「教えすぎる」と子どもは本番で弱くなる

羽生綾子

「はい」と返事をしたのに、子どもが指示通りに行動しない理由

私がアスレティックトレーナーとして、子どもたちを指導するようになって間もない頃、子どもたちに指示を出して、「はい」と返事を受けていたのに、次の日になると指示と違った行動を見かけることがありました。

そこで、私が伝えた指示の内容を復唱させてみたところ、子どもたちは、私が使った言葉の中で知らない言葉、意味のわからない表現があると、それらを取り除いた内容で理解していることがわかりました。その結果、異なる行動を取ったのです。

理解できない言葉があれば質問するように伝えていますが、子どもたちは全体的に大まかな捉え方をしているので、こちらの真意と異なる理解が生まれ、本人たちはなんとなくわかった気になっているようでした。

例えば、「ウォーミングアップを自主的にやってごらん」と言った時、その「自主的」の意味を知らないために、何をやったらいいのか、やらなくてもいいのかわからない。その部分を飛ばして聞いていて、結局、わからなかった子から「ウォーミングアップは何をすればいいですか?」と質問を受けました。

指示の意味を理解していない時は、表情もポカーンとしており、どうして気持ちが入らない感じなのかなと思っていたのですが、わからない言葉が複数あって、その子の頭の中で整理がつかなかったからだということに気がつきました。

それ以来、一方通行で話すのでなく、「私の言っている内容を理解できた?」と聞いて確かめるなど、言葉のキャッチボールを増やしながら、まず子どもたちの理解を深めて、それから答えを求めるように変えました。

大人は、これまでの社会生活を通じて言葉の引き出しを豊富に持っていますが、子どもたちは、まだ知らない言葉がたくさんあるのです。

競技で結果を出している子どもの共通点

アカデミーに限らず、競技で成績を出している子どもたちは、多くの大会に出場している事が多く見られます。時には公欠等で大会に出場するために、受けられない授業もあるかもしれません。そうなると、どうしても登校日数や学校での勉強時間が少なくなりがちです。

例えば、週末にかけて開催される大会への出場が重なれば、金曜日の授業は抜けてしまうことが多くなり、その時間割の教科についていけなくなってしまいます。家で自習をしても、わからないところをそのままにしないためのフォローは難しいことが多いのではないでしょうか。

学校教育では、学習の過程において言葉の引き出しを増やしたり、社会性を学んだりすることができます。ですから学校での勉強も大切にしてほしいと思います。

アカデミーでは、子どもたちに自分で練習のスケジュールを組ませていますが、小さい頃から指示を出された通りに行うことが得意なので、中学生になり、急にどんな練習がしたいのか尋ねても、答えられないことが少なくありません。

その時は、「今まで○○の練習をしてきたけれど、次はどんなことをやりたい?」という感じで尋ねて、答えを待ちます。

卓球競技は、一つの技術ができればよいというものではありません。ですから、サービス練習のみではなく、レシーブや戦術の組み立てなども強化していくことが必要なことを、自分で気づけるまで待ちます。

自分で気づくと、練習に取り組む姿勢も変わってきます。子どもが自分で何も考えられていない場合にはヒントを出しますが、考えていることが見えた時には、黙って待ちます。


子どもが本番で最高の結果を出せるコンディションの整え方

日本卓球界の未来を支えるエリートアカデミーの責任者を務め、フル代表のアスレティックトレーナーとしても裏方で支える著者が教える、子どものコンディショニングの整え方&本番で力を発揮する方法。子どもが良いコンディションを保ち本番で結果を出す秘訣を学べます。