海外大学に合格した日本の学生に共通する「2つの勉強法」
海外の大学に進学する人たちといえば、帰国子女やインターナショナルスクール出身者を思い浮かべるかもしれません。けれども最近は、高校まで日本の学校に行き、そこから海外の大学に進学する人たちが増えています。
彼らは、子どものころに特別な環境に置かれていたわけでも、裕福な家庭で育ったわけでもありません。では彼らは、日本の教育の枠組みのなかで、どう英語力をつけていったのでしょうか。
教育ライターの加藤紀子さんの著書『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)では、日本の高校から海外の大学に進学した人たちに取材をしながら、さまざまな文献にあたり、英語学習の秘訣をまとめました。今回は、そのなかから、2つの秘訣を紹介します。
※本稿は加藤紀子著『海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか』(ポプラ新書)から一部抜粋・編集したものです。
加藤紀子(教育ライター/教育情報サイト「リセマム」編集長)
1973年京都市生まれ。96年東京大学経済学部卒業。教育分野を中心に「プレジデントFamily」「ReseMom」「NewsPicks」「『未来の教室』通信」(経済産業省)などさまざまなメディアで取材、執筆を続けている。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)はAmazon総合1位、17万部のベストセラーに。ほか著書に『ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック!』(大和書房)がある。
自分に合った方法で単語力を爆上げする
英語力を上げるぞというモチベーションが確立したところで、一番の大きな壁は単語力です。「単語を知らないと話にならない」というのは今回のインタビューで全員一致の見解です。
日本の大学受験に必要な単語数は4000〜6000語と言われていますが、英語圏の大学に行く場合、最低でも8000語以上、レベルの高い大学を目指す場合には1万3000語以上が目安です。生物や化学、歴史に関する文章など、現地の学生と同じレベルで学術的なトピックに対応できる語彙力が求められるため、どうしても難易度は上がります。
では、どうやってこの膨大な単語を覚えるかですが、これは人によってさまざまというのが結論です。というのも、人によって得意な学習方法は異なるため、自分に合った覚え方をするのが一番だからです。
ちなみにこれには、ハーバード大学の心理学者であるハワード・ガードナー博士が提唱した「多重知能理論」が参考になります。
ガードナー博士は、人間の持つ知能は8種類あり、人によってある知能が強かったり、弱かったりするので、その人の特性に合わせて得意な方法で学習すれば、その人の持つ能力が大きく引き上げられると唱えています。この理論は世界各国の教育現場やビジネスの世界でも活用されています。8種類の知能をここで紹介しましょう。
*言語的知能:文章を書くことや言葉に興味がある。読書好き。
*論理・数学的知能:数量に興味があり、分析するのが好き。科学的なことに対する理解が早い。
*空間的知能:言葉で説明されるより、絵や図、写真などビジュアル重視で説明された方が理解しやすい。
*音楽的知能:歌や楽器演奏が上手で、音を聞き分けられたり、メロディをすぐに覚えられたりする。本や教材を音読や歌にするなど、声に出すと学習がうまく運ぶ。
*身体運動的知能:実験や道具を使うなど、実際に手や体を動かしながら集中させる。
*対人的知能:1人でやるより他の人と一緒にやる方がはかどる。
*内省的知能:1人でじっくり考え、困った時も自分で解決できる。
*博物的知能:特定の物事に詳しく、図鑑好き。観察力がある。
例えば「書く」ことが好きな言語的知能と「動かす」ことが得意な身体運動的知能が両方強いタイプは、「手を動かして単語を書きまくって覚える。単語帳を1ページずつ、全部覚えられたらそのページを破いて捨てる。全部なくなったらまた新しいのを買い直し、3〜4冊つぶす」といった方法を選んでいますし、論理・数学的知能が強いタイプは、「接頭辞や語源といったパーツに注目してそのニュアンスを推測し、芋づる式に単語を覚える」という語源学習で進めています。
あるいは空間的知能が強ければ、ビジュアルやイメージとして単語を捉えるのが向いているので、「毎日単語帳1冊全部をざっと眺める」「覚えにくい単語はGoogle の画像検索で出てきた絵のイメージで覚える」。
言語的知能と空間的知能の組み合わせなら、「自分の周囲にあるものに英語を書いた付箋を貼っていくように覚える」「身近なヒトやモノで印象深い例文をつくる」といった方法が有効のようです。
ただし、第二言語習得の専門家である立教大学異文化コミュニケーション学部の中田達也准教授によると、こうしたさまざまな英単語の学習法には一長一短があり、ひとつの方法だけでは使用できる単語に制限があったり、深い語彙知識が得られなかったり、視覚的な勉強だけでは音の練習が足りず、聴覚型だと単語の綴りが身につかなかったりするなど、「あらゆる語彙のあらゆる知識を結果的に習得できるような完璧な学習法は存在しない」といいます。
自分にフィットする方法を活かしつつ、それでカバーしきれない部分は別の方法で補っていく必要があることは知っておくといいでしょう。
なお、取材を通じてほぼ全員が使っていた単語集は『TOEFLテスト英単語3800』でした。ただ、いきなりこの単語集から始めるのはハードルが高いため、最初は英検の単語集から始めて、ステップアップしていくという方法もありました。
通常の学校の進度よりは速くなるものの、中学卒業時に2級を目標にして段階的に単語集を進めていき、高校に入って準1級といった具合に単語のレベルを上げていくやり方です。これなら英語が苦手でも低めのハードルから始められるので、達成感が得やすい上に、重要な頻出単語からしっかりと身につけることができます。
また、学校で頻繁に行われる単語テストも、「語彙力は英語の伸び代なので、学校の単語テストは語彙力を強制的に上げてくれるという意味で活用する価値あり」と評価する声もありました。
言うまでもなく、4技能全てに単語力は必須です。方法は一人ひとり違っても、共通しているのは毎日触れること。使わないものはどんどん忘れていくので、自分にフィットした方法で毎日なるべくたくさんの単語に触れ、それを繰り返すことが王道といえるでしょう。
文法の「型」をマスターする
単語力と並んで重要なのは文法です。ただし勉強法については、いわゆるSやVといった「型」を叩き込んでいく派と、文章を読みながらつかんでいく派に二分されます。
先の「多重知能理論」でいうと、論理・数学的知能が強いタイプは前者で、もう少し感覚的なタイプは後者なのかもしれません。
前者の場合は『スクランブル英文法・語法 Basic』『スクランブル英文法・語法』といった学校で使う基本的な文法書を使ってルールを理解する、後者の場合は学校の教科書の文章を丸暗記しながら法則性を身につけていくという方法です。
これはどちらが自分にフィットするか、両方試してみるしかないようですが、どちらかというと後者の方法で基本の文法を理解していくケースが多数派でした。
教科書についているCDを活用し、文章や例文など、教科書の隅から隅まで何十回も聞いたり、音読をしたりしながら丸暗記してしまう習慣によって、「英語を英語のまま理解する力」「頭でいちいち文型を分析して考えなくても話したり書いたりできる力」が伸ばせるといいます。
この点について、神奈川大学の鈴木祐一准教授は、「文法知識を身につけるためには、文法ドリルや英文解釈以外に、実際に文脈の中でインプットに大量に触れることが欠かせない。文構造を分析しながら読解すること(=英文解釈)は、文法ルールを理解するのに役立つが、実際のコミュニケーションで文法を使いこなすためには、文法を理解するだけでなく、文法を『感覚的に身につける』ことが必要だ」と述べています(『英語学習の科学』)。
おそらく最初は「型」を叩き込むタイプも、その後さらに英語力を上げていくには、たくさんのインプットに触れることで感覚的な使い方を身につけているはずです。
文法学習について特筆すべきは、彼らが学校の教材を活用している点です。音読、音声を聞きながら一文ずつ止めて書きとめる練習(ディクテーション)、教科書を見ないで聞こえてくる音声のすぐ後を追いかけるように復唱する練習(シャドーイング)、音声の速度を速めて聞く練習など、学校の教材をさまざまな練習法で「使い倒す」ことで英語の基礎体力をしっかりと身につけているのです。
単語と文法はいわば筋トレのようなものであり、英語学習で最も根幹となる部分だといえるでしょう。
関連書籍
海外の大学に進学した人たちはどう英語を学んだのか(ポプラ新書)
「英語は楽しい」という経験、自分に合った方法で単語力を爆上げ、ネイティブと同じ土俵に立たない――日本の高校からハーバードやUCバークレーなど海外の大学に進学した10名に取材し、「世界で使える英語」を身につける学術的に正しい12の秘訣を紹介。また英語力を飛躍させるコツを教育起業家の小林亮介氏と応用脳神経科学者の青砥瑞人氏に、日本人が英語を身につける利点を東京大学名誉教授の柳沢幸雄氏に聞く。