「ワンワン」などの赤ちゃん言葉はいつまで使ってOK? 言語聴覚士に聞いてみた
子どもも大人も使いがちな「ワンワン」や「ブーブー」など乳幼児期特有の表現。 このようなことばはいつまで使っていてよいの?
言語聴覚士の田中春野さんに教えていただきました。
※本稿は発達支援の保育専門誌『PriPriパレット 2023年10・11月号』(世界文化ワンダーグループ)から一部抜粋・編集したものです。
イラスト/妹尾香里 取材・文/オフィス朔
「ワンワン」「ブーブー」は卒業すべき?
「ワンワン」は言いやすく理解しやすい言葉
乳幼児期の子どもは犬を「ワンワン」、車を「ブーブー」などと言い表すことがあります。
大人も、子どもに合わせて用いることが多いもの。
そういったことばを子どもはいつ卒業し、どのタイミングで大人の話すことば(成人語)を習得するのでしょうか?
実際に、1〜1歳半頃の子どもをもつ保護者から、「あかちゃんことばが気になる。直したほうがよいか?」という相談が寄せられます。
しかし、「焦らなくて大丈夫です」とお答えする場合がほとんど。
「ワンワン」などの乳幼児期特有の表現は、子どもにとって言いやすく、理解しやすいことば。語彙獲得に欠かせない大事なステップです。
乳幼児期特有の表現の分類はさまざまですが、「オノマトペ」や子どもが発音しやすい形に変化したことばなどが挙げられます。
この記事ではそちらに着目し、乳幼児期ならではの表現から成人語への切り替えについて考えます。
子どもが話すことばとは
語彙獲得に必要な段階である乳幼児期ならではの表現。それにはどんな特徴があるのか解説します。
音や様子を表した「オノマトペ」
対象物が発する音や様子を、そのまま擬音語で表したことば。
たとえば、犬を表す「ワンワン」は、「ワンワン」と吠える犬の声とその呼び名が直結しているので、子どもにとっては理解しやすく、語彙として習得しやすいものです。
日本人の誰が聞いても、同じように様子や対象物をイメージできるという特徴も。
例:犬=「ワンワン」、うどん=「チュルチュル」、拍手=「パチパチ」、跳ぶ=「ピョンピョン」
子どもが発音しやすい形に変化した語
乳幼児期は発音の発達の過渡期なので、子どもが言いやすい形にことばが変化することがあります。
たとえば、初期から発音しやすい母音(あ、い、う、え、お)や唇を合わせて発音する両唇音(ば行、ぱ行、ま行など)への変化、ことばに引き延ばす音(長音)や「ん」を加えたり、反復したりなど。
例:ごはん=「まんま」、車=「ブーブー」、足=「あんよ」、おばあちゃん=「ばあば」、寝る=「ねんね」
音やことばの言い間違い
ことばを話し始めの子どもは、口や舌の筋力が未発達なので、正しく発音できないことがあります。
特に発音の発達の中盤「か行」、終盤「さ行」は、言いやすい「た行」になってしまうことが多いです。
例:さかな=「たかな」、エレベーター=「エベレーター」、とうもろこし=「とうもころし」
発達に合わせて大人がことばを変えて
子どもの「言いやすい」を優先に
「ワンワン」などの表現は発達に必要なステップ。子どもの話を遮って訂正したり、無理に教えたりする必要はありません。
多くの場合は、大人が使う「成人語」に自然と切り替わります。
もし成人語の習得を促したい場合は、子どもの発達に応じて、大人が使うことばを変えていくとよいでしょう。
ことばの発達段階
【喃語】
ことばとしての意味をもたない発声。簡単な音を使って発する。コミュニケーションの働きをもつことも。
例:「あっ」「ばぶ」「まんまんま」
【一語文】
車を見て「ブーブー」と言うなど、意味をもって話すひとつの単語(文)。
例:「ワンワン」「ブーブー」
【二語文】
意味のある2つの単語から構成される文。名詞+名詞や名詞+述語の組み合わせで、より進んだ会話に。
例:「ワンワン いた」「ブーブー あった」
【三語文】
「主語+目的語+述語」など、意味のある3つの単語をつなげた文。
例:「ぼく おもちゃ ほしい」「おっきい はっぱ あった」
※発達のスピードには個人差があります
喃語〜一語文の出始めは、子どものことばで
子どもが発音しやすい単語は、ことばの発達における第一歩です。
ここでは乳幼児期特有の表現の卒業より、コミュニケーションをとることを優先に応答的にかかわり、子どもが話す喜びを味わえるようにしましょう。
また、子どもが話すことばを大人も使うことで、新しい語彙の習得も促せます。
一語文が増加〜二語文出始めは、成人語を添える
ときどき二語文が出てくるようになったら、少しずつ子どものことばに成人語を添えてみましょう。
その際、「そうじゃなくて」と否定したり、「○○じゃなくて△△」と言い換えたりするのはNG。
まず大人は子どものことばを受け止めること。
それから、成人語を添える程度のさりげないサポートをしましょう
二語文が増加したら、成人語で話してOK
会話が二語文中心になり、表現が豊かになってきたら、大人自らが、成人語で話すとよいでしょう。
また、成人語は子ども同士のかかわりの中で自然に獲得されることが多いもの。
子ども同士でかかわりをもてるあそびや活動を行い、互いが成人語を聞いたり話したりする機会をもてるとよいでしょう。
「ワンワン」のままの子どもに、特別な支援は必要?
乳幼児期特有の表現は自然と成人語に切り替わることがほとんどですが、まれに対象物とその呼び名の結びつきが強く、成人語に切り替わらない場合も。
その場合は、言語聴覚士が音声模倣を促すアプローチを行うことがあります。
ほかに「人と目が合わない」など気になる様子がある場合は、児童発達支援センターや専門の医療機関などへ相談しましょう。
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