結婚せずに出産したのは…子どもが保育園に通いだしたら伝えたいこと
PHPスペシャルの連載「お砂糖ひとさじで」が人気の松田青子さん。著書『自分で名付ける』では、ご自身の妊娠と出産、育児について触れられています。松田さんは何を思い、子どもとどう向き合っているのでしょうか? お聞きしました。(取材・文:PHPスペシャル編集部)
※本稿は、『PHPスペシャル』2021年10月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
松田青子(小説家、翻訳家)
1979年、兵庫県生まれ。作家、翻訳家。2013年、『スタッキング可能』(河出文庫)でデビュー。『おばちゃんたちのいるところ』英訳版が、ファイアークラッカー賞、世界幻想文学大賞・短篇集部門を受賞。『持続可能な魂の利用』(中公文庫)など著書多数。最新の翻訳作はカレン・ラッセル『オレンジ色の世界』(河出書房新社)。
育児は、社会や政治と密接に繋がっている
妊娠や出産って「こういうものだ」「こうあるべきだ」という固定観念が強かったり、妙なファンタジーがくっついてきたり、神聖化されがちだったりするところがあると思うんです。
でも、そうではなくて、本当に千差万別。そのときどきで制度なども変わっているし、本人の体質や体調、かかる病院や住んでいるところ、経済状況によっても違います。その「一人ひとり違う」ということが、自分で経験して腑に落ちたところがありました。
私個人の経験や考えを書きながらも、同時に、ほかのいろんな方に思いを馳せられるような本にしたいなと思いました。パーソナルなことでありながらも、社会とつながっている部分を書くようにしましたね。
育児をしている女性が仕事を再開するときに「社会復帰」と言ったりしますけど、むしろ育児って社会や政治と密接にかかわっていると思うんです。
出産や育児にまつわる補助費や手当の値段も政治が決めていて、妊娠中に優先席を譲ってもらえないことや、ベビーカーで歩いているとバッと割り込んでくる人がいるのは、今の社会の雰囲気がそうさせているところもある。政治が変われば社会も変わるし、そのすべてが個人の出産や育児に影響するわけです。
見えないだけで、いろんな人のいろんな気持ちがある
妊娠、出産、育児は自分にとって未知の世界だったので、すべてが新鮮で、不思議に思えることがとにかくたくさんありました。
育児に関する本はわかりやすくきれいにまとめられていて、すごく助けになったんですけど、そこに書かれることがない、こぼれ落ちていることをあえて書くのがおもしろいんじゃないかなという気持ちもありました。
「妊婦」や「母親」という存在は何かとカテゴライズされがちですが、本の中に書いたように、臨月に加山雄三のサイン会に行った女性だっている。助産師さんも「そんなにファンなら」と送り出してくれたそうで。
そんなふうに、これまで可視化されてこなかった人がたくさんいるはずで、知らないだけでいろんな人がいるんだということを記しておきたいと思いました。
出産や育児に関して、ツイッターやインスタグラムの集合知は本当にすばらしくて、会ったことのない人たちが、お互いを思いやっている優しい場をいくつも目にしました。
ネットは殺伐としてると言われがちですけど、そうじゃないこともたくさんある。知恵袋的な場でさえ、不安を抱える妊婦さんに対して、「私もそうだったけど、大丈夫でしたよ」「心配しなくていい」などのコメントが並んでいるんです。
女性同士の絆を表現する「シスターフッド」という言葉がよく言われるようになりましたけど、それは会ったことのない人たちのあいだでも成立するんだなと実感としてわかりました。
私はもともと小説でそういうものを書いてきたんですけど、春に出た『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』の中の「誰のものでもない帽子」という小説では、特にその意識が強くなりましたね。