悪意なくウザイ!と言ってしまう子どもたち…SNSがいじめに与える影響

石井光太・小川晶子

この記事の画像(1枚)

子どもたちの言葉を奪う社会の病理を描き出して話題となった『ルポ 誰が国語力を殺すのか』の著者、石井光太氏。「ヤバイ」「ウザイ」などの言いかえを紹介しながら、楽しく語彙を増やす児童書『超こども言いかえ図鑑』の著者の一人、小川晶子氏。

両者が、「子どもと言葉」について感じる危機感を、それぞれの立場からざっくばらんに語り合った。第3回は、SNS言語と「いじめ」についての話をお届けする。

石井光太(いしい・こうた)
作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。2021年『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』で新潮ドキュメント賞を受賞。

小川晶子(おがわ・あきこ)
ブックライター、絵本講師。
児童書や教育関連の書籍を中心に本づくりに携わっている。

「いじめ」の自覚なく暴力的な言葉を使う子たち

小川:近年、小学校の道徳などで、「『チクチク言葉』と『ふわふわ言葉』」という授業が行われているようです。「チクチク言葉」とは「ウザい」「キモい」などの相手を傷つける言葉。「ふわふわ言葉」とは「ありがとう」「頑張ったね」など、言われて嬉しくなる言葉です。

『ルポ 誰が国語力を殺すのか』の中に、現代の子どもたちは自分が発する言葉の暴力性に無自覚だという話がありました。相手が傷つくことを知らずに「ウザい」と言って、それが「いじめ」になっているのだとしたら、「『チクチク言葉』と『ふわふわ言葉』」という指導にも一定の意味があるのかなと思いました。

石井:そうですね。根本的な解決ではありませんが、やらないよりやったほうがいいでしょう。

言っていただいたように、今の子どもたちは「いじめ」の自覚がないという話をよく先生方から聞きます。小・中・高すべてそうです。

昔は「この人をいじめよう」という意図を持って、傷つける言葉を使ったり無視したりしていたじゃないですか。でも、2013年にいじめ防止対策推進法が施行されて、明確に禁止されるようになりました。今は昔のようなわかりやすいいじめをする子なんていないのです。

また、ある程度の規模のコミュニティがないと、「いじめ」ってできないんです。ぼくたちの頃は、ボスが「あいつを無視する」と言ったら、それに従ってクラスの7割くらいが無視し、残りの3割がいじめられた子側について何とか生き延びる、という感じでした。でも、今はそもそもそんなに大きなコミュニティがありません。

今の時代の「いじめ」とは、無自覚に相手が傷つく言葉を言って、追い詰めているというものなのです。

たとえば「死ね」という言葉を日常的に使っている子からすると、それを言われて傷つくことがわかりません。

狭い価値観の小さなコミュニティに属しているから、コミュニティ内では問題がなかった言葉が、よそのコミュニティでは問題になるという感じ。「これはいじめだよ、傷ついたんだよ」と言っても、当人は理解できないのです。

SNS、ゲームの言葉の特殊性

小川:人によって傷つく言葉が違うとか、受け止め方が違うのだということに気づく機会を作ることは大事ですね。

それにしても、「死ね」「ウザい」「キモい」のような言葉が人を傷つけることが理解できないというのが恐ろしい気がするんですが…。

石井: SNSで使う荒れた言葉を、現実世界でも使ってトラブルになることが多いのです。そもそもネット空間は、対面コミュニケーションと違って、相手との距離感が存在しません。一方的に感情を垂れ流すのが普通なんです。

「あいつマジきもい。ムカついたわ」というのは、誰のことを言っているのか曖昧にしながら、自分の感情を吐き出していますよね。対面なら聞き手がどう思うかを考えて言葉を選びますが、SNSではそうしなくていいのです。

ゲームもそうです。仲間とオンラインゲームでバトルしながら「クソ、死ね!」「帰れ、カス!」といった言葉を使うのが当たり前になっています。それはバトルの中のことですから、いちいち傷つく人もいません。それが当たり前の世界で生きていると、無自覚にそういう言葉を使ってしまうんですね。

小川:子どもたちがゲームに熱中しているとき、言葉が悪くなるのが気になっていました。え?!いつもはそんなこと言わないのに!?って驚愕したことがあります。YouTubeでゲーム実況動画をよく見ているので、「このゲームではこの言葉を使う」という暗黙のルールを学んでいるのかもしれません。

石井:ゲームやネット空間とリアルとを使い分けられれば問題はないのです。国語力のある子はうまく使い分けることができるでしょう。ただ、使い分けられない子が一定数います。ゲーム内で使う極端な言葉で思考し、その極端な言葉に自分が引っ張られてしまう。どんどん生きづらくなってしまうのです。

小川:親としては、ネットとリアルを使い分けられるよう国語力を大事にするしかないですね。あまり極端な言葉を使ってほしくないのが本音ではあるのですが、禁止することも難しいと思います。コミュニティ特有の言葉があるからこそ、仲間感、一体感が出るということはあるでしょうし。

石井:ただ、母語はしっかり持っておくことが重要です。日本の少年院にいる外国人の子どもたちを取材しているのですが、彼らに共通しているのが「母語がわからない」ということです。

たとえば外国で生まれ育ったけれど6歳くらいで日本に来たという場合、日本語をすぐに覚えても家では外国語を話します。すると、思考のベースとなる母語があいまいになり、思考を深めることもできず、アイデンティティが確立できません。非常に生きづらいんです。

同じ日本語であっても、コミュニティによって違う言葉を使っているとき、どれが母語なのかを意識することは大事だと思います。そうでないと、確固とした自分がなくなり、辛くなるはずです。