保護者から離れない、失敗を嫌がる…「不安が強い子」に園はどう寄り添う?

白馬智美

いつもおどおどしていたり、保護者と離れられず激しく泣いたり……そんな「不安が強い子」には、さまざまな理由や背景があります。 園生活での不安を和らげるために保育者ができることは? 公認心理師の白馬智美さんが、子どもの気持ちに寄り添う支援について、5つの事例とともに解説します。

※本稿は発達支援の保育専門誌『PriPriパレット 2024年 4・5月号』(世界文化ワンダーグループ)から一部抜粋・編集したものです。

「不安」といっても理由はそれぞれ

発達に課題のある子の中には、ささいな環境変化にも不安を強く感じたり強いストレスとなったりし、その反応として様々な行動が出る子がいます。園の集団生活の場では、ほかの子どもたちにとって心地よい環境や楽しい体験でも、不安を感じたり、感情のコントロールができなくなったりする場合も。

子どもによって、不安を強く感じる原因やきっかけは異なり、いろいろな要因が絡み合っている場合も少なくありません。そのため保育者は、その子をよく観察し、保護者からの情報やほかの保育者の気づきも参考にしながら、不安の原因を推測し、その子に適した支援の方法を考える必要があります。

その際、大前提として、けっして子どもに無理強いをしないこと。子どもにがんばらせることで不安への耐性をつけ、克服を目指そうとする方法は、逆効果になります。苦手なものから逃げられる安全な場所や安心できるグッズを用意して、子どもが落ち着ける環境やパターンを見つけることが、不安の解消につながるでしょう。

「不安」の主なタイプ

1理解がゆっくり
2感覚過敏
3失敗が苦手
4場面緘黙
5保護者と離れられない

ケース1:いつもおどおど不安そうなAさん

発達がゆっくりな4歳のAさん。
集団活動の一斉指示では友だちのペースについていけず、いつもどこか不安そうです。活動中に座り込んでしまうこともあります。

何をすべきかわからなくて不安に

発達がゆっくりな子どもは、理解や動作のスピードがゆっくりなために、友だちのペースについていけないことがあります。保育者の指示をすぐに理解できず、なにをしてよいかわからなくて不安を感じる場合もあるでしょう。

保育者は、クラス全体への指示の後、個別に声をかけて理解をサポート。ゆっくりでも、その子のペースで理解し、動けるように支援します。「自分でできた!」という経験や達成感が、不安の軽減や意欲につながります。

園での支援実例

・個別の声かけ
クラス全体へ向けた話などは、話すペースが速かったり、内容量が多いと理解が追いつきません。個別の声かけを心がけ、抽象的な表現を避けて、数や固有名詞を用いたことばで、短く具体的に伝えました。イメージをもちやすくするために、絵や写真を使うなど、その子が理解しやすい方法も工夫しました。

・支度専用スペース
朝の支度などは、情報や周りの刺激を整理し、集中して取り組めるように、専用の場所を用意しました。自分のペースで進められるようにしたことで、保育者が一部を手助けしながら、「自分でできた!」と達成感が得られた様子。できることを少しずつ増やしながら、自信をつけていく支援を大切にしています。

・選べる絵カードとできたねシール
自由あそびやトイレなど、自発的な行動が求められると、どうしたらよいか、誰になんと言ったらよいかわからないAさん。あそびの種類やトイレなどのカードを用意し、選べるようにしました。慣れてくると、自分でカードを見せて、気持ちを伝えられるように。モチベーションアップに「できたねシール」も有効です。

ケース2:感覚過敏があり、イレギュラーな場面が苦手なBさん

普段から集団行動が苦手で、避難訓練や行事など日常と異なる場面で、泣き出したりパニックを起こしたりする4歳のBさん。聴覚過敏があり、耳を塞いで座り込んでしまうこともあります。

感覚過敏や見通しがもちにくいと強いストレスを感じる

発達に特性がある子の中には、新しい環境や見通しがもちにくいものに対して強いストレスを感じる子どもがいます。突然の音にも強いストレスを感じるBさんは、避難訓練のサイレンの音に不安や恐怖を感じるのでしょう。

感覚の敏感さから環境へのストレスが高じる子は、苦手なものからまず「離れる」こと。安心できる環境やグッズを準備します。これからなにがあるのか、どうなったら終わるのかなどの見通しがもてると、安心できることも多いです。

園での支援実例

・イヤーマフを積極的に使用
聴覚過敏が強いBさんは、突然の音だけでなく友だちの話し声なども刺激やストレスに。普段からイヤーマフを使って、音の刺激をコントロールできるようにと、家での使用をすすめました。使用に慣れ、園でも活用し始めたBさん。友だちと交流したいときなど、場面に応じて外す判断もできるようになりました。

・スケジュールボードで具体的に
新しいことが苦手なBさんは、先の見通しがもてると不安が軽減します。そこで、スケジュールボードで1日の流れを一緒に確認するように。たとえば、避難訓練で音が何回鳴るか、何時に終わるのかを伝えて、本人が「やれる」と判断した場面だけの参加にしました。経験を積む中で、徐々に参加できる場面が増えていきました。

ケース3:失敗することを極端に嫌がるCさん

5歳のCさんは、「失敗しそう」「負けそう」だと感じると不安感が高まり、活動への参加を拒否。 椅子取りゲームで負け、怒って椅子をなぎ倒したこともありました。

失敗が苦手で勝ちにこだわる

失敗や負けを極端に嫌がり、初めからやろうとしなかったり、ゲームに負けそうになると大騒ぎになるCさん。気持ちのコントロールが難しく失敗をひきずる、ひとつの価値観にこだわり勝ち以外を認められないといった特性が見られます。

みんなと楽しく活動に参加しながら経験を積むためには、参加の仕方にバリエーションをつくる、見通しをもてるようにルールを可視化する、といった工夫と配慮を。不安を軽減する支援が必要です。

園での支援実例

・楽しく参加できる経験の積み重ねを
参加を嫌がるときには、見るだけや保育者の手伝いをするという参加の仕方もOKに。活動に興味をもってきたら、活動の内容やルールを視覚的に示して説明し、少しずつ勝敗や「一番」以外にも関心をもてるようにしました。

・約束を一緒に確認
Cさんは、一度にひとつのことしか目に入らず、見通しをたてられないために、失敗するのではと不安になる様子。保育者はふせんなどを用意しておき、必要に応じて次になにをするのかを書いて見せるようにしました。その都度一緒に確認をすると、安心できるように。約束が守れたら花丸を描いてしっかりほめることもしました。

・気持ちを代弁し切り替えをサポート
「悔しい!」「勝ちたかった」というCさんの気持ちを保育者が代弁し、気持ちのコントロールを助けるようにしました。クールダウンできる場所に移動して、切り替えを助けるサポートも。気持ちをすっきりさせて、次の活動に移れるようになりました。

ケース4:園では緊張して話せないDさん

4歳のDさんは、イエス・ノーの意思表示はできますが、園内ではほとんどことばを話しません。注目されると不安や緊張からかたまってしまい、泣き出すことも。家庭では話しているとのことです。

話すことを目標とせず、安心できる環境を優先

園でのコミュニケーション方法が限られると、子どもは疑問や心配を保育者に伝えられず、保育者もとまどうことがあります。その結果、子どもの不安や緊張をより高めてしまうことも。このような場合は、話すことを一旦脇に置き、まずは、楽しい経験や安心できる環境を整えることを優先します。安心できる友だちがいれば近くの席にしたり、好きなあそびを友だちや保育者と楽しんだりして、好きな人やものを増やしていくことから始めましょう。

園での支援実例

・絵カードで気持ちや意思を伝える
声に出さなくても意思が伝えられる絵カード。「楽しい」や「うれしい」などの気持ちを伝えるカードや、「これであそびたい」を伝えるあそびのカードなど、様々なタイプのカードを用意しました。Dさんが楽しくあそんでいるときに、保育者が「楽しいね」と絵カードを見せることでも、安心を得られているようです。

・横並びで話しかけて
不安な環境の中だと話ができないDさんは、対面で話しかけられると威圧感を受ける様子。話をするときは、横に座って目線を合わせ、やさしく話しかけて緊張をやわらげるような配慮をしました。直接ではなく、ぬいぐるみなどを使って話しかけることも。

・お気に入りグッズ
お気に入りのぬいぐるみやおもちゃがあると安心でき、気持ちが安定する様子。緊張することが予測される場面以外でも、いつでもお気に入りグッズを手にできるように用意をしておきました。置いておく場所を決めるなど、約束事も共有しています。

ケース5:登園時に保護者と離れられないEさん

入園後半年たっても保護者から離れられない4歳のEさん。登園渋りも続いています。園でのストレスの反動か、家庭で激しいかんしゃくがあるようです

早期の分離を目指さず、段階的に安心を増やす

新入・進級の時期に、保護者と離れられない子どもは一定数います。なかには、不安が腹痛・頭痛などの身体的症状として現れることも。
まずは保護者と離れられない子どもの心に寄り添い、すぐに保護者と引き離そうとせず、保育者との関係づくりを。園の中に、子どもにとって安心できる場所や人、ものを増やすことを目指しましょう。
保護者の不安感が伝わって子どもが不安になるケースも多いので、親子に寄り添った支援も行います。

園での支援実例

・はじめはあいさつだけでも
「登園して保育者とあいさつをしたら帰る」からスタートするのもひとつ。ほかの保護者の了解を得た上で、Eさんの保護者も一緒に園で過ごしてもらうことに。徐々に園にいる時間を延ばしていき、少しずつ安心の対象を広げていきました。

・クラスにこだわらず園内に安心基地を
園に慣れるまで、事務室にスペースをつくり、おもちゃなどを用意して、Eさんのペースで過ごせるようにしました。園の中に安心できる場ができ、保護者以外にも安心できる特定の大人と過ごせるようになって、保護者と離れて探索したり、「やってみたい!」が増えてきました。

・心地よい、安心できるグッズ
保育室に好きなおもちゃやグッズを用意して、誘ってみることにしました。ふわふわしたものや、ひんやりした保冷剤など、心地よい感触が得られるグッズで不安軽減。 低反発素材のキーホルダーや、ぷにぷにした握り心地のスクイーズボールもお気に入りです。

・ぬいぐるみでコミュニケーション
お気に入りのぬいぐるみを自宅から持ってきていたEさん。保育者や友だちに直接話しかけられると緊張するようでしたが、ぬいぐるみを介してならコミュニケーションが取れるように。少しずつ保育者や友だちとの関係が広がり、保育室が安心できる場所になっています。

関連書籍

PRIPRIパレット

PriPriパレット 2024年 4・5月号(世界文化社)
保育者や児童発達支援の現場でご好評をいただいている『PriPriパレット』。
4・5月号の特集は、「環境づくり&感覚おもちゃアイデア58」。

この4月より合理的配慮の提供が義務化されるにあたり、一人ひとりが過ごしやすいクラスづくりが求められています。特集では、実際に園や療育施設、特別支援学校での環境づくりの実例や、感覚おもちゃなどのアイデアをご紹介します。保存版としてとっておきたい、「福祉サービスの基礎知識」もラインナップ。卒園後の進路に関する見通しや連携するための専門機関などがすぐにわかります。4月に合わせて、新しく出会う保護者との関係づくりの読み物や新連載ももりだくさん!