脳科学者がおしえる「育児で怒らない脳」を作る4つの習慣

茂木健一郎
2024.01.16 14:51 2024.02.05 11:50

ママと子

ガミガミ言うのをやめるには、どうすればいいのでしょうか。怒ることの無意味さと、脳の性質を知り、習慣を変えていくことで、「よく怒る人」から「怒らない人」に変わることができます。脳科学者の茂木健一郎さんが解説します。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2020年10月号から一部抜粋・編集したものです。

脳科学でガミガミをコントロール!

親子で手を取り合って

若い頃の私は、「茂木さんはよく怒っているね」と、よく言われたものです。それが今やガラリと変わって、「怒らない人」になりました。

以前の私は「失礼なことをする人」や「意味のないことをする人」に対して、いちいち怒っていたのですが、「怒っても何も変わらない。むしろ、事態をより悪化させてしまう」という事実に気づいてから、怒らなくなったのです。気づくまでに何十年もかかりました。

よくスーパーやコンビニのレジ、飲食店などで「早くしろ!」「いつまで待たせるんだ!」と怒っている人がいます。でも、お店の人に怒って、何か変わるでしょうか。怒った瞬間にレジの順番が回ってきたり、料理が運ばれてきたりすることはありません。待たされて不快になているのはわかりますが、誰かに怒ると、さらにイライラしたまま待つことになります。

しかも、怒られた側は、往々にしてミスを呼び込みやすくなります。スタッフが慌ててミスをしてしまったら、さらに待たされることになります。

怒ってもいいことはない。よく考えればわかることなのに、怒ってしまうと、そんなことも忘れてしまいます。怒りが、自分自身から冷静さを奪ってしまうからです。場合によっては、人生を棒に振ってしまう危険性も秘めています。

「怒らない人」になれれば、人間関係が円満になり、脳も活性化します。そうすると、子育てに限らず、あらゆることで成果を出せるでしょう。ここでは、そんな「怒らない脳」にバージョンアップする習慣を4つ、ご紹介します。

子どもの「いいところ」を見つけよう

ママの話を聞く子

脳が怒りにハックされてしまうと、新たな発想やひらめきが生まれません。「許せない」「排除する」といった回路しか機能していないので、トラブルに発展することも多くなります。

怒りの感情にとらわれないようにするためには、相手の「いいところ」を見つける習慣をもつことです。人は、欠点や失敗があっても、それ以上にたくさんの「いいところ」をもっているものです。「いいところ」を見るようにすれば、子どもがイラッとする言動をしても、「そういうところもあるよね」と受け流せます。

脳の「いいところを探す回路」が強化されると、神経細胞をつなげる機能も強化され、脳が怒りにハックされることを防止できます。断っておきますが、「いいところ」を見つけるのは、相手の欠点や失敗に目をつぶることではありません。「悪いところ」だけを見て、怒りにとらわれることがないようにするということです。

ママ友や夫などと雑談をしよう

夫婦の会話

「雑談」と言うと、時間つぶしにするものと思われがちなのは、もったいないことです。誰かとともに笑ったり共感したり、ときには泣いたりすることで、脳内では、幸せホルモンとも呼ばれるオキシトシンが分泌されます。

そして、雑談をしているとき、脳はたくさんの回路を使っています。何を話そうか考える。相手の反応を見る。相手の話を聞く。その話を受けて、自分が話すことを考える。話しながら、また何かを思い出す……。短い時間であっても、脳のさまざまな回路が使われています。たかが雑談ですが、脳を活性化させているのです。

脳のあらゆる回路を使う習慣が身についてくると、イライラしても怒りの回路がつくられるのがブロックされ、脳が怒りにハックされることも少なくなります。1日にほんの数分でいいから「雑談タイム」を設けて、なるべく多くの人と共感するようにしたいものです。

できるだけきれいな言葉を使おう

会話する父と子

日頃から「おい」とか「バカ」といった乱暴な言葉や、「やっておけ」「早くしろ」といった命令形の言葉を使っていると、イライラしたりカーッとなったりしたときに、無意識にそういう言葉が出てくるようになり、それが思考や行動、価値観にも反映されてしまいます。

また、乱暴な言葉を使うと、相手の脳が不快になり、ミラーシステム(他人の考えを読み、共感するしくみ)が作用して、こちらも不快になってきます。攻撃性を加速させるノルアドレナリンが分泌され、トラブルに発展しがちです。

一方で、相手も自分も楽しくなるような、脳を「快」にする言葉をふだんから使っていれば、それが思考や行動、価値観に反映されます。どちらがいいのかは、言うまでもありません。「怒らない脳」にするために、どんな状況になっても、きれいな言葉だけが無意識に出るくらいに徹底してみましょう。

他人の幸せや成功を心から祝福しよう

笑顔で話す女性

あなたが、たまたま結婚式を終えたばかりのカップルに遭遇したとします。「おめでとう。お幸せに!」と声をかけたあなたは、きっと幸せな気分に包まれるはずです。それは、ミラーシステムが作用して、あなたの脳が「快」になったからです。

見知らぬ2人から「幸せのおすそ分け」をもらったのです。あなた自身がどういう状態であれ、うまくいっている人を自分のことのように祝福しましょう。あなたの脳は「怒らない脳」に変わり、何かしらのおすそ分けも、もらえるでしょう。

茂木健一郎

茂木健一郎

1962年東京生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。