苦手な親が多い? 子どもの自己肯定感を育てる「短所の認め方」

天野ひかり、とげとげ。

自己肯定感とは、「ありのままの自分」を認められる丈夫な心を意味します。自己肯定感が高い子ほど、自信をもって人生を切り開くことが出来るのです。一方で、自己肯定感が低いままの子は、常に他人からの承認を求めてしまうように…。自律した大人への成長を促すために、親はどのような声かけをすればよいのでしょうか? 天野ひかりさんが解説します。

※本稿は天野ひかり[著]とげとげ。[イラスト]子どもを伸ばす言葉 実は否定している言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から一部抜粋・編集したものです

天野ひかり
NPO法人親子コミュニケーションラボ代表理事、フリーアナウンサー。上智大学文学部卒。テレビ局アナウンサーを経てフリーに。NHK「すくすく子育て」キャスターの経験を生かし、親子コミュニケーションアドバイザーとして講演や企業セミナー講師を務める。子どもの自己肯定感を育てるため自身で立ち上げたNPO法人親子コミュニケーションラボ代表理事、一般社団法人グローバルキッズアカデミー主席研究員。主な著書に『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版)や『賢い子を育てる 夫婦の会話』(あさ出版)など。

とげとげ。
元ナースの漫画家でイラストレーター。著書に「夫ですが会社辞めました」(KADOKAWA)。日常を4コマ漫画にするのが得意。
インスタ:togetoge.i

「自己肯定感=生きる力」の育て方

子育てで最も大切なことは、「子どもの自己肯定感を育てること」だと思っています。

「自己肯定感っていうキーワード、聞き飽きた…」。と思われるかもしれませんが、実は誤解している方も多いので、本来の「自己肯定感」についてぜひお伝えしたいと思います。

自己肯定感とは、

「わたしは、わたしだから大丈夫」
「わたしは、必要とされている、愛されている」
「わたしは、わたしのことが好き」

と思える、丈夫な心です。

時々「自己肯定感の高い人って、自信満々な人のことでしょう?」と勘違いされる方もいるのですが、そうではありません。

自己肯定感とは、短所と思われる部分も含めて、ありのままの自分を認められる心の状態のことです。ですから、短所を認められないと、自分をよく見せようとして自信過剰に振る舞ってしまうのかもしれませんね。

自己肯定感が育つと、

①新しいことに挑戦し学ぶ力
②努力して壁を乗り越える力
③相手の気持ちを思いやれる力が発揮されると言われています。

これは生きる力そのものなので、とても大切です。

子どもの「器」を大きくすれば親の言葉は伝わる

私は講演などで、自己肯定感を育てることを「器を大きくすること」と表現しています。子どもが、身につけるべき知識や情報、社会のルールを「水」とするならば、それを入れる器は、なるべく大きくて、丈夫で、しなやかであってほしいと願うからです。

親がすべきことは、この「器」(自己肯定感)を大きくすることです。

ところが親は、「それはダメよ」「〇〇をしなさい」と知識や情報、ルール、モラルという「お水」を、まだ育っていない「器」に一生懸命に入れようとしてしまいます。

でも、まだ子どもの器は小さいから、水があふれてしまう。それに気づかず大人はまたお水を入れて、あふれさせて、また入れて…。これでは子どもも親もヘトヘトになってしまいます。

お水がなかなか入らないと、親はイライラします。そして最終的には、「何度言ったらわかるの!」となってしまう理由は、こういう状況だったのです。

しかも、お水は、子ども自身が、探して、汲んで、入れることで力を発揮します。ですから親がすべきことは、水を入れるよりも、器を大きくすることです。

日本の子どもは、世界の子どもに比べて、自己肯定感がダントツに低い状態が続いています。(内閣府:子供・若者白書〈令和元年版〉)

「自分に自信がない」「自分は役に立てると思えない」「今の自分が好きじゃない」と半数以上の子どもが答えています。とても悲しいことです。何としても、わが子の自己肯定感を大きく育てたいですね。

そのために必要なのはやっぱり「親の言葉かけ」。毎日のお母さんお父さんの言葉次第で、器は、ぐんぐん!大きくなっていきます。

自己肯定感を育てる親の言葉とは、「そのままの子どもを認める言葉」です。長所はもちろん、短所も含めて丸ごと認めることで子どもは、「わたしはわたしでいいんだ」と感じ、「わたしは愛されている」「わたしはわたしだから大丈夫」と自己肯定感が大きく育っていきます。

自己肯定感が育めないと、

「わたしを見て見て!」
「ぼくにかまって!」

と常に認められることを望んでしまいます。あるいは、

「わたしなんか……」

と自分の意見に自信を持てず、他の人に左右されたり、依存してしまったりします。これはとても苦しいことです。

成長したときに、子どもがこんなふうに苦しまないように、幼いときから、親がしっかり自己肯定感が育つ言葉をかけていきましょう。最初は大変かもしれませんが、幼いうちに育んだほうがお水を無駄なく溜めていけるので、効率がいいのです。

子どもが、学校や職場、社会で、自律して生きていけるように、「子どもを認める会話」を私たちが磨きましょう。

「短所も認める」とはどういうことか

ここまでで、

・「自己肯定感」を育てる大切さ
・方法は「毎日の言葉かけ」
・ポイントは、「認めること」

の3つをおわかりいただけたと思います。講演や講座に参加されたお母さんお父さんも、ここまでの話は大きくうなずいて理解してくださいます。

でも、「短所も認めましょう」とお伝えすると、一気に顔色が変わります。

「いいところを認めるのはわかるけど、”短所”も認めるってどういうこと?」
「認めるって、ほめることのバージョンの1つじゃないの?」
「子どもがいけないことをしたとき、どうやって認めるの?」
「認めてばかりいたらわがままな子になるんじゃないの?」
「認めるって、何なのかわからなくなってきた……」

新たな疑問が湧いてきましたか?

短所を認めるというのは、つまり、「子どもの判断」を認めることです。許可でもなく、承認でもなく、黙認でもなく、同意でもない「子どもの判断を認める」とはどういうことなのか。

「認める」概念をくるっとひっくり返すことで、見える世界が変わります。自分の狭い視点から、子どもの視点に変えることで、世界が広がります。

子どもを認めていくことは、親が成長することにつながります。自分の中の偏見に気づいたり、価値観が変わったり、相手の立場に立って物事を見られたりする、新しい自分になれるのです。

子どもとのコミュニケーションは、子どもだけに留まるものではありません。すべての人間関係の基礎なのですね。ほめるのでもなく、叱るのでもない、認めるコミュニケーションを探究しましょう。