他者には伝わらない苦痛…感覚過敏がある子どもへの寄り添い方

岩瀬利郎,大庭正宏
2024.01.22 17:13 2024.02.06 11:50

小学生の男の子

光や音、においなど、特定の刺激を過剰に強く感じてしまう感覚過敏の子どもたち。日常生活に支障をきたすほどの苦痛に、周りの大人はどのよう向き合えばいいのでしょうか?

感覚過敏の子との関わり方を、医師の岩瀬利郎さん、太陽の子保育園園長の大庭正宏さんに教えていただきました。

※本稿は発達支援の保育専門誌『PriPriパレット 2023-2024 12・1月号』(世界文化ワンダーグループ)から一部抜粋・編集したものです。

子どもが安心して過ごせる環境づくりを

本を読む女の子

不安や緊張が高まるほど、感覚過敏は強く出る傾向があります。
そのため、子どもが安心して過ごせる環境を整えることも大切です。

刺激の排除に努めるとはいえ、感覚過敏のある子が苦手な刺激をすべて取り除くことはできません。

環境整備で解消できない刺激には、子どもが抱える困難さに応じて、個々に刺激を回避する支援を考えることも必要です。

子どもの“ 苦手” と“ 不快” の原因を探る

泣いている子ども

機嫌よく過ごしていたのに突然パニックになる、極端な偏食で食べられるものがほとんどないといった場合、その背景には感覚過敏があることも。

気になる様子が見られた場面や状況を記録しておくと、その子の苦手な刺激を推測するヒントになります。

子どもの困難さを受け止め、理解しようと寄り添い続ける

親子で手を取り合って

感覚過敏のある子にどう向き合えばいいか戸惑う大人がいる一方で、子どもは自分の感じているつらさや不快さを受け止めてもらえないことに心を痛めています。

感覚過敏のつらさを体感として知ることはできませんが、子どもの抱えるつらさを理解しようと努め、共感のことばをかけながらその困難さに寄り添うことが大切です。

自分で苦手な刺激を回避できる力を育てる

悩みを抱える男の子

音がつらいときはイヤーマフをつけるなど、感覚過敏のある子が苦手な刺激の回避方法を身につけることは、今後、感覚過敏とともに生活していくうえで欠かせない力です。

子どもがつらそうなとき、まずは大人が安心グッズを用意するなど刺激を取り除く方法を示し、次第に自力で対処できるように導いていきましょう。

実はこれも感覚の偏りが原因!?

感覚過敏のある子が感じている世界は、周囲には理解し難く、「なぜ?」と思う場面も少なくありません。「なぜ?」と感じる行動のワケを、岩瀬先生、大庭園長のおふたりに推測してお答えいただきました。

頭を抱える男の子

Q.小さな空調の音を捉えて「うるさい」というほどよく聞こえているAくん。その一方で、呼びかけても反応がなかったりするのはなぜ?

A.たくさんの音の中から、必要な音だけを聞き取ることが苦手な子もいます

聴覚過敏には、「まわりの人が気づかない小さな音が気になって物事に集中できない」「特定の音で耳や頭に痛みを感じる」というケースのほかに、「雑音がすべて大きく聞こえるため必要な音を聞き取れない」というケースもあります。
Aくんの場合は、どちらの特性もあるのかもしれません。
声が伝わりにくい場合は、Aくんの視界に入り、触られるのが平気なら軽くタッチしながら声をかけるなどして注意を促すとよいでしょう。(岩瀬先生)

しゃがむ女の子

Q.直前までご機嫌だったのに、急に外に出ることを激しくいやがることがあるBちゃん。何が原因なのでしょう?

A.耐えがたい刺激があるのかも? という前提で注意深く観察を

外に出るのをいやがる理由がわからないと、おとなも対応に悩みますね。
激しく拒んだときの屋外の状況を記録しておくと、日差しが眩しかった、強風が肌に当たり痛かったなど、屋外特有の刺激に苦痛を感じたのではないかと推測できます。
原因がわかれば、刺激を軽減する対応も考えやすくなります。(大庭園長)

男の子に注意する親

Q.ものや人によくぶつかるCくん。友だちとぶつかっても知らんぷりなので、友だちとトラブルになることが多いです。

A.ぶつかったことに気づいていない可能性も

Cくんは、感覚鈍麻で刺激の感じ方が鈍いため、ぶつかったことに気づいていない可能性もあります。感覚鈍麻で痛みに鈍いと、ケガをしても気づきにくく危険なこともあります。(岩瀬先生)

人やものにぶつかる場面を見たら、ぶつかった箇所に触れながら「今ぶつかって痛かったね。ぶつからないように気をつけようね」と周囲への注意を喚起して、人やものにぶつかったことに気づけるように促しましょう。(大庭園長)

岩瀬利郎
東京国際大学医療健康学部准教授/日本医療科学大学兼任教授。埼玉石心会病院精神科部長、武蔵の森病院院長、東京国際大学人間社会学部専任教授、同大学教育研究推進機構専任教授を経て現職。精神科専門医、睡眠専門医、臨床心理士・公認心理師。

大庭正宏
東京都羽村市で運営する2つの保育園で、インクルーシブ保育の実践に取り組む。児童発達支援事業所「発達支援Kiitos 羽村」では、ソーシャルインクルージョンを地域へと広げる活動を行っている。

関連書籍

PriPriパレット

PriPriパレット 2023-2024 12・1月号(世界文化社)
保育者や児童発達支援の現場でご好評をいただいている『PriPriパレット』。
12・1月号の特集は、「感覚過敏の子は どこで 何に 困っているの?」。感じ方に個人差があるため、理解されにくい感覚過敏。 医師の解説と園の実践方法を紹介します。