子どもを叱りすぎると問題行動が増える? 子育てに「ほめる」が大切な本当の理由
電車のおもちゃを投げちゃった!
最近の太郎くんはおもちゃを片づける際に、おもちゃ箱に投げ入れることが続いています。今も太郎くんが電車のおもちゃをおもちゃ箱に投げ入れたのでママが注意しようとしているところです。では、太郎くんに代わりの行動を伝えてください。どうぞ。
こう言えたらOK!
・「おもちゃはおもちゃ箱にそっと置いてね」
・「 おもちゃを片づけるときは、おもちゃ箱に置いてから手を離してね」
「ほめる」にはポイントが3つあります。
ポイント1 ほめる対象となる行動は「普通の行動」
練習で出てきた「おもちゃをおもちゃ箱に投げ入れる」という問題行動に対して、ママが提示した代わりの行動は「おもちゃはおもちゃ箱にそっと置く」ということでした。
では、みなさんに質問です。「はい」か「いいえ」で即答してください。
質問:みなさんが引き出しや戸棚に物を片づけるとき、物を投げ入れたりせず、そっと置くことは「すばらしい行動だ」と思いますか?
まあ、ほとんどの人の答えは「いいえ」ですよね。なぜって、物を片づける際にそっと置くのは普通のことだから。
そしてここに、「叱ってばかりになる罠」があるんです。
まず、よくよく考えてみると、私たちが子どもを叱る、注意するのは、普通のことができていないときです。椅子の上で跳ねる、鼻水を手の甲で拭く、悪いことをしても謝らない、などなど。
そして、私たちが子どもに教えるのは、普通の行動です。椅子の上では座るんだよ、鼻はティッシュでかむんだよ、悪いことをしたら謝るんだよ、と。「こういうふうにするとうまく生きていけるよ」と教えたいわけです。
問題行動の反対は望ましい行動です。そして、望ましい行動というのは、すばらしい行動ではなくて、普通の行動です。
大事なことなのでもう一度。
問題行動の反対の行動 = 望ましい行動 = 普通の行動
だから、「普通の行動」がほめる対象になります。特に、子どもが問題行動をして、私たちが子どもに代わりの行動(=普通の行動)を教えたのであれば、その普通の行動ができたときにはほめていきたいわけなんです。
けれども、普通の行動は普通であるがゆえに、親御さんにとっては認識しにくくスルーしがちです。
先ほどの例でいえば、ママが太郎くんにおもちゃの片づけ方を教えたことが功を奏して、太郎くんがおもちゃを投げずにおもちゃ箱に片づけていたとしても、ママはうっかりスルーしてしまう可能性は十分にイメージできますよね。
一方で、子どもの問題行動はこちらが意識していなくても、目に入ればすぐに認識できます。見た瞬間にカチンときて、速攻で叱ることができます。その結果として、ほめる頻度は低く、叱ってばっかり、となっていきます。
でも実は、ほめることは簡単です。普通のことをほめるだけです。問題行動に対して代わりの行動を教えたのであれば、その行動ができたときに「~できたね」とほめれば、それでOKなんです。
ポイント2 望ましい行動はたいていの場合、すでにたくさん起きている
たとえば、太郎くんが車の2列目のシートに座っているときに前の運転席を蹴るという問題行動をよく起こし、ママがそのたびに「何度も言わせないで! 運転の邪魔になるでしょ!」と怒っているとします。
まあ、よくありますよね。何度もされれば、そりゃあイラつきます。それは仕方ない。では、ここで確認です。太郎くんに提示したい代わりの行動は何でしょうか?
さっと浮かびましたか? 筆者の案は「足を下ろして座る」です。これも普通のことですね。
では、今の「運転席を蹴る」という問題行動を起こす場面について、ちょっとイメージしてみてください。
・ママと太郎くんは車に乗って、車が走り出しました。太郎くんはまだじっとしています。
・太郎くんは飽きてきて、ママのいる運転席をリズムよく軽く蹴りはじめました。
・ママに何回か注意された太郎くんは、運転席を蹴るのをやめて窓の外を見ています。
・太郎くんが再び運転席を蹴ってママに注意されて、蹴るのをやめました。
・目的地に着いて、ママと太郎くんは車を降りました。
どうです? 想像できましたか? ここで重要なのは、今イメージしていただいた太郎くんは、乗車中100%運転席を蹴り続けていたのか、ということです。
答えはNOですよね。
状況にもよりますが、「ずーっと問題行動をし続ける」とか、「毎回100%、問題行動を起こす」というのは結構難しいことなんです。では、問題行動を起こしていないときは何をしているかというと、「普通の行動」をしているわけです。
しかも、問題行動を起こしている時間はほんの一部で、大半の時間は普通の行動をしていたりします。
今の例でも、太郎くんは車に乗った直後はじっと座っていました。ママに注意されなくても、望ましい行動はすでにできていたのです。途中で運転席を蹴ることが何度かありましたが、それ以外の「蹴っていない時間」もたくさんあるわけです。
つまり、親の視点では問題行動がいやでも目につくので、問題行動ばかり起きているように見えるけれど、実は問題行動の反対となる普通の行動はすでにできているし、なんなら普通の行動のほうが発生頻度が高かったりするわけです。
ほめるチャンスはいっぱい転がっているんですよってことなんです。
くどいようですが、もう一度なぞりますよ。「運転席を蹴る」という問題行動へのアプローチを考えるとき、その反対の行動である「足を下ろして座る」がほめる対象となります。
そして、親御さん視点では「何度言っても運転席を蹴ってムカつく!」と思えるものの、実際には、望ましい行動である「足を下ろして座る」はすでに起きているし、「運転席を蹴る」よりも高頻度で起きている。
意識して見れば、ほめて肯定的にしつけをするチャンスはいっぱいあるんですよー、ってことなんです。
ポイント3 ほめることで問題行動は減る
先ほどの太郎くんの「運転席を蹴る」という問題行動への対策として、太郎くんが「ママに言われたから足を下ろして座っているところ」や、「ただぼーっとして足を下ろして座っているところ」をたくさんほめていくとします。ほめられれば、その行動が増える可能性は少し上がります。
そして、もし狙いどおり「足を下ろして座る」という行動の頻度が上がると、相対的に「運転席を蹴る」という問題行動は減ることになります。
なんと、普通の行動をほめることで、問題行動を減らしたり、親御さんが叱る・どなる頻度を下げることができてしまうんです。
問題行動を直接消し去るのではなくて、すでにある普通の行動を増やして置き換えていくイメージです。
この「ほめることで間接的に問題行動を減らす」ということに慣れてくると、子どもへの対応はいくらかラクになります。そして、「叱るアプローチだけで問題行動を減らしていく」という対応は、実は難易度が高いってことに気がつきます。
ポイント1、2、3をまとめて考えると、ほめるしつけって、普通のことをほめればいいから機会はいっぱいあるし、ほめることで問題行動も減るし、ラクで効率がよくておいしいアプローチですよ、となります。
ここまでの話から、「叱る」と「ほめる」はどちらも子どもの望ましい行動を増やすという目的は同じですが、どちらに力を入れるといいかっていうと、「ほめる」になります。
叱る・注意する・諭すことも大事だし、「ちはっさく」ではその練習もいっぱいしますが、ドライに効率重視で考えると、叱る場合も含めて、青カードを使って子どもに肯定的にかかわって、望ましい行動ができる可能性を高めて、とにかくほめて終わる形にいかに持っていくのかということが大事になってきます。
もちろん、「ほめればすべてがうまくいきますよー」なんて言うつもりはないです。ほめても変わらないこともありますし、ほめたことで子どもが調子に乗って余計なトラブルが起きることもあります……。
そんなときは、ほめる子育てをしている自分を誇りに思いつつ、上手に気分転換をしてバランスを保っておいてくださいね。
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