受験で予想外の不合格…10代が挫折を乗り越えるための禅の言葉

石井清純監修,水口真紀子編著
2024.06.11 11:05 2024.06.26 11:30

合格発表をみる学生

人生をかけて臨んだ受験で、まさかの不合格だったら……考えたくもありませんが、人生は時にこういった試練が起こるものです。
辛い挫折を経験した10代に贈りたい禅の言葉を、書籍『ZEN(禅)スタイルでいこう!』よりご紹介します。

※本稿は、石井清純監修、水口真紀子編著『ZEN(禅)スタイルでいこう!』(キーステージ21)から、一部抜粋・編集したものです。

まさかの受験で不合格 !?
人生最大の打撃を受けた元輝の場合

小学校のころからなぜか物覚えがよくて、勉強ができる子といわれた。ほめられるとうれしくって、もっともっと勉強してほめられようとして、いつしかガリ勉呼ばわりされてた。

まあ、ガリ勉は間違いではないんだけど、周りのみんなは僕が根っから勉強好きで、すぐになんでも覚えられるんだろうみたいなことを言う。そんなわけないだろ。僕だって「転落」するのが怖くて、日々努力を続けてるんだ。

いよいよ、高校受験の合格発表当日。
模試では第一希望から第三希望まで、全部の学校にA判定が出ているから、きっと大丈夫なんだろう。合格できるはずだと思っていても、やっぱり不安が募る……。

学校の敷地内は歓喜の叫び声やら、泣きながら抱き合う親子がにぎやかにやってる。もちろん、暗い顔して出ていく人もいる。自然と自分の足も速くなる。

お、陽向ちゃん発見! 一足早く着いたんだ。一緒に合格してたらいいな。

「おはよう。陽向ちゃんの番号はあった? なんか浮かない顔してるけど」
「うん、私の番号はあったよ。あったんだけどね…」

自分の番号はあったんだけどね…って何? 僕の番号は…?

…目の前が真っ暗だ。僕の前の番号と、三つ後の番号がある。その間がない。つまり僕の番号はないってこと? なんで? なんでないの? 僕の番号…。

きっと学校の連中はみんなびっくりするだろう。元輝が不合格だったって。僕より成績が下だった三人がみんな合格したのに、一番だった僕だけが落ちた。

今日は何年ぶりか、泣き叫ぶしかない。

ZENスタイルでいこう

元輝くんに贈る禅語:「随処作主」

「随処作主(ずいしょさしゅ)」
古人云、
向外作工夫、総是癡頑漢。
爾且隨處作主、立處皆真。
――臨済義玄『臨済録』

(現代語訳)
昔の人は言った。
自分の外側にあるものに向かってあれこれと努力するのは、まったくの愚か者である、と。
どこにあっても自分に主体性を持ち、与えられた場所で本気で物事と向きあえば、それが真実の姿となる。

解説:自分の居場所は、自分で作る

受験会場の入り口

このご時世、一生のうちで一度も試験というものを受けたことがない、という人は少ないと思います。早い人では幼稚園から、遅くとも大学までには一度は受験して学校を決めることになるでしょう。

どんなに努力したって、結果は合格か不合格のどちらかなのだから、残酷なものです。何度かチャンスが与えられている場合もあるでしょうが、それだってすべてうまくいくとは限りませんからね。人生で乗り越えなければならない壁の一つでしょう。

乗り越えなければならないものは、受験以外にもたくさんあります。資格試験や就職、転職、結婚などなど…。先に出たNBAのバスケットボール指導者・フィル・ジャクソンも「Your problems never cease. They just change. あなたの課題は尽きない。ただ変化していくだけだ」と言っています。

自分の希望通りの結果にならないことがあるかもしれません。元輝くんの場合は第一希望の学校には行けず、第二希望かそれ以外の学校に入学することになるでしょう。

受験に失敗したら人生終わり?

勉強する中学生の机

四月からの風景は、自分が思い描いていたものとちがった…。だからといって、それで元輝くんの人生は終わってしまったのでしょうか。

まさか、そうではありませんね。試験に不合格だった直後は、大きなショックでどうしてよいのかわからなくなってしまうかもしれませんが、学校には行かねばなりません。勉強も続けなければなりません。

新しい学校に行ってから、「ここは僕の第一希望ではなかった。本当は〇〇校に行くつもりだったんだけど…」と言うのはやめにしましょう。だって、なんだかんだ言っても、自分を合格させてくれた学校ですし、その学校を目指して勉強してきた人もたくさんいるはずですから。

とにかく、どうあがいたって、決まった学校に行くしかないのです。

それを、「本当はこんな学校に行きたくなかった」と思うよりも、「この学校とすっごく縁があった!」と思ってみませんか。

「この学校の先生や友達と出会うために、第一希望に行けなかったのだ。それほど、この学校と自分との縁が強いのだ」と思ったら、学校生活が楽しみなものになってきませんか?「随処に主と作る」とは、「どこにあっても自分に主体性を持つ」ということです。場所がどこであれ、主人公は自分です。学校が主人公なのではありません。

「自分の外側(周囲の環境)にある学校」についてあれこれと文句を言ったり評価したりするのではなく、与えられた場所でしっかりと自分自身を研磨するしかないのです。卒業するときの達成感をできるだけ大きなものにできるよう、前向きにエネルギーを使いましょう。

もしかしたら部活に燃えることになるかもしれない。生徒会長を狙ってみるのもいいかもしれない。毎日自分らしく努力していれば、ステージ(学校)は問題ではないと気がつくでしょう。自分の居場所は自分で作るのです。

「この学校にご縁があった」と考えよう

教室で勉強する男子学生

ベトナム戦争で平和と人道活動に尽力したティク・ナット・ハンという禅僧がいます。詩人としても活躍した彼の作品の中に、「一枚の紙に雲を見る」という詩があります。

「もしあなたが詩人であるなら、この一枚の紙に雲が浮かんでいることをはっきり見るでしょう。雲なしに雨はありません。雨なしに樹は育ちません。そして、樹々なしに紙はできません。ですから、この紙の中に雲があります。この1ページの存在は、雲の存在に依存しています…」

世の中はいろいろなものが自然に生かしあって存在しているということがこの詩から読みとれます。これを仏教の言葉で「縁起」と呼びます。一般的に「ご縁」のことです。

自分はこの学校に通うご縁があったのだ。ここで仲間たちと出会い、たとえトラブルや失敗に見舞われたとしても、みんなでそれを解決していく。そうやって自分をいちばん成長させてくれるのがこの学校だ。そんなふうに、前向きに受け止め学べたら幸せですね。

できれば、受験をする前からこの心構えを持ってしまうのはどうでしょう。合格したところがいちばん自分に向いている学校なのだと。だからどこも第一希望のつもりで受験するのです。

どんな学校にも、偏差値以外にいいところはあるものです。学食がおいしいとか、体育館が広いとか、図書室がきれいとか、制服がかっこいいとか、いいところを見つけようと思えば一つや二つあるでしょう。

さすがに一番行きたいところを優先に試験のスケジュールを立てる必要があると思いますが、どこに行くことになってもご縁なのだ、主人公は自分なのだと思って受験に臨めたら最強ですね。

水口真紀子

1979 年、北海道生まれ。法政大学在学中よりライター、フリー編集者として月刊誌などで活動。2007 年、東京都文京区小日向にある青龍山林泉寺にて在家得度。2009 年、同寺で仏前挙式。現在は三人の男児の母。

石井清純

石井清純

1958 年、東京都生まれ。駒澤大学仏教学部禅学科卒業。2000 年、スタンフォード大学客員研究員を務める。駒澤大学学長を経て、現在は駒澤大学教授、禅研究所所長。

ZENスタイルでいこう


ZEN(禅)スタイルでいこう! (キーステージ21)

10代の学生生活12ヶ月の悩みに、「禅」で説きます。
何千年、何百年と語り継がれてきた「禅語」には、この生きにくい時代、そして悩み多き世代の「考え方のヒント」が隠されています。
積極的「シンプル思考」を身につけて、上手に生きていこう、それが『禅スタイル』です。