親の期待が「子どもの自己肯定感」に悪影響となるいくつかのパターン

メリンダ・ウェナー・モイヤー
2023.08.28 14:14 2023.09.20 11:50

落ち込む女子高生

どの親も、子どもにはより良い人生を歩んでほしいと願うものです。子どものためを思って、習い事や受験に熱を入れている方は多いのではないでしょうか。しかし、親の期待は時に「子どもの自己肯定感」に悪影響を与えます。中にはプレッシャーが心の病を引き起こすことも。科学ジャーナリストのメリンダ・ウェナー・モイヤーさんが解説します。

※本稿はメリンダ・ウェナー・モイヤー[著]塩田香菜[訳]『うちの子、このままで大丈夫?がスーッと消える 科学的に正しい子育ての新常識』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から一部抜粋・編集したものです

メリンダ・ウェナー・モイヤー(Melinda Wenner Moyer)
『サイエンティフィック・アメリカン』誌の寄稿編集者として表彰を受けており、『ニューヨーク・タイムズ』紙にも多数の記事を寄稿している科学ジャーナリスト。『スレート』誌コラムニスト。一男一女の母親でもある。

「自己肯定感」にまつわる誤解

息子を見つめる母親

子育てはいつの時代も大変なものですが、近年の子育ては特に大変です。私たちの親世代や祖父母世代に比べて、子どもに成功を望みにくいのが現状です(パンデミックで子どもが学校に通えない事態まで経験しました)。一流大学の倍率は年々上昇する一方です。

親が直面する問題は、大学入学率だけではありません。OECD(経済協力開発機構)は2019年、子どもを持つ親を対象に、将来についての経済的・社会的心配事を3つ聞きました。

その結果、60%の人が「自分たちと同等の地位や生活水準を子どもが保てるかどうかが心配」と答えました。理由の一つは、生活水準を保つには親世代より収入が増える必要があるからでしょう。親が子どもの心配をするのには、正当な理由があるのです。

ですから、アメリカ国内の多くの親(特に中流~上流中産階級の親)が自分の子どもに「優秀であれ」というプレッシャーを与えるのも無理はありません。

この働きかけは子どもがごく幼いうちから始まります。2歳にも満たない子が幼稚園面接の教室に通い、3歳の子が「先取り学習」として中国語やプログラミングを習い、5歳の子がチェスを習い、小学4年生が大学入試のための塾に通ったり、スポーツの個人レッスンを受けたりしています。

ちなみに、遊び重視の学校に通う生徒の学習効果は、勉強重視の学校の生徒と同等である(上回るわけではないにせよ)と実証されています。

子どもに豊かで幅広い教育を受けさせ、楽しく学んでほしいという親の願いには、キリがありません。そうして今の子どもたちは、競争を勝ち抜き、スポーツでは代表チーム入りを目指し、ミュージカルで主役をつとめながら、成績はもちろんオールAで、試験でも高得点を取るように期待されているのです。

誤解しないでください。かく言う私もそんな親の一人です。子どもを中国語教室に通わせてはいないものの、「子どもがよい人生を歩めるかどうか」「そのために自分は何をすべきか」と心配ばかりしています。

息子が成績表を持ち帰ってくるとすみずみまでじっくりと見て、「書き取りの成績が悪いと今後どんな問題があるだろうか」と心配する気持ちを抑えるのにひと苦労です。

以前より競争が激しくなっていると聞けばプレッシャーを感じ、わざとであろうとなかろうと、子どもにある程度のプレッシャーを与えてしまうのは当然です。不安を感じ、子どもによいスタートを切らせたいと願う親の気持ちを、誰が非難できるでしょうか。

プレッシャーが自己肯定感に及ぼす影響

高校生の男子

ここで問題なのは、「プレッシャーは子どもの自己肯定感に悪影響を及ぼす」という点です。

専門家によると、親が成果ばかりを重視すると、子どもは自分の本質や価値は成果によって決まると考えるようになるそうです。

子どもが失敗したときに親があからさまにがっかりしたり怒ったりすると、親の愛情は成功ありきで、自分が価値のある愛すべき存在かどうかは、どんな成果を出すかで決まる(ありのままでは不十分)と考えるようになる危険性があります。

成績でCを取る子を愛せない親がいるという意味ではありません。ただ、子どもは親の言動から推測するのです。

ハーバード大学教育学大学院の研究チームが2014年に発表した論文では、アメリカ全土の中学校と高校33校の生徒1万人以上を対象に、「親は自分に何を望んでいると思うか」というアンケート調査をしました。3分の2の生徒が、「他人への思いやりよりも、成果を重視していると思う」と答えました。

臨床心理士のアイリーン・ケネディ= ムーア氏は、著書『Kid Confidence(ほんとうの自己肯定感を育てる)』の中で、健全な自己肯定感とは「自分はこのままでよいのか?」という疑問を持たなくなることだと主張しています。

子どもに成果を望みプレッシャーを与える親は、子どもがこの疑問から逃れられないよう仕向けているのです。