子どもが非行化する原因は?親がすべき「幼児期のサポート」の仕方

宮口幸治

子どもが非行化する遠因に「勉強についていけない」ことがある―? ママ・パパはどのようなことに気をつければいいのでしょうか。立命館大学教授の宮口幸治さんが解説します。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2021年6月号から一部抜粋・編集したものです。

非行少年の子ども時代の特徴

これまで私は、自治体でさまざまな教育相談や学校コンサルテーションを行ない、幼稚園や小中学校を訪れてきました。そのなかで、お子さんの相談内容として多く挙がってくるのは、次のようなものです。

すぐにカッとなる、いつもイライラしている、勉強をやる気がない、集中できない、忘れ物が多い、ウソをつく、自尊心が低い、周りを見て行動ができない、漢字が覚えられない、計算が苦手……。

じつはこれらは、「非行少年の子ども時代の特徴」とよく似ています。もちろん、こういった子どもたちがみんな非行少年になるわけではありません。しかし、彼らを正しく理解して適切にサポートしていかなければ、そのリスクが高くなるかもしれません。

非行化の原因として「盲点」なのは…

乳幼児期は、思いどおりにならなければ暴れたり、泣いたりするのは、いわば当たり前と言えます。ですが、それがずっと続くと、親御さんは「このまで大丈夫かしら」「外で悪さをしないかな」と心配になることでしょう。

子どもが非行化する原因はじつにケースバイケースで、「原因はこれだ」とはとても断定できません。ただ、そのなかでも、とくに盲点となっているのが「勉強」です。

たとえば、子どもが非行化する原因が家庭環境や友だち関係にあると言えば、多くの人は納得することと思います。ですが、その原因が「勉強ができないこと」というのは、イメージがつきにくい。それゆえに、多くの大人が見過ごしている可能性があるのです。

小学校の間の勉強がとても大切なワケ

「勉強についていけない」ことで、子どもは大きく傷ついているのです。小学校に入ると勉強が始まり、子どもたちは周りと比較されることが多くなります。大人は「勉強ができなくても優しい子であれば…」と考えがちですが、それは注意が必要です。

中学校に入ると、度重なる定期テストで周りとの比較がより顕著となります。また思春期に入って精神的に不安定となるなど状況が一変。こうした「中1ギャップ」がストレスで、非行化する子も出てきます。

ここで非行化する子の中には、勉強が苦手な子も少なくありません。そしてさかのぼっていくと、苦手意識は小学校2年生くらいから出てきています。小学校での勉強の遅れは大きな問題で、中学校で勉強の遅れに気がついても手遅れになることも多いです。

・自分から「助けて!」とは言わない
「周りはできているのに、自分はできない」。このとき、子どもは「困っているから助けて」といった分かりやすいサインは出しません。ですが、暴れたり、キレたり、ウソをついたりといった問題行動の背景を探っていくと、じつは勉強が原因であることも多いのです。

・初の試練は小学校2年生ごろに
小学校で過ごす時間の大半は勉強なので、勉強についていけなくなることは、子どもが非常に傷つく体験です。その最初の試練が2年生で学ぶ九九で、このあたりから勉強につまずく子が出てきます。一度つまずくと、それ以降の算数の授業がほとんど分からなくなるからです。

「がんばってもできない子」がいる

スポーツでも勉強でも、大人は「いい結果を出す=がんばっている」ととらえがちですが、これは大きな誤解です。統計的に言えば、平均よりも低い子がどうしても出てきてしまう。結果が出ないのは、「本人にやる気がない」「怠けている」わけではありません。ゆえに、どのようにフォローするかが大切なのです。

・「いいところをほめる」も要注意
現代は、「子どものいいところを見つけてあげてほめる」という風潮がありますが、これは根本的な問題の解決になりません。「勉強ができなくても、性格がいいから大丈夫」「走るのは速いよ」などと大人が言ったところで、問題は先送りされるだけ。勉強ができずに、その先もずっと傷つくのは本人なのです。

勉強についてばかり述べてきましたが、もちろん人生は勉強がすべてではありません。ただ、親が「この子は勉強が苦手だから、他のもので補えばいい」などといって、勉強を苦手なままにしていいかは疑問です。最も大切なのは、子ども自身は勉強が苦手なことに対してどう思っているかです。本当に苦手なままでいいと思っているかです。もしそうでないなら、子どもの可能性をつぶしかねないのです。

勉強は軽視できない多くの問題の1つなのです。

親が子どものためにしてあげたいことは?

親として、子どもにどのようなことをしてあげればいいのでしょうか。

①子どもの「安心の土台」になろう
“子どもが本当に困っているときに、いつでも助けてくれる存在”になりましょう。そのためには、子どもの気になる行動を「不安のサイン」と気づくことが大切です。

たとえば、こんなことはありませんか?
・不機嫌であたりちらす、すぐキレる
・やる気がない
・「お腹が痛い」としきりに言ってくる
・下のきょうだいをいじめる
・ずっと親にくっついて離れない

このような兆候があれば、話を聞く、代弁する、ひたすら味方になってあげるなど、つねに子どもに寄り添うことを心がけましょう。これらを繰り返すことで、子どものなかに「安心の土台」がつくられていきます。


②子どもにとって「いい伴走者」に
「安心の土台」となるだけでは足りません。子どもを見守り、支える「伴走者」となることが必要です。これは案外、難しいことです。車の運転で例えると、親は助手席に座り、運転している子どもを見守っているつもりかもしれません。

ですが、「ブレーキはこうしろ」「ハンドルをああしろ」と余計な声かけをたくさんしてしまい、子どものやる気を奪っているケースが多々あります。

子どもをよく観察し、子どもが力を発揮できる環境をつくってあげるといった、「子どもにとっていい伴走者」となる必要があるのです。

③子どもの「つまずき」を把握しよう
1、2は大前提としたうえで、子どもがつまずいているところはないか、あるとすればどこでつまずいているのかを、きちんと見立てる必要があります。そのためのツールの一つとして開発したのが、「コグトレ(認知機能に特化したトレーニング)」です。

コグトレは、学校や社会で困らないための認知力、対人力、身体力アップをめざしたプログラムで、いま多くの学校でも取り入れられています。コグトレはさまざまな難易度のものがあり、未就学児から高校生まで使用できます。お子さんについて不安のある方は、ぜひご家庭で活用してみてください。

例:幼児向けのコグトレの内容は…
何があった?(絵を見て、出てきた動物を答える、など)/どうぶつでポン(文章を読んで、動物が出てきたら手をたたく)/まとめる(リンゴを3個ずつまとめる、など)/かぞえる(イヌは何匹いるか、など)/ぬりえ/点つなぎ/曲線つなぎ/めいろ/まちがいさがし/おかしいのはどこ?(絵のなかでおかしい箇所を見つける)……など

幼児のうちは集中力をつけよ

子どもが親の言うことを聞かない、癇癪を起こす理由に、親の言っていることがきちんと理解できていない、話に注意を向けることができないといった可能性があります。そのため幼児のうちは、集中力や注意力を高める力をコツコツつけていくのがいいでしょう。

コグトレは、その練習にもなります。集中力は、練習することによって鍛えられていきます。すると、相手をしっかり見て話を聞き、考えることができるようになっていくでしょう。