子どもの絵があまり上手でない…親はなんと声をかけるべき?

齋藤孝
2023.10.05 21:39 2023.08.03 11:50

絵を描く子ども

子どもの絵があまり上手でない…。そんな時、あなたならなんと声をかけますか? 褒めるのが難しい時の親のベストな声掛けを、齋藤孝さんに解説いただきました。

※本稿は、『15秒あれば人間関係は変えられる』(PHP研究所)の内容を一部抜粋・編集したものです。

齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。 同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、 明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、 コミュニケーション論。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『語彙力こそが教養である』(角川新書)、『コミュニケーション力』(岩波新書)、『1分で大切なことを伝える技術』『必ず覚える! 1分間アウトプット勉強法』(以上、PHP新書)などがある。

「この荒々しいタッチはゴッホのようだな」

子どもが描いた絵があまり上手でないとき、どんなことを言うか。「個性が溢れているよ」と断言するのがよいと思います。あるいは、「勢いがある」「このかすれ具合がたまらない」「この余白がいい」とか、とにかくあらゆる手段で褒めまくるのです。

その上で、ちょっとこの絵を見てごらんなどといって、インターネットでジャクソン・ポロック(1912~56)の「No. 5, 1948」を見せて、「絵具をぶちまけたようなめちゃくちゃな絵だろ。これが150億円するんだぞ」と言ってあげる。

そうすると子どもは、どんどん絵を描こうとするのではないでしょうか。

あるいは、君の絵は天才画家に似ているといって褒める。粗いタッチの絵なら、「ピカソ、ゴッホに似てるね」、ぼんやりした絵だったら「モネに似てるね」、余白が多くてちんまりしてたら「水彩画のようだ」という具合です。

以前、「ほめほめ授業」と称して、学生に「どんな絵でも褒める」ということに挑戦させたことがあります。全員に絵を描いてもらって、順々に一人ずつ立って絶賛させます。その上で、褒め言葉がすごく具体的でリアルだった人を絵を描いた人に選んでもらうという授業です。全員が全員に対して褒め言葉を言うわけです。

ただ「うまいね」だけではだめで、「この線の形がとても印象的」「この構図が大胆で引き込まれる」といった具合にポイントをあげるようにしました。

その上で、「ここに紫を使うともっといいよ」などとアドバイスした学生もいました。いわば、自分が惹かれるポイントをさらに伸ばそうとしたわけです。

ママに褒められる女の子

子どもに対しても、基本は褒めて、アドバイスがあれば伝えるという姿勢でいいのではないかと思います。「お前の絵は下手だな」などと言ってしまうと、「そうか、自分は絵を描くことが苦手なんだ」と子どもが思い込んでしまってもおかしくありません。

そもそも、現代美術の世界では「絵が上手/下手」という概念がありません。どんな絵も、その絵独特の価値を持っているものなのです。

ただ、楽器だと明確に「上手・下手」の概念はあります。それでもやはり褒めるべきでしょう。楽器を演奏していて、仮にほとんど音が合っていなくてもある部分は合っていたのなら、そのことを認めてあげる。「あそこの部分はすごくよかったよ」と褒めることで、子どもはさらにやる気になるのです。

私自身にも、歌の一部を褒められて有頂天になった体験があります。中学校のときに、何かのきっかけで片平なぎさの歌を歌ったのですが、「齋藤くん、このフレーズいけてるね」って言ってくれる女友だちがいたんです。この褒め言葉のことは、私はたぶん一生忘れないでしょうね。

私はどちかというと、歌があまりうまくなかったんです。でも、女友だちにそう言われて、「そうか、このフレーズは正確に歌えるんだ」とわかったんです。それで自信を持つことができました。ですから、ピアノを習っている子がいたら、「このパートはできるね」と伝えてあげてほしいと思います。

そして、最初から子どもの実力にあまり期待しないことが肝要です。私も、自分の子どもが楽器を弾いていて、なかなか上達しないので腹を立てたことがありました。いま落ち着いて考えてみると、子どもに期待している部分があったから、腹が立ったのですね。

だから期待はせずに、あきらめの境地を出発点にする。プロになれるわけじゃないんだからと温かい目で見て、「いまのパートよかったよ。そんな感じのなめらかさでほかのとこもやったらいいじゃん」と、あるところを褒めて、それを拡大させるように仕向ければいいでしょう。

野球をする子ども

これはスポーツでもいえることで、例えば子どもとバッティングセンターに行ったとします。最初のうちはなかなかうまくいかなくても、あるとき偶然、いい当たりを飛 ばすことがあります。そのときにすかさず、「いまのは完璧だったよ」と言うとその後、不思議にいい当たりが増えてくるんです。「いまのはいい」と言っているだけで、うまくなっていくんですね。

ですから私は、学生が発表するときも、とにかくどこかを褒めるようにしています。「この図のつくり方はいい」「この説明の仕方はわかりやすい」などなど。すると、全員のレベルが目に見えて上がり続けるのです。

教員志望の学生相手に、「映画の予告編のように、授業内容の予告編をつくってみる」という授業を行なったことがあるのですが、学生の作品をとにかく褒め続けていたら、最終的にはまるでテレビ局のプロがつくったような見事な「予告編」が続出するようになりました。いまの学生は、映像と音楽の使い方が見事ですね……。

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齋藤孝

齋藤孝

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。