子どものワガママにイラッとしなくなる「親の共感テクニック」

伊藤徳馬

本稿は、伊藤徳馬さんによる子育て講座「ちはっさく」を再現するものです。ちはっさくとは、「代わりの行動を教える」「気持ちに理解を示す」「待つ」「聞く・考えさせる」といった、基本的な子どもへの対応方法を楽しく練習して身につける講座です。子どもに思わず怒鳴りそうになっても、冷静に対処するために「青カード(=肯定的なコミュニケーションの取り方)」の言葉を練習しましょう。

今回は問題行動を起こしてしまった子どもの気持ちに寄り添う「共感」のテクニックについて解説します。

伊藤徳馬
民間企業を経て、2004年に茅ヶ崎市役所に入庁。2007年から子育て相談・児童虐待対応担当になり、2010年に子どもへの対応方法を練習する講座を事業化。その頃から「市町村の児童虐待対応」や「簡易なペアレンティングの講座展開」などのお題で講座・研修講師をするようになる。 現在は、福祉の総合相談や計画を担当する部署に所属。プライベートで、子育てを練習する講座「ちはっさく」を一般向けに実施している。 現在、神奈川県、埼玉県、千葉県、鳥取県の十数か所の自治体・民間団体が「ちはっさく」を事業化しており、今後も増加する予定。 

「~だよね。わかるよ」「~なんだね」

子育て講座や育児本などでさんざん紹介されているし、ビジネス系(営業、交渉、クレーム対応、部下の育成など)の研修や記事でも超おなじみの共感系ネタです。定番なだけあって、地味ですが手堅い効果があります。この本では次の2つの練習をしていただきます。

1. 共感:「~だよね。わかるよ」(子どもの気持ちに共感できるときに使う)
例:子「まだ遊びたい!」
親「 まだ遊びたいのはわかるよ。○○で楽しく遊んでたもんね。気持ちはわかるよ」

2. 復唱:「~なんだね」(共感できないときに使う。子どもが言ったことをそのままオウム返しする)
例:子「まだ遊びたい!」
親「まだ遊びたいんだね」

はい、では練習してみましょう!

食いしん坊の太郎くん

まずは「共感」の練習です。

おやつの時間になったので、ママは台所でビスケットをお皿に乗せて太郎くんに渡しました。太郎くんはうれしそうにお皿を持って食卓のほうへ行きましたが、大好物のビスケットを早く食べたかったのか、途中で歩きながら食べはじめました。

ママが「椅子に座ってから食べてね」と注意すると、太郎くんは「早く食べたいの!」と主張しました。ママとしては、食いしん坊の太郎くんが早くビスケットを食べたかったことに共感はできるけれど、食卓で食べることを譲る気はありません。

では、出だしにしっかりと「共感」を入れるパターンで練習をどうぞ。

こう言えたらOK!
[ 気持ちに理解を示す(共感)] 大好きなビスケットを早く食べたかったんだよね、それはわかるよ。
[ 代わりの行動]それでね、ビスケットは椅子に座って食べてほしいんだ。
[一緒にやってみる]はい、じゃあ今から座って食べるよ。

子どもの気持ちに共感しよう

最初から正論を提示するよりは、共感して入ったほうがコミュニケーションがスムーズに進みやすいです。

筆者も講座の中で子ども役をしているとき、受講者さんに上手に共感されると、ロールプレイであっても「そう! そうなの! わかってもらえるなら話を聞こうかな」と思えたりします。

大人でも子どもでも、注意されたり、制止されたりするのはうれしくないわけで、その負の気持ちをマイルドにしてくれるのが共感の言葉だったりします。

ちなみに、プロ向けの研修をしているとよくわかりますが、この共感は保育園や幼稚園のベテラン先生はめちゃくちゃ上手です。子ども役をする筆者は、親役の先生たちに共感されるとモチベーション爆上がりで、予定より聞き分けのよい子ども役になってしまったりします。

この記事のテーマである「ドッカーンとなりそうな状況からの逆転!」のような難しい場面でも共感はとても大事です。

親御さんは内心、「めんどくさいな」とか「こんなこと言わなくてもわかるでしょ」と思いながらでも、あえて共感の言葉を口に出すことによって、子どもの立場で考えられるようになることもあります。

やることは簡単なので大丈夫ですよ。共感できそうであれば、とりあえず「~だよね。わかるよ」と言うだけです。

共感のコツは、行動よりも、行動せざるを得なかった子どもの気持ちに共感することです。

「歩きながらビスケットを食べる」という行動には共感できなくても、「歩きながら食べたくなるくらいビスケットが好きで、待ちきれなかった」という太郎くんの気持ちのほうなら、「まあ、わからなくもないかな」と思えたりするかも?