子どもを優しい子に育てるために重要な「幼児期の親の接し方」

渡辺弥生

やさしい子に育ってほしいと思うけれど、子どもの言動を見ていたら、ちょっと心配になってくることも……。いろいろな場面で、親はどのように対応すればいいのでしょうか。

幼児期に重要な親子のかかわりについて、教育学博士の渡辺弥生さんが解説します。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2021年4月号から一部抜粋・編集したものです。

幼児期の親の関わりがポイント

子どもは、2歳頃からイメージする力を獲得するとともに、記憶力も発達して、誰かの行動を時間が経ってマネをする「延滞模倣」ができるようになります。そして、人と関わることで、4歳を過ぎてやっと、自分と他人の心が別なものだと理解するようになってくるのです。

親としては、子どもには、自分のわがままを抑えて、もう少しまわりの人に親切な行動をしてほしい、と願っていると思います。でも、何も教えていない子に、そういう心が勝手に生まれてくるずがありません。それは、親が教えてやることなのです。

子どもがペットをなでていて、「〇〇ちゃん、やさしいね」と言われると、これがやさしいということなのか、と理解するようになります。

しかし、よく子どもに向かって、「やさしくしなさい!」と怖い顔をして怒っている親御さんがいますが、それでは小さい子どもは混乱してしまいます。まず、親がモデルとなって子どもに教えることが大切なのです。観察学習に優れている幼児は、すぐに吸収するでしょう。ぜひそこに気づいてほしいと思います。

では、子どもにどのように教えていけばいいのでしょうか。

子どもに抽象的なことをわかりやすく教える「ソーシャルスキルトレーニング」

STEP1 説明して教える
親が子どもの気持ちを代弁したり、お友だちの気持ちを教えてあげたりすることで、子どもは自分の気持ちを言語化するスキルやお友だちの気持ちを想像する力を育てていきます。

STEP2 親がモデルとなる
子どもは、親の行動を観察するだけで、してよいことを知り、正しい行動を学んでいきます。

STEP3 子どもと一緒にやってみる
説明したことやモデルとして見せたことを、ごっご遊びのようにやってみましょう。

STEP4 フィードバックする(ほめる)
その行動がどうであったのか、子どもに伝えていきましょう。ここでは、ダメ出しをするのではなく、子どもがより意欲的になるような言い方をします。

STEP5 チャレンジする
子どもが学んだ知識は、経験として積み重ねられていき、行動のレパートリーとして定着していきます。そして、いろいろなことにチャレンジしていくようになるのです。

ケース1 泣きわめく。癇癪がひどい

幼児はボキャブラリーがないので、今の自分の気持ちを言い表わせないと、混乱して泣きわめいたり、暴れたりします。幼児期では、自分の感情がわからないというのは仕方のないことです。自分の感情をちゃんと表現できるようになるには、親がボキャブラリーを与えていくしかないのです。

「泣いているのは悔しいからなんだね」と気持ちを整理して代弁してあげると、子どもは、これは「悔しい」ということなんだとやがて理解することができ、言葉で表現できるようにもなってリラックスできます。

たとえば、デパートに買い物に行ったとき、おもちゃ売り場で、「おもちゃがほしい〜」と床に転がって大泣きされるときなどは本当に困ってしまいますが、予想される場合は、そういう場所を避けるようにするなどの予防をすることも、1つの手です。

ケース2 我が強く、何でも自分でやると言う

自我が芽生え始めると、何でも自分でしたいと言い出すようになります。時間もないのに「この服はイヤ」と、小さいボタンの多い服を自分で着ると言い張って困ることも。親がイライラして、「できるわけないでしょ!」と言ってしまうことが多いかもしれません。

しかし、そういうレッテルを親から貼られてしまうと、子どもは自分に対して嫌悪感をもつようになり、自己肯定感が低下してしまいます。ですので、やりたいと意欲をもっている幼児期には、たくさんの「できる体験」を積み重ねてあげましょう。

少々うまくいかなくても、親がそっと手伝って、「自分でできたね。すごいね!」とほめたり喜んだりして、達成感を味わわせてあげることが、自信につながるのです。

ケース3 友だちとうまく遊べない

2歳頃から友だちのことを意識しはじめ、4歳頃から友だちと協力して遊ぶようになってきます。1人ひとり気質やタイプも違うので、率先して友だちと遊ぶ子もいれば、そうでない子もいます。親としては、友だちとなかよく遊んでほしいと願っていますが、無理やり友だちと遊ぶよう指示されるのは、子どもにとって負担になってしまいます。

そんなときは、「友だちとなかよく遊びなさい」と口で言うのではなく、親がモデルとなって、子どもたちの中に入って遊んでみるのも良い方法です。

その楽しそうな様子を見て、子どもは「そうすればいいのか」と学んでいくのです。そのあとで、「お友だちと遊べて楽しかったね」と達成感を味わえるような言葉をかけることで、友だちとの関わり方も変わってくるはずです。

ケース4 言うことを聞かない

電車に乗っているときに、子どもが騒いで周りに迷惑をかけて、「静かにしなさい」と叱っても、まったく言うことを聞かないというときがあります。その原因として、「注意引き」の行動が挙げられます。

子どもは親に関心を向けてほしくて、無意識ながらそういう問題行動を起こすのです。親は、子どもがちゃんとしているときには、自分のことに夢中で、子どもに声をかけることは少ないのに、問題行動をしたときにだけ過敏に反応して叱り、子どもの「注意引き」を成功させているのではないでしょうか。

ですので、子どもが問題行動をしたときには、過度にしつこく叱ったりしないようにして、ちゃんとできているときには、「ちゃんと静かにできてえらいね」と声をかけて、ほめるようにしましょう。

ケース5 よくふてくされる

子どもは、自分の思い通りにいかないときに、ふてくされて、1人で部屋の隅に行ってじっとしていることなどがあります。そういうときは、「ふてくされちゃダメ」と子どもの気持ちを抑え込むだけではうまくいきません。

まず、親が子どもの代弁者となって、その気持ちを聞き出すようにしましょう。この「聞く」、そして「共感する」という行動がとても大切なのです。誰かに気持ちに寄り添ってもらえると、子どもは心が落ち着きます。

子どもの話を聞きながら、「そうだね」と共感していくことで、あたたかいコミュニケーションが成立します。そして、「○○したら、かっこいいと思うなあ」など、いいイメージを伝えて、子どもが気持ちを切り替えられるような方向にもっていくようにしましょう。

子どものやさしい心を育む親の心得3カ条

1か条 関心を向ける(応答する)
まず大事なのは、子どもの話にちゃんと耳を傾けること。子どもが気持ちを投げかけてきたら、それをきちんと受けとめて応答しましょう。自分に関心を向けてくれたと感じると、それが子どもの自己肯定感につながるのです。

親がスマホをいじりながら答えていると、子どもは、自分に意識がちゃんと向いていないことを敏感に感じ取り、せっかくの親からのメッセージが伝わらないので、注意してください。

2か条 理解できるように説明する
「やめなさい!」という”力によるしつけ”(→怖いからやめる)や、「何かをできたときは大好き、できなかったときは嫌い」のように、”愛情のかけひき”(→親に嫌われたくない)をしていると、その場はよくても、基本的にやさしい心を育むことはできません。

何がダメなのか、何がいいのかを説明するようなしつけによってこそ、ほんとうのやさしい心が育っていくのです。これは、親が成長していくための練習でもあります。

3か条 穏やかにコミュニケーションする
子どもは0歳でも、まわりをよく観察しています。ですから、親が良きモデル(手本)となることが必要なのです。よくお母さんとそのお子さんで、話し方などがそっくりだったりしますよね。

小さい子どもは、良いところも悪いところもそのままマネをするので、やさしさを教えている親が、乱暴な言葉を使っていたり、ケンカをしたりしていると、子どもは混乱してしまいます。まずは親の言動から見直してみるようにしてみましょう。