学力だけじゃない!中学校受験が子どもを「人間的に成長」させる理由
中学受験には賛否両論あり、親としては子どもに中学受験をさせるべきかどうかは大いに悩むところ。
中学受験の第一線で30年以上指導してきたプロ講師の渋田隆之さんは、「中学受験は、学力だけでなくそれ以外の力を身につけるいい機会だ」と言います。
受験がもたらす学力以外の力について解説してもらいました。
※本稿は渋田 隆之著『2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです
中学受験と高校受験の違い
「中学受験をしたほうがよいか、それとも高校受験で十分なのか」という議論があります。
中学受験をすることには賛否両論があるでしょう。物事には、メリットとデメリットの両方があるので、完璧な正解はありません。ただし本稿は、中学入試を検討・決断されている方向けですので、中学受験のメリットのほうをいくつか説明します。
心理学者ジャン・ピアジェの学説によると、人間の論理的思考能力は10〜11歳ぐらいまでに形成されるそうです。小学生のうちに頭脳を鍛えておくことは思考能力の土台を作るうえでもとても重要なことである、というのは忘れてはなりません。小学生の、頭がやわらかく吸収力のある時期は「ゴールデンエイジ」ともいわれます。
また、中学受験は、内申点などの影響も受けない公平なしくみでもあります。
合否に関して、自分のがんばりがダイレクトに反映されるという意味では、高校入試よりもその要素は大きいでしょう。公立中高一貫校や一部の学校を除き、通知表(あゆみ)の提出もなくなりました(これはwebでの出願とも関係があります)。
高校入試のない環境で、部活を引退せずに続けられたり、反抗期に自分を見つめたりすることの意義は、非常に大きいでしょう。成長期には、「ゆとり」や「無駄」はどうしても必要になります。ましてや社会人になってから自分を見つめるような時間を作るのは、現実的には非常に難しいと実感しています。
日本の高校受験には、自分を見つめることが必要な生徒たちが、十分な時間を取れないという側面があります。反抗期には、ともすれば「誰であっても、大人の言うことはすべて聞きたくない」という状況になっている可能性もあり、受験に集中できないケースもあるでしょう。
さらに、部活動(とくに集団競技)をがんばっている生徒についても、入試に向けての受験の準備期間が確保できないため、不利に働くという要素もあります。高校受験で志望校を受けられなかった(公立高校を複数受けることは原則できないため)場合は、「行きたい学校を受けることすらできなかった」という後悔が残ることもあるかもしれません。
卒業生のお母さんからの話
小学校時代は、夜遅くまで塾通いで大変だと思っていました。しかし中学に入ったら、部活をやっていても下校時刻が厳密に決められていて、19時くらいには毎日、家に帰ってきています。
ちなみにうちの学校は、夏時間は18時、冬時間は17時半が完全下校です。遠方から通ってくる生徒が多いためにそういうしくみになっていると聞きました。
中学・高校時代に、家族で夕食を食べられるというメリットはとても大きいと思います。
「勉強ができること」がすべてじゃない
「勝ち組、負け組」という嫌な言葉がはやった時期がありましたが、「〇〇くんよりクラスが上だったから勝ち」「難関校に合格したら勝ち」といった「勝ち負け論」を持ち込み、その価値観を子どもが持つようでは、受験をする弊害のほうが大きくなってしまいます。
曾野綾子さんの書籍の言葉をご紹介します。
頭のいいことだけが力ではない。愛嬌のいいことも、陽気なことも、歌が上手いことも、ダンスのセンスが並みはずれてあることも、力持ちなことも、いざという時に落ち着いていることも、すべて力である。
中でもすばらしいと思うのは、苦しみに耐える力と、人を許す心である。つい先日、二十四年間、腎臓を患い、二十二年前から透析を続け、十年前から全盲になり、体も半身動かない寝た切りになりながら、運命を呪ったこともない元自衛隊員の話を聞いた。奥さんの方が病人のご主人を掴まえて、愚痴を零すのだと言われたが、ご主人はいつも明るく、看護婦さんの間で人気者だという。そういうことができるのが、ほんとうの勇気であり力なのだろう。
『悪の認識と死の教え―私の実感的教育論』(青萠堂)より
「七転び八起き」という言葉をそのまま読むと、7回転んだのだから、7回起きればよいということになります。なぜ、1回多い「八起き」なのでしょうか。人間は、生まれてすぐには歩けません。ハイハイをして、立ち上がる準備をし、そして、保護者の支えを借りて、ようやく自分の足で立つことができるのです。つまり、生まれて最初に立ったときを「一起き」と数えるので「八起き」なのです。
人は自分だけの力では生きていけません。「七転び八起き」にはまわりの助けがあって生きていけるという意味が込められているそうです(諸説あり)。まわりの助けがあって生きられているということを理解し、精神的に成長できるというのであれば、それは「勝ち」と言えるかもしれません。
受験を終えたばかりのお母さんからのメッセージ
幼稚園はもちろん、小学校2年生まで私が学校まで送ってあげないとダメな子でした。そんな子が、さっき受験会場の中に一人で入っていき、4教科の試験と戦ってくることができました。
合否はこれからですが、親としてはその姿を見て成長したなあと涙が出てきました。本人はいつの間にかたくましくなったんですね。先生、幼いわが子と気弱な母親を第一志望の会場までたどりつかせていただき、本当にありがとうございました。
結果は無事合格でした。こうやって生徒それぞれの成長の軌跡を見ることができるのが、中学受験の醍醐味の一つです。
中学受験で学力以外に身につくこと
受験勉強は、学力はもちろん、人間的な成長をももたらす絶好の機会です。 目先の大学入試改革よりも、「日本の未来」のほうがはるかに不安です。30年前に、今の日本の様子を正確に予測できた人は、はたしていたでしょうか。いつの時代も、「これを勉強しておけば心配ない」という確実なものはなく、教育は常に試行錯誤の繰り返しです。
また、社会に出ても勉強は続きますし、多くの仕事はマニュアル化されていません。かんたんに文章化できないようなノウハウが、その仕事の核となっていることが多いものです。
同じく人間関係においても、「こうすれば必ずうまくいく」という答えはありません。だから、いろいろな試練を通して、学力以外の力を身につける必要があるのです。
勉強することで成長するものの一つに「思いやりの力」があります。ある程度の年齢になったら、自分が勝ったときに、敗れた敗者のことを思いやる余裕を持てるようになりたいものです。「勝つことよりも尊いものがある」と知っている人は、とても立派です。
今は、合格発表が掲示板に貼り出されることは少なくなっていますが、ひと昔前まで、私は生徒にこう伝えていました。
「自分の合格がわかっても、掲示板の前で『やった〜』と叫んだり、飛び上がって喜ぶような真似はしないように。校門を出てから、誰もいないことを確認して喜びを嚙み締めよう」
隣で涙を流している人のことを配慮できる受験生であってほしい、と心から願っています。
関連書籍
2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100(かんき出版)
2万人を超える受験生親子を合格へ導いてきたプロ講師が、 中学受験で悩み、迷っている人の手助けとなる100のヒントを紹介します。
□塾はどう選べばいい? 大手だったら安心?
□勉強の習慣をつけるコツって?
□志望校はどうやって決める? 変えるのはNG?
□学校を見学するときのポイントは?
□模試の結果は、何に注目すればいい?
□受験直前期、子どもとどう接するべき?
などなど、受験をするか迷っている人にも、塾に通っている人にも役立つ!
著者の教え子とその保護者のエピソードも満載です。