幼児教育のプロが「今すぐやめてほしい」と語る2つの叱り方
頭ごなしにきつく怒ってしまったり、他の子と比較してしまったり…親はついついやってしまうもの。しかし、このような叱り方では子どもに上手く伝わっていないかもしれません。やめた方がいい叱り方について、げんきこども園理事長の向井秋久さんの書籍『子どもが伸びるほめ方 子どもが折れない叱り方』から紹介します。
※本稿は、 向井秋久[著]、モチコ[イラスト] 『子どもが伸びるほめ方 子どもが折れない叱り方』(Gakken)から一部抜粋・編集したものです。
今すぐやめてほしい、まずい叱り方
子どもを注意したり叱ったりするときは、伝え方を工夫しましょう。どんなに心に愛があっても、伝え方が悪いと子どもには伝わりません。本稿では、まずい叱り方を紹介します。もし、心当たりがあったら今すぐにやめてください。
頭ごなしに否定するのはNG
事情も聞かず、理由も聞かず「悪いことだから」と叱ると子どもは自分が理解されていないと感じてしまいます。
あるお家で、年長のお兄ちゃんが、妹の手を引っ張って泣かせました。親御さんは「小さい子をいじめちゃダメじゃない!」と叱りたいのをグッとこらえ「どうしたの?」と聞きました。すると妹がハサミに手を伸ばそうとしているのを、危ないと思って止めたのだ、ということがわかりました。親御さんは反射的に叱らなくてよかった、と心から思ったそうです。
このお兄ちゃんのようなケースばかりではありませんが、子どもの行動には必ず理由があります。頭ごなしに叱るのはやめましょう。叱る前に、なぜその行動をしたのか、子どもにきちんと理由を聞かなければなりません。
園の先生方に、子どもを叱るときどんなことに気をつけているのか聞くと、次のように答えてくれました。
・叱るときには、子どもの目を見て、行動を注意します。そのときに、子どもの気持ちを否定するのではなく、なぜその行動を起こしたのかという気持ちに寄り添い、気持ちを肯定して話をするよう心がけています。
・してはいけないことは、はっきりと伝え、「なぜいけなかったのか」「どうすればよいのか」を自分で考えてもらうようにすることを意識しています。
・頭ごなしに叱るのではなく、また同じことをしてしまわないよう、「なぜいけなかったかな?」と一対一で話ができるようにしています。
ほかの子と比較するのはNG
他人と比べて叱ると、子どもは意欲を失います。お子さんが99点だったら親御さんたちはみんなほめるでしょう。でもクラスのほかの子が100点で、わが子が99点だったとしたら……。
「100点はほめられるけど99点はほめられない」と思ってしまいませんか?
そうじゃないですよね。99点もほめられていいはずです。
では、50点でも10点でもほめてあげられますか。
「〇〇ちゃんは100点なのになんであなたは50点なの?」「10点なんて、恥ずかしい!」なんて言ったら、その子を全否定することになってしまいます。もちろんやる気なんか出るわけがありません。
「わあ、50点! 素晴らしいね。あと50点は伸びる可能性がある」「10点のテストよく見せてくれた、なかなかとれる点数じゃない!」ともし親がほめたとしたら、そこに否定はありません。肯定的なメッセージしかないので、次のテストはお子さんはさらに頑張れる気持ちが芽生えるかもしれません。
入試などの一度きりの勝負でない限り、テストや試験は年に何度か訪れるもの。1度10点をとったとしても次に挽回すればいいのです。
叱るときの伝え方のコツ
ほめるより、実は叱る時の方が難しいと私は考えています。どんなに愛がある言葉でも伝わらなければ意味がありません。伝えることより、何が伝わるかが大切です。子どもに合わせた伝え方を心がけましょう。
ここからは叱る時に意識したいポイントです。
興味の持てる声かけを工夫する
子どもの興味が持てるような楽しい言葉がけを考えてみましょう。
たとえば、子どもがおもちゃで部屋を散らかしてぐちゃぐちゃ。そんなときは、「何秒でお片付けできるかな? よーいどん」と声をかけるだけで、子どもはしゃぎながら動いてくれます。階段の上り下りを嫌がった時には、「上まで下まで何歩かな? 数えてみよう」と声をかけるだけで、たちまち数を数えるゲームになるのです。
でも、その子が興味の持てる声かけでなければまったく効果はありません。片付けをさせようと「何秒でできるかな」と声をかけても急かされたくない、自分のペースで過ごしたい子は動かないでしょう。もしかしたら、そのような子には「この棚におもちゃをきれいに飾ってくれるかな?」と言葉をかけると喜んで片付けるかもしれません。
階段の段数を数えるのも、数に興味が持てない年齢の子には、あまり有効ではありません。もしかしたら動物好きの子などであれば「猫さんになって階段を上ろう」などの声かけのほうがよいこともあります。
子どもは毎日変化(成長)しているので、日々「正解」は変わります。大切なのは、子どもをよく見て、興味を持ちそうな声かけをすることです。たとえば「猫ちゃんになって階段を上ろう」と声をかけたときと「ゾウさんになって階段を上ろう」と声をかけたときでは子どもの動きや表情はまったく変わってくるでしょう。
親として子どもの変化を観察しながら、子どもの目線で楽しく遊べるようになると、子育てはとても楽しいものになります。そんな瞬間こそが、子どもの学びの場であり、親子の絆を深める貴重な時間なのです。
Iメッセージで伝える
「Iメッセージ」とは、「私は~と思う」「私は~できると考えている」など、自分を主語にして気持ちや考えを伝える表現方法です。
たとえば、「早く寝なさい!」や「なぜこの問題が解けないの?」といった「あなた」を主語にした言葉をIメッセージに変換すると「お母さんは、早く寝ると朝もすっきり起きられると思っているよ」「パパは、君ならこの問題をしっかり解けると信じているよ」といった形です。
どうでしょうか、Iメッセージに言い換えることで、印象が変わってくると思いませんか。「あなたは~しなさい」「あなたはなぜ~しないの?」といった相手を主語にする伝え方ではなく「Iメッセージ」を使って伝えてみましょう。
肯定の言葉に変換して伝える
禁止やマイナスの言葉ではなく、肯定やプラスの言葉に置き換えて伝えることも心がけましょう。
否定的な言葉を使わない、肯定的な言葉を使うことに関して、ある先生はこう話してくれました。
たとえば、廊下を走っている子には「走ったらダメ」と言うのが普通ですが、その「走らない」という否定的な言葉を「歩こうね」という言葉に変えました。高いところに上るのも「ダメ、危ないでしょ」と言わずに、「下りてね、危ないよ」と言います。
たったそれだけですが、否定的な言葉を使わないので、自分も気持ちがいいし、子ども達も怒られているようには感じないため素直に聞いてくれます。周りの先生達も同じような声かけをするようになって「言葉を変えるだけでこんなにも違うんですね」と言ってくれました。
関連書籍
子どもが伸びるほめ方 子どもが折れない叱り方(Gakken)
日本一の規模の「ほめ育」導入園の保育園から「ほめる育児」のポイントと、子どもたちが伸びる・折れない言葉がけのポイントを具体的に伝授します。今や、「ほめる育児」はよく聞きますが、実際のところほめてばかりではダメ! しかり方のポイントも。