「わがまま、がまんが足りない」誤解されやすい感覚過敏の子どもたち

岩瀬利郎・大庭正宏

周囲にはわかりにくい感覚過敏。 わがまま、がまんや努力が足りない、などと誤解されてしまうこともあります。

子どもが感じているつらさや困難さに気づき、寄り添うにはどうしたらいいのか、医師の岩瀬利郎さん、太陽の子保育園園長の大庭正宏さんと一緒に考えていきましょう。

※本稿は発達支援の保育専門誌『PriPriパレット 2023-2024 12・1月号』(世界文化ワンダーグループ)から一部抜粋・編集したものです。

医師が解説!感覚過敏ってなんだろう?

自分以外の人が、刺激をどのように感じているか、それを実際に知ることはできません。
だからこそ、理解が難しい「感覚過敏」。
まずは、感覚過敏を知ることから、支援の第一歩を踏み出しましょう。

人から理解されにくい感覚過敏の困難さ

感覚過敏とは、光や音など特定の刺激を過剰に強く感じてしまう状態のことをいいます。

多くの人が気にも留めないわずかな刺激が気になったり、苦痛に感じるほど過敏に反応してしまったりするため、日常生活に様々な困難が生じやすくなります。

視覚と聴覚など複数の感覚に過敏さがある子も多く、また、感覚過敏のある子は同時に、刺激への反応が鈍い感覚鈍麻を併せ持つこともあります。

発達障害の中でも自閉スペクトラム症(ASD)の子に感覚過敏が併存するケースは多く見られますが、感覚過敏のある子がみな発達障害であるわけではありません。

刺激の感じ方は本人の主観によるので、感覚過敏の困難さは周囲から理解されにくいものです。

また、同じ刺激を受けても、人によって感じ方は違い、その比較もできないため、おとなになるまで自分の感覚過敏に気づかず、ひたすらそのつらさに耐えてきたという人もいます。

感覚過敏と折り合いをつけていくには、自分の苦手な刺激を理解し、苦痛を軽減する対応法を身につけることが必要です。

そのためにも、子どもに気になる様子があれば、周囲のおとなは「感覚過敏かもしれない」という視点で子どもをよく観察し、感覚過敏によるつらさを軽減するかかわりをしていくことが大切です。

感覚過敏の主な種類と特性

視覚過敏

目から入る刺激に対する感覚過敏で、明るい光、色などに敏感さがある
・蛍光灯のちらつきがまぶしい。
・太陽の光で目に刺さるような痛みを感じる。
・色彩が多い空間が苦痛。

味覚過敏

味に対する感覚過敏で、味のわずかな変化にも敏感
・いつも同じものしか食べない。
・特定の味で気持ちが悪くなる。
・辛いものを食べると痛みを感じる。

聴覚過敏

音に対する感覚過敏で、ほかの人は気にならない音を苦痛に感じる
・特定の音がすると耳や頭が痛くなる。
・特定の音や声をいやがる(あかちゃんの泣き声、救急車のサイレンなど)。
・賑やかな場所にいると疲れる。

嗅覚過敏

においに対する感覚過敏。特定のにおいで気分が悪くなる
・ほかの人は気づかないわずかなにおいに気づく。
・特定のにおいが苦手(柔軟剤、芳香剤、石鹸など)。
・食べ物のにおいで気分が悪くなる。

触覚過敏

肌に触れるものに対する感覚過敏で、不快さや痛みを感じる
・人に触られるのが苦手。
・特定の素材を触れない(粘土、水、泥、のりなど)。
・特定の素材の衣類は痛みを感じて着られない。

NG?OK?比べて学ぶ感覚過敏基本の対応

感覚過敏のある子の困りごとは、周囲からはわかりにくいもの。
そんなつらさを抱えた子どもたちへの対応の基本的な考え方を紹介します。

基本の対応1:刺激に無理に慣れさせようとしない

幼少期に見られる感覚過敏は、子どもの成長とともに、ある程度は緩和されていくことが知られています。

とはいえ、刺激に慣れさせようと、無理に刺激を受けることを強いるのは逆効果。

いやな経験と刺激が結びつくと、さらに刺激に対する嫌悪感が増して感覚過敏がひどくなることもあるので、注意が必要です。

基本の対応2:刺激を取り除く

子どもが特定の刺激を不快に感じている様子が見られたら、おとなはすみやかにその原因を取り除くか、子どもを刺激から遠ざけましょう。

子ども自身が、「苦手な刺激から離れれば、つらくなくなる」とわかるようになれば、自分から苦手な刺激を回避することができるようになります。

結果を求めないことも大切

おとなが「少しでも刺激に慣れて様々な活動をしてほしい」と思うのは、子どもの成長を願うからこそ。

しかし、子どもにはその思いが負担になってしまうことも。

早急に物事の理由や結果を求めずに、迷い悩み、その状態を受け入れること(ネガティブ・ケイパビリティ)も大切です。

結果や成長を求めるのではなく、ありのままの子どもを受容するというアプローチも大切にしたいものです。

岩瀬利郎
東京国際大学医療健康学部准教授/日本医療科学大学兼任教授。埼玉石心会病院精神科部長、武蔵の森病院院長、東京国際大学人間社会学部専任教授、同大学教育研究推進機構専任教授を経て現職。精神科専門医、睡眠専門医、臨床心理士・公認心理師。

大庭正宏
東京都羽村市で運営する2つの保育園で、インクルーシブ保育の実践に取り組む。児童発達支援事業所「発達支援Kiitos 羽村」では、ソーシャルインクルージョンを地域へと広げる活動を行っている。

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PriPriパレット

PriPriパレット 2023-2024 12・1月号(世界文化社)
保育者や児童発達支援の現場でご好評をいただいている『PriPriパレット』。
12・1月号の特集は、「感覚過敏の子は どこで 何に 困っているの?」。感じ方に個人差があるため、理解されにくい感覚過敏。 医師の解説と園の実践方法を紹介します。