足によって起こるケースが多いので、可能な限りの準備をします。大会によっては、事前にコート割りが決まっているものもあります。自分の初戦が何番コートで何時からということがわかるので、より具体的にイメージしながら練習できます。

伊藤美誠選手が「試合で緊張しません」と言っていますが、緊張していないと思えるのは、準備がしっかりできているからだと思います。素晴らしいことです。

本番前に緊張する理由は、おそらく自分を信じ切れなかったり、準備が足りなかったりするところにあるのだと思います。

そのため、「あれもしていない、これもしていない、どうしよう、時間がない」というように、気持ちが自分のことばかりに向いてしまって混乱し、縮こまっている状態から、視点を変えて視野を広げていくようにします。

試合で最も緊張しやすいポイント

対戦する相手にも目を向けてみます。自分がこのような気持ちになっているということは、当然相手も少なからずそういう気持ちになっているだろうから、条件は一緒なはず。

その中で、こうして試合ができることを楽しんで、ウキウキしてみたり、笑ってみたりすると、緊張した状態が変わっていきます。

伊藤美誠選手や早田ひな選手はよく口角を上げていますが、とても大事な心がけです。自分が笑いたい気持ちでなくても口角を上げると、気持ちがフワッと落ち着いてきます。アカデミーの子どもたちにも、「口角を上げてみてごらん」とよく言っています。

よく集中できている時は緊張しなくなります。トップ選手たちもみんなそうです。そのため、試合で緊張しやすいのは、特に最初の時です。

自分にばかり向いている心の目を、相手の選手や周囲の景色をしっかり見られるように開いていけば、少しずつ緊張がほぐれてくるんじゃないかなと伝えています。

緊張した時には、まずは深呼吸することと、可能なら、その場で10〜20回ぐらい軽くジャンプしておくと、硬くなっていた筋肉が少しほぐれてきます。

試合でも、子どもたちにそのようにアドバイスしています。

卓球の場合、大会前の試合形式の練習については、男女で違います。男子はナショナルチームの合宿も基本的には練習相手を外から呼ばず、チーム内の選手同士で練習するので、実際の試合で対戦する可能性のある選手と打ち合うこともあります。一方、女子はあまりチーム内の選手同士では練習をしません。

ただし、アカデミーの女子選手が全日本卓球選手権大会に出る時は、次の試合で対戦が決まっている相手同士でない限りは、一緒に練習します。ライバルでもあるけれど、同じチームの仲間としての意識も育てたいと考えています。

また、世界ユースなど海外の大会も、練習相手を多く連れて行けないので、対戦する可能性があっても一緒に練習します。